第14話 己の戦いは切れぬ糸のように
~特騎科控え室~
「ふん! まさか4人もやられるとはね。弱者が同じところに居ると思うと虫酸が走るね」
控え室に入り俺達だけになると、トールは溜め息を吐きながら言葉を発した。
「そんな言い方は無いんじゃない? 正直騎士科があんなに連携してくるなんて考えなかったし… 私達も油断してた。負けるはずないって」
それに続き、セリエも話し始める。
「ケイメンは、私達の盾になって脱落して…」
それぞれ先程の試合について思うところがあるようだが実戦であれば何も準備をしなかった勇夜達は、実力以前に全滅していた可能性が高かったと思っていた。一瞬にも長くも感じられる静寂の中で放送が鳴る。
"現時刻より5分後、会場にてトーナメントの組合せを発表致します。選手は遅れないように会場へ集合してください"
勇夜達は、各々席を立ち会場へ歩を向けた。
「よし勇夜! もし俺と当たっても全力の手加減無しで勝つからな!」
「こっちこそ」
ヴィルは笑いながら勇夜に拳を向け、それに答えるように勇夜もヴィルの拳に拳を合わせた。
"ここからは誰が相手になるかわからない…だが、俺も勝ちたい…強くなったことを証明するために"
勇夜は改めて気を引き締め会場へ向かった。
会場に入ると歓声が響く、そして全員が到着したのを確認すると司会と思われる人物が発声機を使い話を始めた。
「"それでは全員が揃ったようなので、トーナメント戦の組合せを発表致します。"」
トーナメント表が映晶石によって大きく写し出される。
第一試合 第一戦闘場
如月 勇夜 ー ソル・ソロンド
第一試合 第二戦闘場
アリサ・フェルム ー リース・ベネット
第二試合 第一戦闘場
トール・ケネデリス ー ジョー・シロウト
第二試合 第二戦闘場
セリエ・シュバル ー ヴィル・グラッド
「ご覧の通りとなります。尚、第一・第二試合につきましては、本会場の二つの戦闘場で同時に2組ずつで試合を行います。内容は映晶石でも映し出されますのでご安心下さい。では第一試合の選手2組以外は、控え室に移動して下さい」
ヴィル達は移動しながら勇夜に目を向け、頑張れというように笑顔を向けていた。勇夜は息を吐き、戦闘場に向かおうと歩を進めようとするが、1人近づいてくる人物がいた。
「おい欠陥、貴様も特騎科の端くれなら、奴に負けるなんていう醜態を晒さないことだ。 奴には借りがある。俺のものに手を出したんだ、最も貴様が負けても他の奴が倒すだろうが… 弱者が勝つのは気にくわない。だから勝って見せろ、貴様がただの欠陥ではないことを見せてみろ」
トールはそう言うと勇夜が話す前にその場から立ち去った。勇夜は少し複雑な感じはしたが、改めて気を引き締め自分の場所へ向かった。
~第一戦闘場~
「両者揃ったな。俺は第一戦闘場の審判を担当する者だ。ルールは今までと変わらない。結界を破壊するか降参するか気絶等で続行不能、以上で勝敗を決める。結界がある限り外傷は受けないが、体に影響を出す攻撃やダメージ事態は体に入るからな。致命傷じゃないからといって迂闊に攻撃を受けることはするなよ。戦闘ではそれが致命的なミスに繋がることもあるからな」
審判の人から説明を受け、2人はそれに頷いた。審判は邪魔にならないようにその場から離れ、勇夜も立ち位置に行こうとするが
「おい! 俺は勝つぞ。勝って俺の方が特騎科に相応しいとこの場の全員に証明してやる。俺はお前が相応しいと思わない。今この場にいるのもな! お前にはあるのか? 今いる場所にいる意味が、誰かを蹴落としてでも這い上がる理由が!」
「俺は…」
勇夜は直ぐに答えることは出来なかった。審判に催促され立ち位置に移動したが、言葉で答えることは恐らく勇夜には出来なかった。だがそれは怖じ気づいた訳なかったを
"俺の力で見せるしかないんだ。きっとそうでなければ誰も、俺でさえ納得出来ないだろうから"
そして、互いに武器を出し構える。しかし始まってもいないのに観客席がざわつきが出ていた。それは勇夜に対してではなくソルの武器に対してのようだった。ソルの武器は片手の直剣、そして盾だったのだ。聞いた話では盾を先程使用はしてなかったらしい。そして観客席の一部が何か話しているようだった。
ーーーーーーーーーーーーー
「ソル・ソロンド? 盾使い… ソロンド… まさか落ちた名家のソロンドか?」
「なんなのそれ?」
話し始めた男性の横から質問がとんだ。
「知らないのか? まあ確かに昔のことだしそこまで有名な話じゃないからな。 俺も知ってるってだけだし、 昔魔族との戦争がまだ本格的じゃない頃に人同士の戦争があって、その時に活躍したらしいのがソロンドらしいんだ。人との戦いにおいては負け無しだったんだと、ただ騎士団やギルドにも所属してなかったんだが、魔族との戦争が本格的になったときに引き入れられて、期待もされて本人も乗り気で、魔族との戦闘は初めてだったんだが隊を任されたらしい。だが、実戦にでて魔族には盾なんて何の役にも立たなかった。自慢の盾は切り裂かれ、隊はほぼ壊滅、元々防いでからの攻撃だったからボロボロ、必ず守ると言ったらしいが何も出来なかったらしい。そこからどんどん風当たりも評価も落ちていって、それでついたのが落ちた名家」
ーーーーーーーーーーーーー
話し声は勇夜には聞こえなかったが、目の前のソルはわかったのか、その表情は怒りそして此方に対する敵意にまみれていた。
「俺は、この盾でソロンドは戦えることを証明する! こい! お前を倒して俺は上にいく!!」
その言葉と同時に試合の開始を告げられた。
勇夜は盾との戦いは初めてだった。今まで避ける捌くやむなく受ける等ならともかく、あえて攻撃を受けるような戦い方は見たことがないのだ。だからといって攻めなければ活路はなく、悪戯に時間を与えるだけだと考えた勇夜は、一撃を狙いつつ次を警戒する動きを見せた。
右手に炎を纏わせ相手の動きを見る、そして
「ふっ!!」
勇夜は"瞬火"で間合いを詰める
"掌底煌波"
勇夜は初動で自信と威力のある技を放つ。ソルは案の定、盾で受けるつもりのようだ。よろけを取れれば追撃、カウンターがくるようなら即座に下がる! 勇夜はそのつもりだった…
だが、技を当てたあと見えたのはよろけた相手でも剣を振ろうとしている相手でもない…勇夜に迫る盾だった。
「っ!!」
勇夜は不意を突かれたが、次の行動を準備していた為に腕を交差し防御する。しかし思ったより衝撃が強く、後ろに大きく吹っ飛ばされた。そして体に鈍器で殴られたような鈍い痛みが勇夜を襲う。
「確かにお前の動きは早く、不意をついたり追撃するのは得意だろうが、俺にはただ単調な攻撃だ。それにお前の力じゃ俺の盾を破るなんて不可能だ! 他にも理由はあるがな」
勇夜は心の中で悪態をついた。少なからず攻撃が通ると思っていたこと、そして先程の盾での攻撃、防御したにも関わらずに体の内側まで響く衝撃に違和感を感じていた。相手は追撃せずにその場に留まっている。あくまでも自分のスタイルを全うする気なのかもしれない。
それから勇夜は自身の拳闘術を駆使し攻撃を繰り出しているが、時折入る盾の攻撃に流れを止められ、攻めあぐね余計なダメージをおっていた。しかし、盾の持つ能力を仮説として考えられるほどに情報を得ていた。恐らく衝撃を跳ね返すもしくは貯めて放出する、そんな辺りではないかと思っていた。
現に最初の一撃を狙った時の衝撃より後の攻撃に生じた盾の攻撃は、そこまでダメージを感じなかった。
「その顔わかったようだな、ムカつくぜ。だが、気づいたところでどうにもならない。これで決着だ!!」
ソルは身体強化をし、急に此方へ攻めてきた。どの攻撃が来てもいいように構えるが、それは間違いだったと気づいた。ソルはまだ互いの武器が届かない所で地面に向け、盾の下を叩きつけた。その瞬間勇夜の足元が振動し、地面から尖った土の壁が勇夜に向かって飛び出した。
「"盾式(たてしき)
「くっ!!」
胴体に向かって飛び出した物を何とか体を捩り避けようとしたが、左腕に諸に土の槍が突き刺さった。
「がっ!!あ"あ"ぁ」
とてつもない痛みが勇夜に走り左腕を抑える。見れば左腕は付いている。傷もない、だが左腕を動かすことは出来なかった。
「この一撃でやられることだけは防いだか…つくづくムカつく奴だ。だがこれでまともに動けないだろ。直ぐに終わらせてやるよ」
ソルは近づき踞っている俺に剣を向け振り下ろした。
「まけ…る…かぁぁぁ!」
勇夜は痛む体に鞭を打ち、"瞬火"を発動し無理やりその場から離れた。
「ハァ…ハァ…っ!」
直ぐに立ち上がり、左腕を垂れさせながら構えを取った。
「まだやるのかよ。 いい加減…諦めろよぉぉ!!」
ソルは今度は、盾と剣に属性強化で炎を纏わせていた。きっとこれが最後の攻撃になるだろうと肌で勇夜は感じ取っていた。
「はぁぁぁ!!」
勇夜はソルと同時に走り出していた。
"掌底煌波!!"
「それはもう効かねぇぇ!」
勇夜は右手を突き出し、出そうとした技を盾で思い切り右へ弾かれる。
「終わりだぁぁ!」
勇夜は炎の纏われた剣が振り下ろされるのをゆっくりと見ていた。体は弾かれた影響でまともな態勢じゃない。でもまだ負けたくないと強く想う。
「あ"あ"ぁぁぁ!!」
勇夜は浮いていた左足の踵辺りを爆発させ、振り下ろされていた剣を下から蹴りあげた。そしてソルの右手から剣が飛ばされ、今度はソル自身が驚愕の表情をし、態勢を崩した。蹴りあげた反動で空中で一回転し、前に態勢を溜め、先程盾から吸収した炎を含め右手に集中させた。
「くらえぇぇぇぇ!!」
"
右腕に圧縮した魔力を鋭く貫く槍をイメージし、形を生成。ソルに拳が当たり、振り抜くと同時に作り出した槍を放出した。
その攻撃は、最後にソルが展開した結界を容易く破り、そのまま自身を守ってきた結界も壊れた…その瞬間
「"試合終了! 勝者 如月 勇夜" !」
「勝っ…た?」
勇夜は勝利したことを改めて確認すると、今まであげたことのない雄叫びを上げ、勝利を噛み締めた。
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