第13話 剣騎祭 ~全てはここから~


~剣騎祭 当日~



"現時刻より、剣騎祭を開催いたします。観戦される方は一番ゲートへギルド及び騎士団関係者の方は二番ゲートへお入り下さい。準備が整い次第開始いたします。繰り返します。………………………"


学園の放送がなり、一般の人や関係者の人達が学園内に続々と入場し始めた。選手達はクラスごとの控え室で待機している。


~特騎科控え室~


「はぁ~、あと少しで開始か」


「どうしたんだヴィル。珍しく緊張してるのか?」

ため息を吐いたヴィルに勇夜は声を掛けた。


「まあな。試合もそうだけど今回親父が来るらしいんだよ。最近話してなかったから、少し緊張してな。勇夜は、誰か来たりするのか?」


「さあ…な」

勇夜は少し言葉を濁すように返答した。ヴィルは疑問に思ったようで勇夜の顔を見てきた。だが、何か家の事情があるという事を思い出したのか、言葉を飲み込んでいた。少しの間が空き、放送が始まった。


"これより特騎科、騎士科による勝ち残り戦を開始致します。残り8人になるまで戦場で戦います。行動不能となるダメージを受けた瞬間、敗者となり、結界外に弾かれますのでその後は教官の指示に従ってください。それではカウントを始めます。5.4.3.2.1 始め!"


開始の合図と共に足元の陣が光り、次の瞬間にはすでに移動していた。


辺りを見渡すと、開始前に説明のあった戦闘場の光景が広がっていた。構成は大きく分けて二つ、少し開けている土でできた場所、凹凸が多く見渡しづらい岩石と多少の山となっている場所だ。

捕捉にはなるが、試合の会場は観客席より離れている為、試合の内容は映晶石(魔力を流すと設置したその場の映像が流れる)と言われるもので中継され、観客席の人が見れるようになっている。

俺がいるのは前者だが近くには、見る限り他の生徒はいない。警戒しながら次の行動を考えていると遠くの岩石地帯より魔力弾が打ち上がった。続けて少し離れたところで二発、そしてまた二発別のところで打ち上がった。そして俺の場所からそう離れていない場所からも一発上がった。その行動について疑問に思ったが、それは直ぐにわかった。まず始めに上がった場所から小さく戦闘音のようなものが聞こえたその直後に放送が鳴る。


"特騎科 1名 脱落"


放送から少し間が空き、別のところで戦闘が始まったようだった。それと同時に、俺に向けて魔力弾が放たれ、咄嗟に右へ避けた。直ぐにその方向を確認すると、騎士科の生徒が1人現れた。相手を確認しながら周囲の警戒をすると妙な気配を感じた。恐らく目の前の相手以外にもいる可能性がある。


「お前なんか、俺だけで十分だぜ」

その言葉と同時に、相手が距離を詰めてきた。相手の得物は直剣、リーチはそこまでないが突きと斬撃の両方を警戒する必要がある。距離を詰められる前に身体強化をしていた為、突き出された攻撃を難なく避け、

そのままカウンターで右の回し蹴りを与える。相手はなんとか当たる前に防御姿勢を取ろうとしたが僅かに間に合わずに当たり、その場から少し吹き飛んだ。低い姿勢で溜め、追撃をしようとしたが後ろから風を切る音が聞こえ、横に転がり回避する。勇夜がいた場所には小さな切れ目が出来ていた。つまりは1人風属性だということだ。すぐさま構えを取り、勇夜は目の前の相手を確認するが、今度は無闇に突撃しようとせずに此方を睨み付けたまま動いていなかった。


"特騎科 2名 騎士科2名 脱落 "


そうこうしている間にも他の場所では、刻々と状況が変わっていた。そして勇夜の相手も牽制こそしてくるが、距離を詰めすぎず間合いを見て極力近づくことがなくなっていた。まるで時間稼ぎをしているかのように…


"このままだと埒があかない。少なくとも出てこない相手は、魔力弾からある程度の方向はわかってる。目の前の奴に一気に詰めてカタをつけてやる"


勇夜は"瞬火"で距離を詰め、右手に炎を纏わせて一撃で決めるために考えた技を発動しようとする。突然の行動に少なからず対応が遅れるはずだと思った。だが相手は焦った表情や防御を取ろうとせず、口元をニヤリとさせていた。嫌な感じがしたが今の勇夜は止まれず、だからといって相手も回避出来るような距離ではない。そのまま打ち抜こうとするが、相手は少しだけ体を反らした。それだけなのに勇夜の目の前には、拳大の水の塊が迫っていた。なんとか炎を纏っていた右手で防御したが直撃し、前に向かう力が強く、自分から当たりにいったようになってしまった為に凄まじい衝撃が体に走り、勇夜は後方へ大きく吹き飛ばされた。

体制を整えようと倒れた体を起こそうとするが、ズキッとする痛みが走り勇夜は直ぐに動くことが出来ずにいた。結界が壊れていない所を見ると致命的なダメージにはならなかったようだが、結界もダメージを完全に無くす訳じゃない。少なからず体にダメージは入るのだ。


「ッ!!」

まだ体を自由に動かせず、勇夜なんとか頭を上げるとそこには先程戦った相手ともう1人別の生徒がいた。2人は此方を見ながら笑い、何かを話していた。そして1人が近づき、止めを指そうと剣を振り上げた。なんとか動こうとしても回避が間に合わない。だが相手の剣が振られることはなかった、それは相手の腕に短剣が当たり、体制を崩していたからだった。誰かが近づいてくる気配を勇夜は感じ、それと同時に目の前の相手がもう1人の所まで下がっていった。


「……無事?」

勇夜は痛む体を起こし、声のした方を見るとそこにはリースが近くまで来ていた。


「助かった。ありがとう」


「…別に…私はトール様の指示で…残った相手の状況を見に来ただけ…助けたのは…偶々…」


「それでもいいよ。だが、気を付けろ。もう1人隠れてる筈だからな」

理由はともかく、勇夜は助けられたことに感謝し今の現状に警戒しながら話す。


「あなたを狙ってた相手なら…さっき倒した。…だからあとはそこの2人だけ…こっちは4人やられて向こうはあと5人…トール様達は固まって動いてる」

リースから他の場所での状況を伝えられ、思った以上に戦況が変わっていたことを知った。特に此方側が4人やられていることに勇夜は驚いた。誰がやられたのか… そして関係はないが普段殆ど無口なリースがよく話をしてくれたことに若干の驚きがあったが、戦闘中なのですぐに頭を切り替えた。


「1人はやる…相手が1人なら…勝てるでしょ?」


「ああ、問題ない」

リースはそのまま、勇夜に止めを指そうとした相手に向かい走り出した。それに合わせ、勇夜も残った1人に対し構えを取り、呼吸を整え改めて強化して相手に向かって動いた。


「くそ!! でもここでコイツらを直ぐに倒せば向こうの援護に行って予定以上の結果になる。少なくともお前は俺が!」


「お前達が勝とうとする気持ちも、俺の事を嫌いな理由も何となくわかるよ…でも…俺だって負けられない。勝って前に進むんだ!」

互いの意思を言葉にし、戦闘が始まった。


勇夜は"瞬火"で距離を詰める。相手は反応し、火弾を勇夜に向けて放った。普通なら回避に切り替えるか直撃になるかだが、勢いを殺さずに勇夜は左手を前に向けた。当たった瞬間に火弾は吸収され消える。


「な!!」

勇夜の事を調べていなかった相手には、何故消えたのか解らずにただ掻き消えたように見えたようだ。


「はぁぁぁぁ!!」


"如月流 拳闘術 掌底煌波"


吸収した魔力で強化した技を勢いそのままに、相手を爆発させる。防御が間に合っていた。その為致命とはならなかったが、後方に飛ばされていた。さらに追撃するために"瞬火"を使い懐に入る。


"参花撃さんかげき"


右の突きから左で腹部に横から打撃、右側に体が捩れた所に上段の蹴りを与える。そして少し後方に下がり、右手に溜めた炎を圧縮させるイメージをする。


「これで終わりだ! "炎華砲えんかほう"ォ!!」

圧縮した炎を右手から放出し、相手に直撃した。その威力は強化している分数段上がり、直撃と同時に小規模な爆発を発生させた。結界は破壊され、相手はその場にいなくなっていた。


"騎士科 3名脱落 よって現時刻を持って、第一試合の終了を宣言します。直ちに戦闘を停止してください"


倒したと同時に放送が鳴ったので、勇夜は辺りを見渡すとリースの方も終わっていた。一息ついているところを見ると早く決着がついていたようだ。


"これから、戦闘場にいる選手を戻しますのでその場に待機してください"


放送が入り、少しすると地面が光り会場に戻っていた。戻った会場からは歓声が響いており、勇夜は勝ったことを改めて実感した。

ヴィル達も居ることを確認し、目が合い此方に親指を立てて笑っていた。


"それでは、勝利者8名の発表を致します。特騎科 如月 勇夜、ヴィル・グラッド、トール・ケネデリス、セリエ・シュバル、アリサ・フェルム、リース・ベネット、計6名 続いて騎士科 ジョー・シロウト、ソル・ソロンド

計2名 以上の8名となります。 続いての試合は、8名によるトーナメント戦となり、30分の休憩後に組合せを発表致します。選手は各教官の指示に従い、速やかに移動してください"


勇夜達は、話を後にその場から移動した。

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