第12話 自身の評価は結果でしか見られない


~現在、特騎科クラス~



「遂に明日から、剣騎祭が始まる。今回の内容は例年と違う試合となった。例年であれば始めからトーナメント式で行っていたが、最初の試合は、特設戦闘場における20人の生き残り戦となった。選手は各々の開始場所からスタートし残り8人になるまで戦ってもらう。誰かと組んで戦う、単体で戦うのも自由だが、常に集中しなければあっという間にやられてしまうだろう。残るのは8人だけだ。周りが味方だけということはない。 以上が第1試合の内容だ」

ラルクの発表にクラスがざわついた。例年までの内容を知っている者からすれば根本から変更されているからだった。勘の良い数人の生徒は気づいたが、これはほぼ実戦で有り得る戦場を模しているようで、単なる生き残り戦ではなく、自身の立ち位置から様々な思惑が交差する戦いでどのように動くか。本格的に選別するのではないかと感じていた。


~代表自由時間~


「さっきの教官の話だけど、前に姉さんが言ってたことと関係ありそうだよね」

勇夜達はいつもの4人で集まり明日の剣騎祭について話し合っていた。その中でセリエが気になっていたことを口に出した。


「ん? ああ、俺と勇夜は直接聞いてないが、サレリアさんが言ってた戦争の為の選別ってやつか」


「そうそれ、正直今回の1試合目は特にそういった事が関係してると思うの」


「考えすぎ…とは言えないよな。おそらくセリの言ってることはそうなんだと思うしな。戦争なんて考えたくもないが」

セリエとヴィルの言ったこと思っているのは、当然誰しも考えていることだと勇夜自身も感じていた。勇夜達は外の情報を魔報機でしか知ることはできない。戦争や魔物に関することも授業で習うだけのものでしかなく、勇夜達が実際に今現在見ることや知ることはない。


「おっと、特騎科の代表は呑気にお喋りとは、明日が本番なのに余裕だな」


「そっちは、ぞろぞろと団体でお出ましとはね。お前達は今回の変更に疑問はないのか?」

ヴィルが、彼らに言葉を返す。


「ふん! 裏の考えなんて俺達には関係ないね。ただ勝ち残ること、勝って俺達が有能であることを証明する。それだけだ」

改めて騎士科の面々を見ると目にはこちらに対する敵意と闘志に溢れていた。


「さあ行くぞ。俺達はお前達と違って、遊ぶ暇はないんだからな」

そういうと彼らは踵を返し、この場から立ち去ろうとする、


「一つ言っておく。俺の名前は、ソル・ソロンド だ。明日、お前達を叩きのめす、いつまでも自分たちが上だと思うなよ」

真っ赤な短髪で、オレンジ色の瞳をした ソルという彼は、今度こそその場から立ち去った。


「行ったみたいだね」


「結局なにしに来たのよ、あいつらは」

アリサが言葉を発し、続けてセリエも声を上げた。


「何だろうな… ただあいつらの目は本気で勝利しか見ていないようだった」


「確かにな。でも本来ならあれが正常で、あれこれ考える俺達が異常なんだよな。少なくとも強さと勝利という結果でしか俺達は評価されないんだ。考えるのは、勝って前に進んだときに、また考えれば良い」

勇夜の感じたことに、ヴィルも自分の考えを話し始めた。

先のことより、まず目の前の試合に勝つことだと、俺達は改めて気を引き締め明日の為に準備を始めた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ちっ! いちいち癇に障るよな特騎科の連中は!」

騎士科の1人が声を上げた。


「実力があるのは確かだ。 だが明日、俺達が勝つ。特騎科の予備なんかじゃないって証明してやる」

ソルは、その場の騎士科にも自分にも言い聞かせるように言葉を発した。


「やっぱりソルは頼もしいな。でも勝ち残れるのは8人だけだぞ」


「ああ、だがだからといって…」

騎士科の1人が現実を突き付けるようなことを言い、ソルはそれに言葉を発しようとしたが、他の言葉に遮られた。


「だから、俺達が全力で勝たせるようにサポートする。ソルとジョーの2人をな。俺達騎士科の中じゃトップだし、バラけて勝てる相手じゃない」


「お前ら…」

「それによく考えてみろよ。20人いて、勝ち残り8人に騎士科が2人もいたら凄いことだろ。これから騎士科も注目を浴びて、俺達も利益あるじゃんか。だから今回ソル達に俺達の全てを預ける。頼んだぜ、騎士科の代表の代表!」


「わかった。俺達は必ず生き残って次に行く。だから全力のサポート期待してるぞ」

騎士科の結束が更に高まっていた。そしてソル達は自分達の肩にのし掛かっている重圧を重荷どころかそれをやる気に変えていた。彼らは、拳を合わせながら明日の準備を始めた。


剣騎祭まで、あと少し…

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