第10話 剣騎祭に向けて ③
「さあ、各々別れて始めていきなさい」
"さて、めぼしい子達はいるかな… へぇ、何人かは今でもうちの末端よりも力があるようね。後は、あ!!セリちゃん! 相変わらず可愛いいよう。相手は…あの子もこの世代にしては、落ち着いていて実力も感じられる。でも、セリちゃんは負けないもんね!”
サレリアの脳内では様々な事が巡っていた。そして、2人の戦いもこれから始まろうとしていた。
「よろしく…」
「ええ、よろしく」
リースが言葉を発し、セリエはそれに答える。互いに騎装環から武器を呼び出す。セリエはいつもの剣を構え、リースを見ていた。リースが使用する武器は二つの短剣であった。形は両刃ではなく片刃となっており、がっしりとした構えではなく、少しだけ腰を落としいつでも動ける身軽な構えを取っていた。
"リースの戦い方は、よく知らないのよね。いつも目立たないようにしてるのから、見たことがない。まずは牽制しながら様子見かな"
セリエは、そう考えながら自信から攻撃を仕掛けた。
「はあっ!!」
身体強化をし、距離に入ると下から上、左から右へと斬る。速度を生かしつつ連撃を与えていく。リースはそれに対し、左手の短剣で上手く受け流しつつ、対応の難しい攻撃には右手の短剣も使い攻撃を凌いでいた。そして攻撃の合間を抜って、右手の短剣で素早く反撃を行う。セリエは反応し、攻撃と防御を上手く切り替え対応していた。
互いに速度を重視した戦い方の為、少しの間膠着状態にあった。そして変化は急に訪れた。リースは受け流していた攻撃を両手の剣で受け止め弾き、少しその場に屈み、後ろに回転しながら攻撃し距離を取る。セリエは防御が間に合わずに攻撃が当たってしまうが、何とか後ろに飛ぶことで軽微なダメージに抑えることが出来た。
「くっ! やるわね。ここまで動けると思わなかったわ」
「セリエ様もさすが… でも…まだ終わってないよ」
セリエはその言葉を疑問に思った。リースの手にはいつの間にか短剣が1本しかなかった。そして左手を引く素振りを見せた瞬間に、後ろからヒュッという風を切る音が聞こえた。ほぼ無意識だった、嫌な感じがして頭で考えるよりも先に体が動きその場でしゃがむ。頭の上で何かがギリギリ掠めて通り過ぎていくのを感じた。
「あぶなかった~。随分といやらしい攻撃してくるんだね。今のは武器か貴女の力が関係してるのかな?」
「戦闘中に…手の内を明かすのは愚策…終わったら…教えてあげる」
「まあ当たり前ね。貴女は貴方のご主人様とは、違うってこと…ね!!」
セリエは、リースとの距離を詰める。同じような事が繰り返されると思いきや、リースは先程と違い防御に徹していた。
"何かの罠?それとも…ああもう!! あれこれ考えすぎるのは性に合わないよね。何か策があっても、この一撃で決める!"
今度はセリエが攻撃を止め、後ろへ距離を取った。そうして腰を落とし構え、自身の剣へ属性を纏わせそれをどんどん強くしていき、大きく激しい水流の剣となった。
「これやると魔力殆どなくなるから、もし防がれたら私の負けね」
セリエは一呼吸し、そして
「"水奏閃"!!」
セリエは地面をなぞるように自信の左側を下から上へ剣を振り、そのまま右側も同様に剣を振る。それは水の斬擊となりリースの両脇を走り、斬擊の通った地面からは水が噴き出し一時的な壁の役割をしていた。
リースは、この攻撃に戸惑い隙を作ってしまう。直ぐにセリエへ視線を戻すが、すでに眼前まで距離が詰められていた。
「はぁぁぁっ!!」
距離を詰めたセリエは、勢いそのままに剣を横に薙ぎ、辛うじて防御を取ったリースの剣を弾く。
「ふぅ…私の勝ちね」
リースの首元に剣を突き立て、勝利を宣言し、リースも手を上げ肯定した。
2人は場所を移動し、先程の話をしていた。
「それじゃあ、さっきの種明かししてもらおうかな」
「えっと…私の短剣には…目に見えにくい魔力の糸が付いてて…込める量で長さが変わる。あとは、私の属性が風だから…短剣の操作をしつつ動かすだけ…離れるほど、魔力の消費と集中が必要」
セリエの疑問にリースは、淡々と答えた。
「そうなんだ。結構厄介な攻撃なのね。ありがとう! そういえばアリサ達は…… あっ! あっちも終わったみたいね。 それじゃあ私は行くね。また良ければ組もうね」
そういうとセリエは、アリサのもとへ歩いていった。リースはその場に1人になったが、直ぐにトールが近づいてきた。
「そっちはどうだったんだい?」
「ごめんなさい…」
トールの口から出された言葉にリースは謝罪をした。リースにとって負けることは主人に恥をかかせるようなことだと思っている為の返答だった。
「相手はシュバルだからね。簡単にはいかないさ。もしお前に負けたくない気持ちがあるなら、次強くなって勝てばいい…それだけだ」
トールはそう言うと、リースの頭を優しく撫でた。その光景だけを端から見ると仲の良い兄妹のように見えていた。
「アリサ! おつかれ~」
アリサが座っていると、終わったのかセリエがこちらに来ていた。
「お疲れ様。セリエはもう終わってたの?」
「ついさっきね。どうだった?」
「負けた…ケネデリス君に勝てると思ったら誘い込まれてあっという間にね」
「そう…確かに実力だけなら学年トップでもおかしくないから…あいつは」
アリサとセリエが話しているといつの間にか他のところも終了していたようだった。
「この場での戦闘は、全て終了したな。今回の勝敗だけで代表が決まるわけじゃないが、ある程度のめぼしはつけさせてはもらった。決定までの実技は、私だけでなく他のギルドや騎士団の団員も見る予定だ。しっかりと励めよ。では解散!」
「それじゃあ私達も出てヴィル達と合流しよう。もうクラスに戻ってるのかな?」
「どうだろ。とりあえず行ってみよ」
アリサ達もその場から立ち去ろうとする。
「そこの4人少し待ってくれ」
その声に反応するとサレリアがアリサ達とトール達を呼んでいた。他の生徒達が反応しなかったのも、アリサ達だけに意識を向けて声を上げていたからだとその場のアリサ達は思った。
「セリちゃ……ん"ん! セリエ シュバル、アリサ フェルム、トール ケネデリス、リース ベネット、君達の戦いを見て他の生徒よりも実力が抜き出ていた。今日の結果を見る限りほぼ確実に代表として選ばれるだろう。正直な話をすると今回何故このような形を取ったのか、それは現在国の問題として上げられている事が原因なんだ。ここ最近、魔物の動きが活発になり危険な状態になりつつあり、いずれ戦争になる可能性が出始めたんだ。それにともない実力のある者を優先的に育て、そして…」
サレリアの言葉が少しの間止まった。
「なら今回の剣騎祭は、戦争に参加させるための人材を探すってことなの?」
セリエは、この場に残った者が考えていたことを口にした。
「…そうだ。もしこの話を聞いて嫌になったのなら、選ばれても断ったっていい。国がどう言おうと私はそれを尊重させる。だから…」
「下らないね。俺が戦うのは自らの場所を守るために強くなることだ。もしそれが脅かされるならそれと戦うだけだ。誰に言われるわけでもなくね」
サレリアの言葉を遮り、トールは自らの考えを口に出した。その言葉にリースそれにセリエも頷いていた。
"私も何も出来ずに逃げて後悔するのはもう嫌だ。"私も皆と同じように頷いた。
「そう…なら、私からはもう何も言うことはないわ。全力で剣騎祭まで頑張りなさい。時間を取らせてごめんなさいね。もういっていいわ」
サレリアは最後に自分の雰囲気を和らげアリサ達に激励した。アリサ達はそのままこの場をあとにし、それぞれ移動していった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
~医務室~
「はい!これで治療は終わり、今回みたいな魔神経の酷使を直すには自然治癒しかないから今日は無理に魔法使わないようにね」
保険医から治療を受け、先程の酔い等も抜け挨拶しながら勇夜は医務室から出る。
「大丈夫だったか?」
医務室を出るとヴィルが廊下で待っていた。
「ああ、さっきより楽になったし大丈夫だ」
「良かったな! でだ。あの力について教えてくれるんだろ?」
「わかってるよ。あれは~」
勇夜はヴィルに手甲について要点だけ説明した。
「なるほとな。リスクはあるが得られる力も絶大か…なぁ、ちょっと考えがあるんだが聞くか?」
「内容による」
「えっとな、こうすれば……………」
ヴィルは勇夜に自分の考えを話した。
「なるほどな。だが可能か?」
「まあ、その辺は任してくれ。俺もその力の完成見たいしな」
勇夜はヴィルの考えを受け任せることにした。クラスに戻る間に話し合い、勇夜は強くなることに手応えを感じながら剣騎祭に向けて歩みを進めた。
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