第9話 剣騎祭に向けて ②
アリサ・セリエ side
「んー!」
模擬戦闘場に移動したアリサ達は、準備運動を始めていた。
「アリサは、休みの日は何してたの?」
セリエがアリサに話し掛けてきた。
「家にいたよ。魔法の練習をしてた」
「そうなんだ……普段は、遊びに出掛けたりとかそういうのはするの?」
「ん~と、殆ど家からあまり出ないかな。人の多いところは苦手だし…」
「そっか… そういえば、アリサは実技の相手って決まってる?まだなら、また一緒にしようかなって」
「決まってないよ」
「なら………」
セリエの言葉がつまった。理由はこっちに威圧しながら近づいてくる人物がいたからだろう。
「失礼するよ。シュバルと…フェルムだったか」
「こっちに話しかけてくるなんて珍しいじゃないトール。何の用」
近づいていたのはトール・ケネデリスだった。アリサはこの人とあまり関わりたくないと思っていた。理由は分からないが勇夜に対しての態度とかが人として気に入らないのだ。
「なに、一つ提案があってね。そこのアリサ・フェルムに実技で相手をしてもらおうとね」
トールから出た言葉は、予想できなかったことだった。
「どうして私が、あなたと戦うんですか?」
「この間、グラッドと戦ってるのを拝見してね。複合魔法が使えるんだろ? 他の相手はつまらなくてね。どうだい?」
あの場面を見ていたようで、対抗心というよりは興味に近いものを感じた。
「へぇ、私が相手でもつまらないと言えるのかしら」
それに対し、セリエが反応してトールに反論した。
「君とは前に戦ったとき、俺が勝った筈だが」
「前と一緒にしないでほしいわね。その上がった鼻を挫いてあげてもいいのよ」
"グラッド君もそうだったけど、セリエもケネデリス君のこととなると熱くなるみたい"
「そもそも…」
トールの言葉が止まったので、アリサは見てみるとクイクイっと袖を引っ張っているリース・べネットがいた。トールはそれを見るとリースはフルフルと首を横に振っていた。
「はぁ…わかったよ。 で、どうなんだい?相手をしてくれるのかい?」
「いいですよ。期待に応えれるとは思わないですが」
アリサは了承することにした。少なからずアリサ自身トールの戦闘に興味はあったようだ。それと同様に何か感じるものもあったみたいだが、首を振って考えないようにしていた。アリサの返答に満足したのか、トールは少し笑っていた。
「ちょっと! 何もこんなやつとやらなくても」
セリエは、反対みたいだ。
「そうだったな、君の相手がいなくなるか。ならリース、君がシュバルの相手をしろ」
トールの言葉にリースはコクリと頷き、セリエの前に立って手を引っ張って移動を始めた。
「ちょっとリースいいのアレ、ケイメンもあなたもトールに甘過ぎなんじゃないの?」
「…トール様は…いい人…私は救われた。トール様は命の恩人…何かの理由があったとしても構わない。だから私はトール様の剣…ただそれだけでいい」
あまり感情の籠らず抑揚のない口調で、リースは話始めた。
「はぁぁ… ホントにアイツの事がわかんないわ」
「注目!! この会場に集まる者は全員揃ってるか? 私はここの審査員を任された。サレリア・シュバル だ」
会場に凛とした声が響く。威圧するかのようなキリッとした目に赤みの強い少し長めの髪を後ろで束ねた女性に視線が集まった。
「リア姉様?! なんでここに?」
少し離れた場所でセリエが驚きの声を上げていた。サレリアとという女性が急にセリエの方に向くと、その場から消えた。
「セリちゅわぁぁぁぁぁん」
気が付くとセリエの目の前に現れ飛び付こうとしていて、慣れた動きで避けられたことで、前からダイブし、地面を滑っていた。
近くにいたリースは小さく悲鳴を上げ、横に動いたので被害は無かったようだ。
「なぁ」
そんな中、一人の男子生徒が声を上げた。隣の生徒がどうしたのか見ると、震えた声でこんなことを言っていた。
「あの女の人が話始めて、急に消えたと思ったら後ろで地面を滑っていたんだ。何をいってるか解らないかも知れないが…」
他の生徒も同じように思っていたのかゴクリと唾を飲んだ。
そうしているとサレリアは立ち上がり、何事も無かったような表情で生徒の方を向いた。
「コホンっ! ではこれから試合を始めていただく訳だが、何故私が審査員として派遣されたか疑問だろう。それは、ある事情から今回の剣騎祭で有能な人材を発見するためにギルド、騎士団から審査員を派遣し、選定することになったからだ。要は学園の中だけでは、まともな評価をされずに活躍の場が無くなるのを防ぐための措置となる」
へぇーと周りから声が上がっていた。
「さあ、各々別れて始めていきなさい」
登場から驚きで呆然と立っていた生徒も自身の場所へと散っていく。
「俺達も始めようじゃないかフェルム」
アリサの隣にいたトールが移動を促してきた。アリサ達は移動を始め、場所に着いて立ち位置に立って騎装環から武器を呼び出し構える。
「いつでもどうぞ」
アリサは準備が出来たことを知らせる。周囲の生徒達も始めたらしく、戦闘音が響いている。
2人は、動きを探るように動かずにいたがパリッという乾いた音がした瞬間、トールが動き出し一瞬のうちに間合いが詰められた。
息を吐く音と共に刺突が繰り出される。アリサは素早く自分の剣を盾にし、流すように捌く。そのままの勢いで剣を薙いだが、トールは、また乾いた音を出しその場から逃れていた。
「初見で、俺の"
「ぎりぎりだったけれど、少し攻撃をずらしたんですよ。お陰で初撃は何とかなりましたけど…」
「光の認識阻害か、まあいいだろう。ちなみに俺の属性は見ての通り雷だ。ここから先は、先程のように行かないぞ」
そう言うとトールは再び構え、今度は体全体に雷が走っていた。再び2人の剣をが打ち交わされる。始めは何とか防げていたアリサだが、速度はトールが圧倒的に上、致命的な攻撃はないが、徐々に攻撃が掠り始めた。その中でアリサが攻撃を受けるようになった辺りからピリッとした痛みが走っていた。
"何だろう?さっきから体の中に電気が走ったみたいな痛みがある。それに少しずつだけど体の動きが鈍くなって、攻撃に反応が遅れる。どうして?"
アリサは、自身の身に何かが起こり始めたことを疑問に感じていた。
「やっとか。今、君が思っていることを言おうか。何で少しずつ反応が鈍くなっているのか?だろう。教えてやろう、俺は体以外にも剣に雷を纏わせてる。その攻撃当たる度、相手に雷を当ててるんだ。雷は体を走り、神経を麻痺させ動きを鈍くさせるんだ。まあ、名付けるなら"
トールは攻撃を一度止め、アリサに起きていることを説明し始める。
「あえて欠点を言うなら、直接攻撃を当てることと、消費が激しいから長くは持たないってところか」
「自分から欠点を言うなんて、余裕ですね」
「まあ、これが決まればもう逃げることは出来ないからね。君がこのまま何もしなければだが」
こうしている間にも攻撃してくれば、終わりなのに動かなかった。恐らくアリサの複合魔法待っているんだろうと、アリサはそれを感じ取っていた。
アリサは深く息を吐き、集中する。
"グラッド君の時は偶発的に反発せずに複合出来たけど、言うほど簡単じゃない。混ぜ合わせるには相当の集中とコントロールが必要になるし、この間の休日で少しは出来るようになったけど、まだ完成はしてない……けど"
アリサの雰囲気が変わったからか、トールは少し笑っていて、発動させるのを待つ姿勢だ。時間をくれるなら甘えようと、アリサは自身に宿る2つの魔力を合わせるイメージをして集中する。
"いい感じこれなら"
「はぁぁ!!」
力を込め、体に纏わせた。しっかり発動できたことを実感し、アリサはトールに向かって構える。
「それが君の全力か…いい威圧感だ。その魔力色、光はわかるがまさかもう1つは闇か? ハハハ!稀な属性を2つも持ってるとは、さあ…続きを始めようか」
アリサに合わせ、トールも改めて属性強化をした。動き出しはほぼ同時だった。速度はトールが上のままだったが、光を纏うことで上がった防御をさらに闇で強化し、加えて攻撃も先程よりも破壊力が増していた。
「遅雷刺の影響が無くなっているみたいだね。それもその強化のお陰かな?」
「光の治癒活性を使ったんですよ。治癒は苦手なので完全じゃ無いですけど闇で強化して効果を上げてるんです」
2人の剣戟は、激しくなっていた。トールは決定打に欠けているために、端から見るとアリサが押しているように見える。
"よし!行ける。そろそろ決めたい。正直体がきつい、まだ発動してからそんなにたってないのに、負担が凄い。一気に決着をつける"
アリサは、どんどん前に進みトールを押し込んでいった。冷静さがあまり感じられないがそれでも複合による恩恵は、大きかった。トールは耐えきれなくなったのか、雷動を使い大きく後ろに下がった。アリサはそれを追い距離を詰める。しかしトールは、あろうことか自身の剣をアリサに向けて投げた。アリサは間一髪で避ける。
「あなたの剣は無くなりましたよ。これで終わりです!!」
アリサは、試合を決めるため属性を纏った剣を振り上げる。だが、トールはこれを横に飛ぶことで紙一重で避けきった。
「雷槍二連!!」
トールは雷の槍を生成し、2本同時に放った。
「ふっ!!」
アリサは、放たれた槍を一薙ぎて切り裂いた。
「複合魔法…確かに強力だ。このまま続けていれば負けるのは俺だろう。だが、今回は勝たせてもらう!」
アリサがトールの姿を確認すると、右手を前に出し、アリサに向けて何かをしようとしていた。
「これはまだ試作なんだがな。威力は、終わらせるのに十分だ! "
トールから閃光が放たれたと同時に。
「きゃぁぁぁぁぁ!」
アリサは、トールから放たれた電撃を諸に浴びていた。そして結界が破壊された。
「なに…が…」
アリサは何が起きたのかわからなかった。ただ後ろを振り返るとトールとアリサの直線上にトールの剣が刺さっていた。
「当たりだ。この魔法は、剣を的として雷の終着点を作り、その直線上の相手を攻撃する俺が考えた魔法だ。俺の中では最速、避けるのは難しいだろうな」
結界があってよかったとアリサはゾッとした。生身であの威力は耐えられない。複合は切れてなかったからその上からでも致命的なダメージだったということだからだ。
「君は、充分に俺の期待に応えたさ。それでも俺の方が上だったということだ。君の実力なら代表に選ばれるだろう。その時までもっと完璧にして闘おうじゃないか」
トールはアリサに言いたいことだけ言い、壇上から降りた。
「あくまで上からですね…次は勝ちますよ絶対に」
アリサは治癒をかけ壇上を降り、座り込みながら呟いた。
辺りではまだ戦闘音が続いていた。
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