第8話 剣騎祭編 ~剣騎祭に向けて


休日が終わり、また週が明ける


「おはよう、今日から実技の授業を剣騎祭の選定期間為に力を入れていくわけだが、実技だけじゃなく、他の授業もしっかりと受けるようにな」

今日も、いつも通りラルクの一言から始まる。話にあったように今日からの実技は、剣騎祭の代表決定に大きく関わってくる。制限のない戦闘授業の為、現在の個々の実力が差となって現れてくる。年に一度、計3回の特別な行事に選ばれるには実力は言わずもながら、普段の成績も考慮されるようだ。要は、力があっても使う側が問題があるならダメなのだ。

勇夜は新しく手に入れた武具のことを考えていた。あの後少し試してみたが、あまり上手くいかなかったようだ。とにもかくにも使い物にならなければ意味がない。その為にも…


「勇夜、今日の実技一緒に組もうぜ」


「ああ、俺も頼もうと思ってたんだ」

話し掛けようとしていた勇夜に先にヴィルの方から話してきたので、それに答える。

そして時間は進み、実技授業となった。


「全員集まったな。じゃあ実技始めるぞ。各々分けられた模擬戦闘場に行って始めるように。 実技授業中は、各場所に代表選定の審査員が付くので、気を抜かないようにしろよ。何かがあればすぐ報告も怠るな。 以上!」

クラスの生徒達が移動を始めた。今回勇夜達の場所は、第一模擬戦闘場だ。何人かの生徒と一緒に移動し場所に着く。まだ審査員は来ていないのか誰もいない。とりあえず勇夜達は準備運動を始めた。


「気づいたか?」

ヴィルは、何かに気づいたように勇夜に話しかけてきた。


「審査員のことか? 確かにいないのはおかしいな。ただ…」


「ああ、なんか視線というか違和感?があるよな」

ヴィルの言うとおり、勇夜も感じた違和感があった。模擬戦闘場に入ったときから品定めするような感じがあった。


「審査員て、学園の教官とかじゃないのか?」


「さあな、よく分からないが始めて良いんじゃないか。とりあえず俺達は始めようぜ」

勇夜達は、結界の張られている壇上に移動し、自身の武器を呼び出した。


「勇夜、その黒い手甲どうしたんだ?」


「これは、実家に行った時にもらったんだ。まだ使い慣れてないから使っていかないとな」


「は!! 俺は実験台ってか。いいぜ、その力見せてみろよ」

互いに構えを取り、2人は息を合わせたかのように同時に動き出した。

そして舞台の中央で、白銀のグレイブと黒く2本の白いラインが特徴的な手甲が重なり火花を散らした。互いに、まずは身体強化で攻める。長武器と短武器、相性は悪いが実技の戦闘で、お互いの手は読めている。


「今まで、俺に勝てたことないだろ。代表選定だろうと手加減はしねぇ」

ヴィルの戦闘は、武器の扱いだけじゃなく、反応とそれに応じた体の使い方が上手い。少し距離が離れると突きと薙ぎが、それを捌き懐に入ろうと動けばそれを察知し、後ろに下がりその反動を利用して、回転しながら薙ぎ払いをしてくる。勇夜の手札を知り読んでいるからこそ、対応してくるのだ。

これを繰り返してる限り勇夜に勝ちは見えずらい。ヴィルの読みを覆す動きが必要だと思っていた。その為にも、勇夜はこの手甲を使っていかなければと感じた…


"さあ、いくぞ"


「火弾!!」

勇夜はヴィルの範囲から少し後ろに下がり、魔力弾を放つ。ヴィルは属性強化をしていたのか、それに反応し避けた。避けた先にもう一度火弾を放つ。今度は避けずに武器を強化し、火弾を薙ぎ払った。


「はっ!! そんな攻撃じゃいつまで立っても…っ!!」

火弾を薙ぎ払った際に生じた僅かな意識のズレを利用して、勇夜は足裏を小爆破"瞬火(しゅんか")し、瞬時に距離を詰める。


"火装連弾(かそうれんだん)"


両腕に火を纏い、ヴィルに向かい打つ。風纏いで、なんとか反応は出来たようだが、勇夜の攻撃が一発入る。


「やるな。 ただ、同じ攻撃はさすがにもう受けないぜ。 じゃあ、次はこっちからいくぞ。 風斬!!」

ヴィルは、ここで始めて遠距離を放ってくる。


"きた。ここで試してみる"


勇夜は左手を前に出し、攻撃を受ける構えを取った。この武具と契約した影響か、はたまた武具に意思があるのかわからないが、どのようにすれば吸収出来るかは、少なからず勇夜は理解をしていた。

風の魔法は使用者以外、種類によって他の魔力弾より見えにくい、何故この構えを取ったのか、ヴィルは疑問の残る表情をしているが、この攻撃が当たる瞬間、次の攻撃に移るための構えを取っていた。


「なっ!!」

放った攻撃は、ヴィルには手甲に当たる瞬間に掻き消されたように見えた。予想になかった現象からヴィルの動きが止まる。普通であればチャンスなのだが、今の勇夜は違う現象が起きていた。


"なんだこれは? 自分の魔力が自分じゃなくなるような感覚。体を這いずり回ってるみたいで気持ち悪い…… ただ、それと同時に沸き上がってくる高揚感。凄い! 自分の力が上がってるように感じる"


「ははっ!! さあ、いくぞ!」

自然と笑みが零れ、ただただ力を振るってみたい。そんな衝動が抑えきれない勇夜は戦闘を再開した。

ヴィルは止めていた動きを勇夜が突っ込んで来たことで構え直し、攻撃に備えていた。勇夜の詰め寄る速度が先程よりも上がっていたが、直線的な物であったのでヴィルは右に避け、そのまま距離を取った。

ちっ!と心の中で思った勇夜は、避けられたことで少し冷静になった。


"魔力を吸収し自分の力にする。本当にそれだけか?今、自分の流れてるのは己の魔力と違う力、もしかしたら別の属性も使えるのか… 出来るかはわからないけど、試す価値はある"


勇夜は一度深呼吸を行い、いつも使う要領で引き出して腕に纏うイメージをする。すると魔力が混ざり合う感覚が起こり、そのまま纏うと手甲の周りに少し渦の巻いた炎が纏われていた。


「成功したのか?」

いつもと違う現象に少し疑問が沸いたが、それを証明するには使用してみるしかないと勇夜は纏わせたまま構え、動こうとする。ヴィルは今まで警戒して動き出さなかったが、勇夜の動きを見て迎え撃つつもりのようだ。

互いに戦闘準備ができ、動き出すと思われた……だが、勇夜が動こうとした際、纏っていた魔力が飛散し、急に息を荒げ片膝をついたのだ。次の瞬間。


「う"」

複合による身体への負担と今まで耐えてきた気持ち悪さが一気に押し寄せ、胃の中の物が吐き出された。ヴィルが駆け寄って来たようだ、あともう1つ近寄ってくる足音が聞こえる。


「おい、大丈夫か?」

ヴィルは俺の背中を擦りながら声を掛けてきた。


「なん…とか」

上手く声がでずに、今まで味わったことがない感覚に体が対応出来てないような感じだ。


「これは~、軽度の魔力障害のようだね」

魔法で、汚れた地面を綺麗にしつつ誰かが声を掛けてきた。


「っ! 誰だ。いつの間に」

見たことのない人物に驚き、ヴィルが声をあげる。


「ああ、すまないね。ここの審査員を任された者だよ」


「そうなんすか。それより勇夜の状態は大丈夫なんすか?」


「まあ、しばらくすれば直るだろう。ここの保険医にでも見せるといい、魔力障害は詠唱魔法の影響か何らかで魔力が乱されたときに起きるのだが… それよりも先程はいい試合だったね。勇夜君と言ったか、あれはどういう原理なんだい?複合魔法に見えたけど一体…」


「すんません。勇夜が辛そうなんで連れていきますね」


「ああすまないね。つい興奮してしまって」

ヴィルは、だんだん熱の上がる会話をし始めた審査員にきりがないと感じて話を切り上げた。


「立てるか? 肩貸すぞ」

俺が少し息が整って来たのを見て肩を貸して立たせてくれた。そのままこちらのペースに合わせて、保険医の所に移動を始めた。


「にしても、さっきのは何だったんだ?あれが試したいことなんだよな」


「まあ…な。後で話すよ」

まだまだ慣れるには、時間がかかりそうだ。もっと練習しないとダメだ。

そんな事を考えながら移動していると、目的の場所についた。

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