第4話 その日の彼ら
トールと勇夜の訓練が終了し、ラルクが声を上げる。
「ほとんどの者が見ていたと思うが、これから行う実戦訓練のイメージは出来たと思う。自身が使用する武器以外を如何に上手く扱うことができるか、実戦形式でしか掴めない事も多い。それを踏まえ、どんどん準備が出来た者から発言しろ」
試合を見ていた者、ペアをどうするか考えていた者等の生徒がラルクの一声で、動き始める。
トールはすでに壇上から降り、少し離れたところで座り休んでいるようだ。よく見ると、ケイメンとリースが近づいて何か話をしようとしている。
勇夜もトールが降りた後、自身も壇上から降りて友人の所には向かわずに、離れようとしていた。しかしヴィル達が先回りしていたようで、声をかけられる。
「おつかれさん!」
勇夜の肩にポンッとヴィルが手を叩く。後ろにはセリエとアリサがついてきており、勇夜目が合うと頷いていた。
「そんじゃ、俺達も準備して始めるか。行ってくるぜ」
そう言って、ヴィル達もラルクの所に向かった。
「大丈夫?」
アリサが立ち止まり、勇夜に聞いてくる。
「ああ」
それに対して勇夜は小さく返事をした。アリサは他にもなにか言いたげだったが、
「そう」と言い、2人に続き移動した。
勇夜は、先程のトールとのやり取りを1人考えていた。
トールとは正直仲が悪く、ずっと相容れることなどないと思っていた。しかし、あの言葉が本当のことなのか…それともただこちらに手を出させるだけの言葉だったのか、勇夜にトールの真意はわからなかった。トールに勇夜の事が理解できないように…
勇夜が考えている間に、セリエ、ヴィル、アリサの実戦訓練が始まっていた。
ヴィルは始まる前にケイメンから声をかけられペアを組み、セリエとアリサは、第2の所で始めていた。
セリエとヴィルの家系は貴族の中でも実力があり、2人の家族は共に、騎士団でも上位の立場にいるそうだ。そしてシュバル家、つまりはセリエの家系には昔、剣帝と呼ばれた人物がいたらしく、その剣技は代々受け継がれており、セリエ自身もかなりの実力者だ。それに対するアリサは初めての事もあり、押され気味ではあるがセリエの速度に負けずに善戦しているようだった。
ヴィルとケイメンは、互いに拮抗しているようだった。
時間が過ぎ、1人考え込んでいる勇夜に3人が戻ってきた。そして、ラルクが集合の声を上げる。
「これで全員が終わったわけだが、今回慣れない武器で上手くいかなかった者もしっかり使えていた者もこれからはこのような訓練が何度かある。その中で、自身の課題やさらに向上する手応え等それぞれが思うことがあっただろう。これから過ごす残り2年と少しを己を高め、自身と国の為に成長してもらいたい」
ラルクは、この言葉で締め、そして最後に。
「本来であればこの後クラスに戻り、終礼するんだが、俺は事後処理もあるし、もう疲れた…だから、今日はこれで解散だ。とりあえずお疲れさん」
ラルクはそう言うと、手をヒラヒラ振りながら訓練場から立ち去った。
クラスは、"えぇぇ?!"と思っていたようだが、留まっても仕方ないので他の生徒達も訓練場を去っていった。
勇夜達もクラスに移動し、セリエが
「今日このまま帰るなら、これから皆でご飯食べにいこうよ!」
「私は、今日早めに家に帰らないと行けないから…」
アリサは、申し訳なさそうにして断っていた。
「俺はこの後、会長に呼び出されてるから行けない」
「そうなんだ…」
セリエは、少し寂しそうにしている。
「なら、久々に2人で行くか?」
そんなセリエを見て、ヴィルが提案した。
セリエがパッとヴィルを見て、少し固まり
「うん!!」
と満面の笑みで反応した。
そして、"また、明日"と俺以外がクラスから出ていった。
約束の放課後まで時間がある、少し疲れた勇夜の瞼が徐々に閉じていく。
”...夜! 勇夜! 「どうしたの?...君」 約束覚えてるか? 「なんのこと?」 もっと剣が上手になってどっちが強いか決着つけるんだ!だから俺たちは何があっても......”
ハッと目が覚めた。懐かしい夢を見ていた気がする。そしてそれは勇夜にとってとても大切だった思い出。
勇夜は時間を見ると、そろそろ行かなくてはいけない時間になっていた。準備をして約束の場所へ移動した。会長室に到着し、ノックすると"どうぞ"と返事があり、勇夜はドアを開ける。
「悪いな来てもらって。それじゃあマナ、後の事頼むな」
靖耶がマナと呼ぶ女性に書類を渡し、退出させた。
少しの沈黙があって、靖耶が勇夜に話しかけてきた。
「今日勇夜のところは、訓練だったよな。どうだった?」
「特に変わったことはない」
「そうか…」
「用は?」
仲の良い兄弟とは見えない会話が淡々と話される。
そして勇夜が、自身を呼んだ用について聞いた。
「明後日行う、家の記念祭なんだが…」
靖耶は、用件を口にする。その話に勇夜はやはりとでも言うような表情をしていた。
「勇夜にも出てもらいたいんだが」
「何故?俺が家に行く理由は無いが」
「父さんが勇夜に来てもらいたいと、あと母さんも久々に会いたがってたし、勇夜も如月の人間だから今回ぐらいは…」
パッとしない理由だが、靖耶は勇夜に来てもらいたい理由について伝えてきた。
「俺が家に行って、どうなるかぐらい兄さんにもわかるだろ!俺が家に行く資格なんてないんだ」
「お前が、気に病んでるのはわかってるつもりだ、たが顔を見せるぐらいしても」
「兄さんには、俺の気持ちがわかるはずないさ…もう行くよ。家に行くかどうかは考えとく」
靖耶に言い放った勇夜は、静かに退出する。
そして、部屋で1人になった靖耶は
「本当に上手く行かないもんだな。兄としても、そして、俺の贖罪も」
会長室を後にした勇夜は、家への帰路についた。
正直、家に行くか悩んではいた。会いたいという訳ではないが、これを機会に父親に聞いておきたいことがあったのだ。
これから、自分が進むためにも
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アリサは3人と別れてから、そのまま今住む自宅へ帰宅した。
「お帰りなさい。アリサちゃん」
ドアを開けて、玄関に入ると同時に扉が開き、声をかけられる。
「ただいまです」
この女性は、フェルム家の奥さんだ。この家にはフェルム夫妻とアリサが住んでいる。
アリサとこの夫妻には、血の繋がりはない。養子として居させてもらっているようだ。
「今日初めての学園はどうだった?楽しかった?友達出来そう?」
「えっと…初日から色々ありました。少し話した同じクラスの人達がいて、色々教わりました」
「そうなんだ。その子達とは、友達になれそうなの?」
「どうでしょう…私付き合い苦手ですし、あまり自分のこと話さないから」
「正直、アリサちゃんのことを考えると、人付き合いが凄く大変で辛いことなのはわかるけど、自分の気持ちを少しでも伝えられる友達は必ず作りなさい。きっとその子達はいずれあなたを助けてくれるかもしれないから……なんてね! でも、もし助けてもらったらしっかりアリサちゃんもお礼しないとね」
この人はいつも、アリサニを心配して明るく振る舞ってくれるようだ。
アリサにとってそれがとても嬉しいと感じられる。そして今日出会った印象のあった人達のことを考えていた。
"始めに声を掛けてきた赤みのかかった髪をした少女、とても明るく私の手を取って色んな話をしてくれた。次に彼女の婚約者と呼ばれた銀色の髪をした少年は、あまり話すことはなかったけど他の2人のこと考えて発言できる強い意志を持った人に思えた。
そして、最後は暗めの茶色い髪をした少年、彼はいまいちよくわからない人だと思った。他と距離をおいていて自身のことを達観しているような不思議な印象があった。昔何かあったようで、少し気になっている。変な意味ではないけど。"
仮に友人となっても、いつか本当の自分のことを話せる時は来るのか。いや、むしろ来ないほうがいいのかも知れない。アリサはそんなことを考えながら、今日も日は落ち、一日の終わりを告げる。
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