第3話 欠陥という事実

セリエを先頭に移動し始めた4人は、アリサに案内をしつつ訓練場に辿り着いた。

観覧席もあるこの場所は校内で校舎の次に大きく、結界も張られているために、何かがあったときの避難所としても使用される。

訓練開始まで少し時間がある為、4人は各々の使用する武器について話始めた。


「少し時間あるし、準備運動ついでにアリサに武器紹介しようよ」


セリエが提案した。


「じゃあ、私からね。私は、この子だよ」


そう言ってセリエが騎装環きそうかんに魔力を流し、喚び出したのは細身の淡い青色をした片手剣であった。

”騎装環とは、自身の魔力を元に作られた武器を収納したり喚び出すことができる指輪の形をした道具だ。”

"もう1つ、魔装帯まそうたいと呼ばれる道具が支給されており、こちらは武器を納める帯のことで、武器種によって背中や腕、腰に付けたりする。使用方法は魔力の込められた武器を帯に近づけることで、装着出来るというものである。"


「次は俺な! 俺のは、こいつだ」


次はヴィルが紹介するようだ。ヴィルが喚び出した武器は槍のような柄に、先端が刃物のような所謂グレイブと呼ばれる物である。ヴィルの武器は全体的に白色のようだが光の加減で銀色に見える。


「次は、俺か…」


勇夜は他の2人のように騎装環を使用しなかった。そして手元に出したのは、肘近くまで覆う手甲で単純な形をしている上に、特に魔力を感じない物だった。


「これは?」


アリサは、2人とあまりに違う紹介に疑問を持っていた。


「俺の魔力を使った武器は、俺が使えないものが喚び出された。だから、この武器を今使っている。俺は拳士だから」


アリサの問いに勇夜は答える。

アリサはその答えに引っ掛かるものがあったが、勇夜の表情からあまり聞かないほうがいいと思い、自身の紹介に移った。


「私の武器は、この剣なんだ」


そうして喚び出した武器は、身の丈はないがそれでも大きい長剣であった。刃が黒く、中心が白いその剣はとても不思議な雰囲気が感じられた。


「その剣の色って、アリサの属性が関係してるの?」


疑問に思った、セリエがアリサに問いかける。


「そうだね。私は…」


答えようとしたアリサの言葉が止まる。なぜか疑問に思ったが、すぐにそれは解決した。


「今回の訓練で、自分の物を使わないというのに見せびらかして、一体どんな面白いことを君達は、しようとしてるんだい?」


トールが皮肉を交え、こちらに近づいてくる。


「フェルムに、武器紹介してただけだ。お前に関係ないだろ。それに…」


トールにヴィルが答える。そしておそらくその場にいる者も思ったであろう事を言おうとして、それをケイメンが止めた。


「トール様、話の途中に悪いんやけど、トール様も武器出しとるから…」


今度はトールがケイメンの口を手で塞ぎ


「ケイメン… 少し黙ってろ」


漫才のような会話を、隣にいるリースがクスクスと笑いながら見ていた。


「ふん!まあいい、それより欠陥、心の準備は出来てるんだろうな? 確かお前のところで言う刀だったな。それを必ず使え、逃げるなよ」


「わかってる。俺もそのつもりだからな。そっちも準備は出来てるんだろ?」


「貴様に言われずともこちらはいつでも行けるさ、俺は片手剣でいかせてもらう。どんな武器だろうと貴様を叩きのめしてやるさ」


トールと勇夜はやり取りを続け、言いたいことを言ったのかトールはそのまま離れていった。


そうこうしていると、ラルク教官が訓練場に入ってきた。


「全員揃っているな。説明するから一度集まれ」


ラルクの一声で、全員が集合する。


「これから剣技訓練に入るわけだが、訓練については今日説明した通りだが、前回の入学してからの訓練は、全員の実力を見る為に、属性強化まで許可をしたが、今回は身体強化のみでやるように」


今回の訓練について、ラルクから説明がされた。


「それと全員理解はしてるだろうが、必ず自身の使っている武器種と違うものを使用すること、例えば片手剣を使っている者であれば、短剣や刺突剣等だな。最初は、選んだ武器に慣れるように動き、そのあと実戦訓練でペアを組み、試合をしてもらう。それじゃあ準備の出来た者から始めるから、まだ決めていない生徒は早く決めてこい」


ラルクの説明が終わり、使用するものが決まっていない生徒が動き始めた。


「皆は、もう決まってるの?」


アリサが、ヴィル達に話しかけた。


「うん! 私は、短剣にしたんだ。家の剣技で扱いやすいからね」


セリエは、短剣を選んでいたようだ。次にヴィルが


「俺は長物だから、狭いとこでも使えるこの短めの片手剣だな」


ヴィルは、短剣よりも少し長い剣を見せた。


「アリサは、まだ決めていないの?」


「そうだね。私も大きめの武器だから、使いやすいのがいいんだけど…」


「なら、一緒に探しにいこ!」


アリサがセリエに手を引かれ、見に行き男2人が取り残された。


「俺も教官のところに行くよ。あいつが実戦訓練したそうだし」


ヴィルが勇夜の視線を追うと、トールがこちらを見ていた。


「なるようにしかならないけど、あまり無理はすんなよ」


「ああ」


ヴィルの言葉に返事をし、トールに合図を送ってラルクのところに移動した。


「ラルク教官、準備が終わりましたので訓練に入らせていただきます」


トールが教官に発言した。


「そうか、ペアは如月とだな。武器は、ケネデリスが片手剣で、如月は刀か… いいんだな?」


ラルクは、2人に確認をした。


「ええ、俺は構わないですよ」


トールが答え、勇夜も頷き肯定する。


「ならお前達は、1番の場所でやれ。準備出来たら合図しろ」


ラルクの指示に従い、移動する。

訓練場は1番と2番の試合場があり、同時に2試合が可能となっている。到着し、お互いに立ち位置に着いた。ラルクに合図を送り、一呼吸しながら開始を待った。


「では始めるぞ。勝敗は、自身の結界が許容を超え破壊されるか、続行不能及びこちらが判断した場合は訓練を止める。以上だ!コインが落ちたら開始しろ」


ラルクの手からコインが上がり…そして…


キン‼︎


「ハア!」


トールが開始と同時に身体強化をし、そのまま突撃をしてきた。勇夜も強化し、トールから放たれる刺突を避ける。

勢いのまま縦横と剣を振り、そして刺突、流れるように放たれた剣戟を勇夜は鞘に入れたままの刀で捌き、躱す。


「さすが刺突の名家ケネデリスだな。違う武器とはいえ、扱いが頭一つ抜けている。だが、やはり如月は…」


ラルクが2人の戦いに言葉をこぼす。


「もう始まっちゃったんだ」


セリエとアリサがこちらに戻ってきて、ヴィルに近づく。


「ああ、戻ったってことは決まったんだな」


「そうだね。けど、どうして如月君は鞘から抜かないの?」


ヴィルの言葉に答え、アリサが疑問を口にする。


「俺達も何故かは知らないんだ。ただ、1度入学の試験で教官の命令で使ったところを見たんだ。あいつの兄貴が如月会長だから、刀も扱えるはずだと思ったんだろうな。入学でいきなり複数武器を扱えるだけで有望株だから」


「あの時、急に違う雰囲気になったから私達も皆見てたよね。 型っていうのかな?流れるようで綺麗だったよね。でも、人に向けたときに突然固まって咽いて、その時から実力はあっても戦えない欠陥品で呼ばれるようになっちゃって…昔なにか有ったのかなって私達は思ったんだけどね」


ヴィルとセリエが振り返り説明をした。


「そうなんだ」


アリサは少し考えているようだったが、すぐに前を向いた。そして、今訓練中の2人も戦いながら何かを話しているようだった。


「ふん!貴様は、やはり抜くつもりはないんだな。俺では不足か?」


「…………ッ!!」


「貴様の拳闘術を見たとき、平凡だと思った…ただ通り過ぎるだけの石だと… だが!! 刀を使った貴様は、力があると…競えると思った!しかし実際は、戦えもしない臆病者でしかなかった…」


トールが剣を振り、戦いながらも自らの内を語っていた。そして話が途切れ、少し間が空き距離を取った。


「この一瞬だけでいい、お前の全力を見せてみろ!!如月 勇夜ぁ」


この一撃で終わらせる、そんな気持ちが込められた突撃が勇夜に迫る。

その言葉に、勇夜が思ったことはわからない、ただ…


「スゥーハァー」


勇夜が息を整え、柄に手を当て姿勢を低くし構える。それも見たトールが小さく笑みを浮かべていた。


「はぁぁぁぁ」


トールがあと少しで接触する距離で剣を放つ。

他の者が見れば、トールの突撃に合わせて勇夜が反撃する…そんな光景だろう。


だが………


勇夜は抜かなかった。それどころか構えを解き、そのまま立ち上がった。

剣が当たる瞬間、勇夜はトールに小さく"すまない"と口を動かし、攻撃を受け、結界が壊れたこの瞬間に勝敗が決まった。

衝撃で倒れこむ勇夜に、トールが近づく。そして…


「如月 勇夜…やはりお前は、ただの欠陥品だ…」


トールが放った言葉は、怒りや憎しみとは違った感情の込められた寂しさや失望が感じられるようだった…

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