第2話 変わる日常
勇夜達のクラスは特騎科(特待騎士科)、主に実力のある貴族出身が特待生として、それ以外に入学試験での成績がよかった生徒が入るクラスだ。他は騎士科というクラスがある。
特に会話もなく、勇夜はクラスに着きドアを開けた。クラス中で賑わっていた会話が急に静かになった。気にせずに自分の椅子に座ろうとすると、一人だけ勇夜に近づいてくる人物がいた。
バンッ!!
「ちょっと勇夜! あなたトールと今日の訓練やるって聞いたんだけど本当?」
机を叩きながら、急に話をかけてきた彼女に勇夜は少し呆然とした。
「おいおいセリ、どうした?そんなにカッカして」
ヴィルが俺の代わりに彼女に言葉を返した。
赤みの強いオレンジ色の髪と瞳で右側の髪を一部シンプルなリボンで束ねた彼女の名前は セリエ・シュバル 、ヴィルと同じ貴族でヴィルの婚約者でもある。
「本当だよセリエ、俺はトールの提案を受けた。それに誰が相手でも結局結果は変わらないんだし」
ようやく勇夜も話に加わりセリエに返答する
「変わらないってあなた… あなたの努力はあたし達は知ってるし、本来の戦い方なら勇夜は …」
「まあまあ、今回の訓練で悪い評価になるなんて決まってないし、教官達も勇夜の実力はわかってるはずだろ?それに他の奴等が文句あっても俺達が付いてるんだからな!!」
清々しい笑顔が振り撒かれ、セリエの顔が真っ赤になり目を反らした。相変わらず仲が良いなと思いながら勇夜は小さく笑う。
「朝から騒がしい奴等だ」
自身の席からつぶやくトールに
"「「誰のせいだ」」"
と声に出す二人と同時にクラスの奴等も思ったようだ。
"正直二人の心配は嬉しい。でもこの事だけは…俺が背負うべき業だ。あいつの人生を狂わせた俺の…"
「元気がよくて結構だが、そろそろいいか?時間だ」
声が響くその瞬間、全員が静かになり席についた。
「まあ俺も徹夜明けで、とやかくは言わないが規律はしっかり守れよ」
欠伸をしながら話すのはこの特騎科の教官である ラルク・ホレイン と言い普段の仕事柄、寝不足が多いがやる時はやる!タイプなのかもしれない。
「教官! 今日はいつもよりダルそうですけどなんかあったんですか?」
クラスの1人が声をかける。
「ああ、今日の試練の申請やらなんやらな。あともう1つクラスに関係することがあってな」
試練の事はわかるが、クラスに関係すること?というような表情がちらほら見える。
「まあいいか、今日からこのクラスに入る生徒がいる」
クラスにどよめきが走った。
「こんな時期にと思うかもしれないが、元々お前達と同じ時に入学はしてるんだが、事情があったらしい、詳しくはきかされてないが俺も昨日急に知らされてこの様だ…」
生徒から少しばかり同情する表情がうかがえる。
「おっと、待たせてるんだ。 入ってくれ」
ラルクが声をかけると扉が開いた。
少なからずクラスがざわめいていたのが嘘のように静かになった。衝撃的だったその姿に…勇夜を含めたクラスの大半は驚いていた。
見惚れるほどの綺麗な紫色の髪と瞳そして、凛々しくも儚い印象を受ける佇まいが静寂を生んだ。
「アリサ・フェルム です。よろしくお願いします」
彼女の挨拶にクラスは歓声を挙げるわけでもなく、ただ静まり返っていた。おそらく彼女感情が篭っていない表情と近寄りがたい雰囲気がそうさせているのだろう。しかし、少しずつ拍手が広がり各々が彼女によろしく等の挨拶をした。
「席は…そうだな、シュバル!」
「はい!!」
セリエが呼ばれ席を立つ
「今立ってる彼女の隣に座ってくれ」
「わかりました」
アリサはそのまま自身の席へ移動し、座った。
ちなみに俺はその前の席にいる。クラスの机は階段式になっている。
「じゃあ、どうせ次は俺の授業だし、このまま色々説明始めるぞ。新しい生徒も入ったことだし復習も兼ねてな」
ラルク教官は、今後について説明を始めた。
「まずは、今日の訓練についてだが、以前に伝えた通り剣術訓練となる。我が学園は何よりも実戦経験を重要視している。それは、諸君らがこれから騎士となる上でとても重要な事だからだ。国外か国内かどちらに主軸を置くかで危険度は大きく異なる。」
先程のだるそうな雰囲気とは変わり、威圧的になる。正直ギャップがすごい。
「そして、実戦ともなれば訓練のように生易しくない現実が待っている。戦闘となれば、諸君らは自身の持つ武器を使い、戦うことだろう。だが、戦闘の最中に武器が破壊されたり何らかの状況に陥り、使えないこともある。その為に主軸とする武器以外にも使用出来るようにし、生存率を上げること、それが主旨である。この訓練は、年に何度か行うことを義務とし、その訓練ごとに武器種を変更し、全てを使い物にするまで続けることを心掛けること なお、一定水準に満たないものは騎士団への加入は原則禁止とする」
ラルクの表情が元に戻り、また疲れた顔になった。
「とりあえず、訓練の説明はこんなもんか。じゃあ次は、この間の続きで国の体制と、人族と魔族の違いについてな。前の席から順番読んでけ」
このカルディーク皇国は、"国内の治安と防衛を主とする騎士団" "国外での活動を主軸とし、魔物等の討伐や危険度の高い任務をこなすギルド" の2勢力で成り立っている。騎士団は、立場の高く一定基準を満たしている者、実力が基準を大幅に越える者であれば入団が可能となっている。
対してギルドは一定以上の実力があれば加入出来るが、国外での危険な任務が多く命を落とす者も少なくない。一般的には、貴族以外の立場にいるものや騎士団に入れなかった者達が加入することが多い。
その為に、国での立場としては騎士団が上、ギルドが下といったようになっているが、ギルドのごく一部は国の中で高い立場なった人物もいる。
騎士団は、大騎士長➡️騎士長➡️騎士といった体制で、ギルドは、Sランクが最大で、下にA~Gランクとなっている。
次に人族と魔族の違いについてだが、身体的な違いがまず1つ、そして魔力の質が最も大きな違いとなっている。
まず人族の使用出来る魔法は、基本となる身体強化と自身の属性を纏って強化する属性強化が主となる。属性強化は強力な分消費も多い。そして、自身の魔力を弾としてイメージし放出(例:火弾、水弾や雷槍等の弾や槍として放出)することは可能だが大規模な魔法等は出来ない。
例外として精神魔法と治癒魔法があるが、精神魔法は属性として稀な闇の為に使用されることは無いに等しい。もう一つの治癒魔法は、光属性で使用される基本のもので、身体の細胞を活性させ、自然治癒力を向上させるという魔法である。
"精神魔法は、幻覚を見せ混乱させたり、過去のトラウマや衝撃的だったことを思い出させる等の催眠効果もあるらしい"
だが、魔族は元々の身体能力の高さと人族と同じ魔法を使い、さらには詠唱魔法というものを使用出来ることが大きい。この詠唱魔法は発動には時間がかかるようだが威力、規模共に計り知れないものである。一度の魔法で地形を変えてしまうこともできると言われている。
昔に人族も魔族を調べ、詠唱魔法に辿り着いたがその使用者は負荷に耐えきれずに亡くなったそうだ。
人と魔では、根本から魔力の質が違うのだ。
しかし例外もいたのだ。ごく稀に生まれ持って魔力が変質した人族もいたのだ。当時は異端と呼称され迫害もあったと聞く。たが、これまで魔族との戦争で戦えていたのは異端と呼ばれた彼らの力が大きい。その力とは、詠唱魔法への耐性、巨大な魔力量、そして自身の魔力を形作り纏う(鎧の様なもの)ことができるのだ。
現在では、その者達を魔装騎士と呼称している。
この国では "騎士団の大騎士長" "ギルドのランクS
「よし、理解したな。もう少しあとにはなるが、筆記試験にはこの内容もでるからな」
ラルクは、最後に一言告げた後に、授業終了の鐘が響く。
休憩を挟みその後も授業が続く。
訓練は昼過ぎに開始されるため、今は昼の休憩中だ。休憩の最中に、少しずつアリサに生徒達が群がり始めた。何だかんだ近づきにくくても皆話をしたかったようだ。始めはアリサも話をしていたが、徐々に増えていく生徒がガヤガヤし始めてから、急に下を向いた。
周囲の生徒は恥ずかしがったのかな?等と思っており話を止めるつもりはなかった。しかし、下にいた勇夜は少し気になったようでチラッと見た彼女の表情は、恐怖を感じているような顔だった。まるで彼女には話し声が違うものに聞こえているような、そんな印象を受けた。
ーーーーーーーーーーーーーー
"………せ"「やめて」"………ろせ"「やめてよ」"殺せ!"
「やめてぇ!!」
額から汗が出、息も荒くなっていた。
ハッとして顔上げると周囲の生徒が困惑した表情をしていた。
「ごめんなさい。ずっと家にいたから慣れてなくて」
精一杯の笑顔を浮かべ、謝罪をした。
アリサの手が震えているのを横で見ていたセリエが気が付いた。
「フェルムさんも来たばかりなんだし、この辺にしたら?もう少しで訓練にもなるし」
セリエの言葉にどんどん会話を進めていった生徒はバツがわるそうにし、皆も気を使ったのか”ごめんね””また後でね”等を口にし、その場からいなくなった。
「ありがと...えっと、シュバルさんだったよね?」
「そう! セリエ・シュバル、改めてよろしくね!気軽にセリエって呼んでいいよフェルムさん」
アリサの言葉に、セリエは笑顔で答える。
「よろしく、私のことはアリサで構わないよ」
「じゃあ、アリサ! 一応紹介しとくね、私の前がヴィル・グラッド えっとその......一応私の婚約者です…」
セリエはアリサに周囲の紹介をしてくれてるみたいだが、後になるにつれ顔が赤くなり小さい声になっていく。ブンブンと頭を振り、気を取り直したのか続けてくれる。
「今アリサの前にいる彼は、如月 勇夜 友人かな、ヴィルとも仲良いし」
アリサが勇夜のほうを向くと、小さく会釈をしてきた。不思議な雰囲気の人だとアリサは思った。
「それじゃあ、そろそろ移動したほうがいい時間だし、訓練場に移動しながら案内するよ! ほら2人もは・や・く」
アリサの手を取りながら、セリエは紹介された2人を呼び一緒に行こうとする。
アリサは初日から大変だと思ったが、同時に悪い気分でなかったとそう思えていた。
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