第15話 F

「昼の話だけど、俺3年の時に牧場実習で小岩井農場行ったんだよ。良いところだよな」


 相変わらずギターから手を離さずに、草深さんは私を見つめて言った。


「それで詳しかったんですね!すごく良いところなんですよ、一本桜が綺麗で…」


「実習は夏だったから桜咲いてなかったんだ。4月もあと少しで終わるし、もう散っちゃった?」


「いつもゴールデンウィーク位に咲いてるから、これからじゃないですか?」


「そうなんだ、見に行きたいな」


「うん、ぜひ行ってみてください!バックの岩手山はまだ雪が残ってて、桜とのコントラストが最高なんです!」


 私がテンション高く説明するので、草深さんは幼い子供を見るような目で微笑んだ。

 5歳しか違わないのに、何だかずるい。


「そう言えばキッチン、花飾ってあったな。好きなの?」


「あぁ、私の部屋ですか?私のお母さんが、いつも実家に花を飾ってくれてたんです。Flower makes house home.って」


「花はHouseをHomeにする、か。良いお母さんだな」


「えへへ、私もその言葉が好きで、この間道端でシロツメクサが咲いてたんで1本貰って来ちゃいました」


 大好きな母のことを褒められるのはくすぐったいながらも素直に嬉しかった。


「そうか、今度俺にも花摘んできてよ」


「良いですよ。でも、草深さんいつもいないから…」


「じゃあ俺が帰ってきた時、ニャン丸が起きてそうだったらもらいに行くよ」


「そうしたら、まず花瓶、持ってきてくださいね」


「あぁそうか、じゃあ………これでどう?」


 草深さんはベッドの横の小物入れから小さなガラスの瓶を取り出した。


「バイアルの瓶だけど。使える?」


 151120FUKUとマジックで底に書いてある小瓶を私は受け取った。


「大丈夫ですよ」


 高さが5cmほどのその小さな瓶は、中の薬を誰かの命を助けるのに使った後に、HouseをHomeにしてくれる魔法の小瓶になった。

 Sustainableってこういうことかな、なんて一人で思ったりした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る