第3話

「いよいよ明日か……」

「言うな。虚しくなる」

「大丈夫だ。俺達は、やれるだけのことをやった。きっと上手くいく!」

「やめろ! 死亡フラグが立つ!」

 清水先輩の死の衝撃が過ぎ去り、平凡な日常が戻ってきた12月の頭。期末試験を明日に控えた帰り道。ここ1週間の有志による勉強会という名の雑談会は、教え役を引き受けてくれている安藤に早々に切り上げられた。勉強会有志の中で電車通学組は、俺と安藤と鈴木の3人だけ。校門前で他の奴らと別れ、駅に向かう。

「あっちから行こうぜ」

 線路沿いを歩きながら鈴木が指差し向かったのは、線路をまたぐ歩道橋。いつもは向こうの踏切を渡る。どっちが近いと言う事もない。ただ、階段を上がって降りて行くのが面倒だから、大抵の奴らは踏切を渡る。だがサッカー部の鈴木にとっては、階段の上り下りより、踏切で待つ方が苦になるらしい。

 安藤とだるそうな顔を見合わせ、仕方がなく鈴木に続いて階段を上がる。

「そういやさあ、清水先輩が亡くなったのも、こんくらいの時間だって話だよな?」

 歩道橋の真ん中で立ち止まり、線路の向こうを見ながら鈴木が突然言い出した。

「何だよ、急に」

 安藤が足を止めず、鈴木の横を通り過ぎる。

「いや、何でか思い出しちまって……」

 頭を掻きながら、安藤の後を追う鈴木。

 俺は鈴木が立っていた所に立ち止まり、鈴木が見ていた方を見る。まっすぐに続く線路の向こう、大きな夕陽が沈もうとしていた。


『綺麗な夕陽を見ると、夕陽に向かって飛びたくならない?』


 不意に声がした。鈴を振るような綺麗な声。

 振り返ると、女性がいた。影になって顔はよく見えない。腰まで届く長い髪とプリーツスカートが風をはらんで揺れている。スカートの下から覗く細く綺麗な足に、思わず目が行ってしまう。


『沈んだ夕陽の先には、きっと別の世界があるよ』


 ゆっくりと持ち上がった腕は、膨らんだスカートを押さえることなく、真っ直ぐに線路の向こうを指す。その指の先に、迫るほど大きな夕陽があった。

「別の世界って、何すか?」

 夕陽を見ながら、その声に問いかける。


『行ってみたら、分かるんじゃない?』


「そうっすね……」

 吸い込まれそうなほど大きくて、綺麗な夕陽。その声が言うように、あの向こうにはきっと別の世界がある……

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