店主
星は不思議だ。
あの光が何年も前の光だとか、とてつもない大きさなのに地球から見たら小さな点だとか。
星はたくさんの人を魅了してきた。
かく言う私も星をこよなく愛している。
今日はふたご座流星群の日。
今日くらいは店を休んでもいいんじゃないか。私は空を見上げた。
夜空ではいくつもの星々が落ちて最後の光を力強く発していた。
見終わった私は店に入った。カランコロンとドアベルが鳴る。
昨日、一昨日はあの犬山静也のせいで騒がしかったからな。
こんなに静かな夜はとても久しぶりに感じる。
私は久しぶりに道具を仕事場から出してきた。
そして自分の腕にはめている時計を外した。
メタルベルトでシンプルな黒の文字盤に波状の彫り込み加工が施してある。そして星座を模した銀細工。
私は時計を指でそっと撫でた。
私は自分のための仕事を始めた。
「できた」
額の汗を拭った。
目を閉じて深呼吸をした。
そして時計に竜頭をカチッと押した。
これを見るのは一体何回目になるのだろうか。
映像の場所はこの店だ。
しかしそこに私は居ない。
映し出されているのは仕事着の私の父とスーツ姿の男性。
男性が手を振って父に話しかけた。
『よっ、
『よう。今日はどうしたんだ』
男性が父に差し出したのはこの時計だった。
『これ、前龍一が欲しいって言ってたやつ』
『おーおー、おぉ。ありがとう。でもこれさ』
父は腕に同じデザインの時計をはめていた。
『うわぁーもう買ったのかよ。いつの間に買ったんだ』
『先週。
『先越されたのかよ。しかもお前女に時計貰うとかなっさけねー』
バカにされてカチンときたのか父はムキになってこたえた。
『そんなことないさ。それに、もしほかのものを貰ったとしたら俺は素直に喜べる自信が無い』
ムキになっている様子とその発言で男性は笑いだした。
『そっか、お前って時計オタクだもんな。なんかお返ししてやれよ』
『もちろん、もう渡してある。それは──』
『もうわかるよ時計だろ?』
父は不敵な笑みを浮かべた。
『時計も渡したけど、あともうひとつ・・・・・・婚約指輪をわたした』
男性は目を丸くして驚いた。
『まじか、やったじゃねえか!俺まで嬉しくなっちゃったよ。10年も付き合ったんだもんな。長すぎるだろってツッコんでやりたいくらいだよ』
男性はまるで自分の事のように喜んで父をバシバシたたいた。
「痛いって。でも本当に嬉しい」
父は噛みしめるように言った。
そこで映像は終わっている。
「親父・・・・・・」
私は父にあったことがない。
正確には父と過ごした記憶が幼すぎて残っていない。
父は海外に飛んで消息不明。母でもわからなかった。そして母は亡くなった。
この記憶を通して父が母や時計、そしてこの店を愛していることがひしひしと伝わってくる。
だから私はこの仕事を始めた。
「はぁ」
他人の記憶を見ると前の少年もしかりよくも悪くも見た人の人生を変えちまう。
「これだから他人の人生を見るのは嫌なんだ」
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