Episode 5-6 巡礼者の女

 一通り街の散策を終えて、宿に引き上げようとしたところ、冒険者ギルドの前で何者かに呼び止められた。振り返ると、そこには一人の女が立っていた。


 歳の頃は、又三郎と変わらないぐらいに見える。長い金髪を、華やかな髪留めで頭の上にまとめている。瞳の色は、深い緑。彫りの深い顔立ちをした、なかなかの美人だ。動きやすいゆったりとした服を着ていたが、それでも目立つ豊かな胸と腰の辺りが、道行く男達の視線を集めていた。


「あの……少しお尋ねしたいのですが、旅の冒険者の方ですか?」


 女が、遠慮がちに又三郎に尋ねた。


「ふむ。まあ、そのようなものかな」


「その、色々とお尋ねして申し訳ありませんが、どちらまで行かれるのですか?」


「明日の朝には、モーファへ発とうと思っている」


 又三郎がそう答えると、女はほうっと息を吐き、軽く手を叩いて喜んだ。


「実は私も巡礼の旅の途中で、モーファの神殿へ行きたいのですが、モーファまでの道中を共にしてくれる人がいなくて困っていたのです」


 そう言うと女は、上目遣いに又三郎を見上げた。


「もしよろしければ、モーファへの道中をご同行願えないでしょうか? 他に頼りに出来る方もおらず、女一人の身でモーファまで行くのは、どうにも心細くて」


 つまるところ、女の話はモーファまでの道中の護衛を、又三郎に頼みたいということだった。女はクレアと名乗り、護衛の報酬として銀貨二枚を支払うという。


「クレア殿は何故、それがしに声をかけられたのか? ここは冒険者ギルド、他にもモーファに同行してくれる者を探すことはできただろうに」


 又三郎の言葉に、クレアはそっと目を伏せた。


「お恥ずかしい話なのですが、お支払いできる金額で護衛役を引き受けて下さる方が見つからなかったのです。それに、近々モーファへ向かわれる方も、なかなかおられなくて」


 又三郎は再び、クレアの姿を上から下まで眺めた。巡礼者と呼ばれる者を目にするのは、初めてのことだった。


「まあしかし、三日間の護衛の対価が銀貨二枚というのは、確かにちと安すぎるのう」


 そう呟いた又三郎に、クレアが微笑した。その仕草が、妙に艶っぽく見えた。


「では、違う形での報酬も併せて考えさせていただきますわ」


 又三郎はしばしの間、クレアの様子を伺い考え込んだが、やがて小さく息を吐いて答えた。


「やれやれ……クレア殿も、どうにもお困りのようだ。では、明日の朝四の刻に、ここで待っておられよ」

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