Episode 1-5 冒険者

 結局、日が傾くよりも随分と前に、又三郎は教会へと戻った。


 夕食を終えた後、又三郎はナタリーとジェフに街で見てきたことを話すと、ナタリーは驚き、呆れ、そしてほんの少し怒ったような口調で言った。


「マタさんは、冒険者などでは無かったのですね……そうでしたか、それはとても良かったです。剣なんか持っていたから、ひょっとしたらって思っていましたが」


「良かった、とは、一体どういうことか?」


 怪訝な顔の又三郎に、ナタリーが答えた。


「冒険者などという仕事は、とても危険で不安定なものなのです。それに、冒険者には、氏素性の分からないような怖い人達も大勢います」


「これ、ナタリー、そういう言い方をするものではないよ」


 珍しくやや興奮した口調で話すナタリーを、彼女の隣に座っていたジェフが軽くたしなめる。


 氏素性が分からない者と言われれば、自分もそうであるはずなのだが――喉の上辺りまで出かかった言葉を、又三郎はとりあえず飲み込んだ。


「とはいえ、マタさん、貴方はエルフやドワーフ、ハーフリングなどをご存じでなかったのかね?」


 ジェフは意外そうな顔で言うと、それから少しの間考え込んだ。


「それはまあ、確かにこの街ではあまり見かけない人達だし、私も直接お話をしたことなどは、ほとんどないですけれども…」


 ナタリーもそう言って、言葉を濁した。又三郎を見る目が、やや困惑しているように見える。


 お前は一体、どこの誰なのか――又三郎には、二人がそう言っているように思えてならなかった。


 それからナタリーは、エルフやドワーフ、ハーフリングなどについて教えてくれた。


 この世界では人間以外にも、人間によく似た種族が複数存在するとのことで、エルフは総じて弓の扱いに長けた森を住処にする種族、ドワーフは戦いと鍛冶に優れた山を住処とする種族、ハーフリングは一か所に留まることを良しとせず、一生の大半を旅をして暮らす種族であるとのことだった。


 そして、総じて彼らは人間から「亜人」と呼ばれるが、彼ら自身はその呼び名を嫌っているため、彼らと話をする時にはその点に注意するように、とも言われた。


「それにしても、えるふやどわあふ、はあふりんぐといった者達は、それぞれ主な住処が決まっているように思えるのだが、そのような者達が何故、人間の街に出入りをしているのだろうか?」


 そう言って首を傾げる又三郎に、ナタリーは複雑そうな笑みを浮かべてみせた。


「それは、彼らもまた人間と交流することで、生きていくために必要なものを手に入れる必要があるからですよ。あと、彼らも人間と同じように冒険者となって、街から街へと渡り歩いていたりもします」


 わざわざ自分達の里から出てきて、冒険者などという仕事に就くという感覚が、又三郎には今ひとつ理解が出来なかった。ナタリーが言うところの冒険者像が正しければ、何故彼らはそのような危ない橋を渡ろうとするのか。


「彼らは皆、人間よりも長命な種族です。個人差はあれど、彼らにも生きることに刺激を求める傾向があるのかも知れませんな」


 そう言い残すと、ジェフは子供達の様子を見てくると言って席を立った。その場には又三郎とナタリーが残されたが、ナタリーは神妙な面持ちで又三郎に言った。


「ともかく、マタさんは冒険者達とは、絶対に関わりを持たないようにして下さいね。ましてや、冒険者になろうなんて絶対に考えては駄目ですよ」


 静かだが妙に迫力のあるナタリーの様子に、又三郎はただ頷くことしか出来なかった。

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