Episode 1-2 教会の日常

 それからしばらくの間、又三郎は教会で居候暮らしをしていた。その間に分かったことが、いくつかあった。


 まず、ナタリーから聞いた話によると、今又三郎がいる場所はイシュトバール王国という国の中の、モーファという街であることが分かった。モーファは隣国との交易における要衝の地でもあり、王国の中でも比較的活気に溢れる街であるらしい。又三郎は、発音し慣れない単語が多いことに辟易へきえきした。


 次に、モーファの街はずれに位置するこの教会は、ナタリーのほか、ナタリーの父であるジェフという人物と二人で切り盛りをしていることが分かった。というのも、ナタリーの母マリアは、四年前に流行り病で亡くなっていたからだった。


 その他、教会には二人が面倒を見ている六人の孤児達がいた。路傍ろぼうで倒れていた又三郎を見つけたミーシャも、その孤児達のうちの一人だった。


 六人の孤児達は、最初の頃こそ又三郎を怖がってなかなか近寄ってこなかったが、又三郎は新選組一番隊組長の沖田総司が、壬生みぶ屯所とんしょでよく子供達と遊んでいたことを思い出し、その真似事らしきことをしているうちに、それほど時を置かずして孤児達とも打ち解けることが出来た。


 その様子を見ていたナタリーとジェフは、程なくして保管していた大小の刀を又三郎に返してくれた。又三郎のことを、自分達に仇をなす人物ではないと思ってもらえたようだった。


 又三郎は、いつも身に帯びていたものが返ってきて安堵した半面、今のところはこれらを使うこともないため、自室として与えられた最初に寝かされていた部屋のクローゼットの中に収めている。


 ある日一度だけ、ケインという名の孤児が又三郎の部屋に入り、刀に触れようとしたことがあった。日頃は温厚な又三郎が、その時だけは少々きつくケインを叱ったため、しばらくの間はケインも落ち込んでいたものの、それ以来孤児達は「刀が危険なものである」ということを認識してくれたようだった。


 この教会が決して裕福ではないことも、居候生活の中で又三郎は悟った。


 ナタリーもジェフも「体調が回復し今後の身の振り方が決まるまで、遠慮することなく教会にいてもらって構わない」と言ってくれたが、一日二回の食事はお世辞にも皆の腹を満たすことが出来ているとは言い難く、ナタリーもジェフも、自分達の食事の量を減らして又三郎の分の食事をまかなってくれているようだった。


 教会の収益は、七日に一度行われる教会の祈りの場に参加する信者達が、まばらに寄進する少額の金銭が主なもののように見えた。教会に通う信者達の中には、裕福そうな者は一人もいなかった。


 その他、近所の農家の者達が「見栄えが悪く、売り物にならないから」といって不揃いな形の野菜や小さな鶏卵を差し入れてくれたり、「子供達に食べさせてやって欲しい」と街のパン屋が売れ残りの商品をわざわざ持ってきてくれたりするのを、ナタリーが申し訳なさそうに、そして丁寧に礼を言って受け取っている光景を偶然目にしてしまった時などには、又三郎の心に小さな棘が刺さった。

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