第2話 決意の色

 IDEA作戦室に入ってきたアルドにイスカは真っ先に気づいたようで、眺めていたモニターから目線を移し、アルドに話しかけた。

「やあ、来てくれたね。待っていたよ。」

「遅くなってごめん。ちょっと困っている人を見かけて、話を聞いていたんだ。」

謝るアルドを見てイスカは微笑を浮かべる。

「ふふっ、君は相変わらずのお人好しだね。なに、君に頼もうとしていたことはそこまで急な話ではないから謝ることはないよ。」

「それで、俺に頼みたいことってなんなんだ?」

「単刀直入に言うと、君には盗難事件の捜査に協力してほしいんだ。具体的には張り込みをしてもらいたい。」

 話を聞いて感じた疑問をアルドは率直に聞いてみた。

「事件の捜査で張り込みか…、どうしてそれを俺に頼みたいんだ?俺よりもIDEAの生徒の方がそういうのに慣れてると思うんだけど…。」

「君がそう思うのも無理はない。順を追って説明するよ。事の始まりは一週間前、レゾナポート内のジュエリーショップに泥棒が入ったんだ。しかし犯人はたった一つしか宝石を盗まなかった。」

「宝石一つだけ?物凄く貴重な宝石だったのか?」

「いいや、そのショップのなかでも比較的安価なものだったらしい。このことから私たちは今回の事件がおそらく組織的な犯行だと考えている。」

イスカの口から語られる内容にアルドの理解は全く追いついていなかった。

「何かおかしくないか、組織ってことは悪い奴らがたくさんいるってことだろ?だったらなおさら宝石一つだけってのは不自然なんじゃないか?さっぱり分からなくなってきたぞ…。」

「こういった手口はたまにあるものでね、初めは気づくかどうか分からない程度のものしか盗まないんだ。その後、お店の対応を見てそのお店のセキュリティー意識を見極める、特に対策を講じないような店であれば、今度は大量の商品を盗む。しっかりと対策を講じる店であれば諦めて次のターゲットを探すといった具合さ。実際セキュリティシステムをアップグレードするにはかなりお金がかかるからね。今回の事件もこの類だろう。事件が起こってすぐ私たちは捜査を始めたがこの手口である可能性に思い至ってね、今は一度捜査を終了したように見せかけている。これが君に捜査に協力してほしい理由さ。もし私たちIDEAが再び動き始めたと向こうに気取られては逃げられる可能性が非常に高い。IDEAの外部の人間で協力者を探す必要があってね、一番信頼のおける君に協力をお願いしたんだ。」

「な、なるほど。途中の難しい話は正直よくわからなかったけど、IDEAの存在が犯人にばれないために俺が必要だってことか。悪い連中を見過ごすわけにはいかないからな、もちろん協力する…あっ。」

快く返事をしようとしたアルドの頭に今度は先ほどの男性教師の顔が浮かんだ。

「その捜査ってやっぱり急がないとだめだよな?」

「何か不都合があるのかい?」

「ここに来る前に困っていた人の話を聞いたって言っただろ?その人の助けになりたいんだけど、今日はイスカに呼ばれて来たわけだし、イスカに話を聞いてから決めようと思ってたんだ。」

「ふむ、なるほど。私たちの読みでは少なくとも二日後までに犯人が動くことは無いいはずさ。だからそれまでの間なら困っている人を助けるなり、自由に行動してくれてかまわないよ。」

イスカの返答にアルドの表情が明るくなった。

「二日後までだな、分かったよ!これであの人の手助けもできる。ありがとうイスカ!」

「なに、お礼を言われるほどのことはしていないよ。ただ二日後までには必ずここに来てくれ給えよ。」


 IDEA作戦室をでたアルドは急いでエントランスへと戻り、先ほどの男性教師を探した。

「遅くなってごめん。今仲間の話を聞いてきて、二日後までなら宝石探しに協力できそうなんだ。短い時間だけど全力で手伝わせてくれ。」

男性教師の顔に笑顔がにじみ出る。

「二日間だろうと協力してくれるだけで感謝しかないよ。僕も仕事の合間に色々な文献を調べてみるよ。もし宝石探しが行き詰ったら僕の研究室に来てね、新しい情報が見つかっていればいくらでも教えるから。あと万が一宝石が手に入った時も僕の研究室に来てね。さ、すぐに新情報を探さないと。」

そう言うと男性教師は急ぎ足で自分の研究室に向かっていった。

「よし、二日間でなんとか宝石を見つけないとな。逸話に出てきた柔らかい身体の魔物がいる場所って、多分人食い沼だよな…。不思議な色をした魔物か……、とりあえず人食い沼に行ってみるか。」

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