第5話 空回り

五月も終盤にさしかかった日。

博記は昨晩友人と遅くまで遊んでいて、下宿に帰りついたのは明け方の四時だった。

暫く寝てから学校へ向かおうと想っていた…。

下宿には門限は無かったが、如何せん一般の一戸建てを改造してたため、四六時中鍵を開けっぱなしというワケにもいかず、夜遅くには鍵がかかっていたため、締め出し(?)をくらってしまった。

外で1~2時間ウトウトしていたが、諦めて朝早くに学校についてしまった。


博記 「う~…ねみぃ…。」(と言って席につく)


その情報処理科は結構サボる生徒が多いクラスで、いつも全体の三分の一は空席状態だった。

その中でもワリと真剣に取り組んでいる生徒『中唯 桜』が登校してきた。


桜 「ん?」

博記 「…。」(気付いているがキツイので反応したくない)

桜 「島崎くん?」

博記 「あい?」(顔を上げる)

桜 「よかった…。名前あってて…。」

博記 「おはよう。」

桜 「どっちかって言うと『オヤスミ』って顔してるけど?」

博記 「ユーモアセンス抜群だね。」

桜 「皮肉?」

博記 「まぁね。」

桜 「カンジ悪っ。」

博記 「アリガト。」

桜 「褒めてない。」

博記 「知ってる。」

桜 「産まれて初めて人に殺意を覚えたわ。」


そうこうしていると、この科で博記が一番仲が良い『地山 謙太』も登校してきた。


謙太 「あれ?島崎くん。早いんだねぇ。」

博記 「まぁね。」

桜 (授業の準備してる)

謙太 「ベース、どう?」

博記 「あぁ。最近ちゃんと練習してるよ。」

謙太 「どんな曲を弾いてるん?」

博記 「GLAYのコピーやってるよ。」

桜 (何気に聞き耳立ててる)

謙太 「俺は洋楽専門だからねぇ…。」

博記 「ザンネンだね…。タイプがあったなら地山君とバンド組みたかったんだけど。」

謙太 「でも、島崎君と一緒にバンドしてる人は…。」

博記 「ヤツはヴォーカルになったよ。」

謙太 「歌えるんだ。」

博記 「俺は納得してないけどね。」

桜 「私がやったげようか?ギター。」

博記 「結構です。」

桜 「はやっ!!」

謙太 「中唯さんってギター出来るの?」

桜 「そうそう、そういう反応くれないと♪」

博記 「出来るん?」

桜 「出来るワケないじゃん。」

博記 「(タメ息ついて)今度聞かせてよ。地山君のギター。」

謙太 「勿論。じゃぁ島崎君達のバンドの音も聞かせてね。」

博記 「まだバンドってすら言えないかも知れないけど。」

桜 「私も聞かせてよ。」

博記 「さっきからチョッカイばっか出してからに。」

謙太 「まぁまぁ…。」

桜 「いーもぉーん。バァーカ。」

博記 「バカつった方がバカさ!!」

謙太 「子供じゃないんだから…。」

博記 「前にも誰かに言われた気が…。」


一方、健治は…。


学校をサボって楽器店に来ていた…。


健治 「ここはデケェなぁ…。」


すると同い年ぐらいの店員が寄ってくる。


店員 「何かお探しで?」

健治 「ちょっと見に来ただけです。」

店員 「ギターですか?」

健治 「まぁ、やってる楽器はギターかな。」

店員 「?」

健治 「いや、もともとはギターだったんだけど、ヴォーカルに転向をしたんで。」

店員 「歌いながら弾く人も居ますよ?」

健治 「俺がギターから転向した理由はギターを触る時間が無くなってきてるから。」

店員 「そうなんですか…。」

健治 「考えてる事は分かる。本当にギターが好きなんなら寝る間を惜しんででも弾けるハズだって。」

店員 「イヤ…。」

健治 「でも本当に時間はドンドン少なくなってる。そんな中でハンパにギターをやっててもアイツに失礼だと思ったから。」

店員 「アイツ?」

健治 「ベース弾いてるヤツでね。昔は練習そっちのけで人のジャマばっかしてるヤツで。でも、スンゲェ楽しそうに弾くんだよ。」

店員 「…。」

健治 「そのアイツが本気になり始めた。そんなヤツと、今の俺じゃマトモに向かい合えないと思った。」

店員 「なるほど。」

健治 「それに歌になら自信がある。誰にも負けない自信が。」

店員 「…。」

健治 「でもギターも好きだから…。って余計な事ベラベラ喋っちまった。」

店員 「いやいや。いい事だと思います。」

健治 「そうかな。」

店員 「イイ結果が出るとイイっスね。」

健治 「サンキュ。そうだ。」

店員 「はい?」

健治 「オススメのギターとかあるかい?」

店員 「御任せください♪」


そして店員と健治は話しながら歩いていく。


そして昼になり、博記はメシを食っていた。

博記の携帯が振動する。


博記 「っと…。もしもし?」

健治 『おう。今大丈夫か?』

博記 「あぁ。どうした?」

健治 『たまたま行ったデカイ楽器店で仲良くなった店員が居てね。』

博記 「オマエ学校は…。」

健治 『カタイ事言うなって。でな、その兄ちゃんと盛り上がってな。俺の歌が聞きたいっつーからカラオケ行くんだが、オマエもどうかと想ってよ。』

博記 「生憎と授業があるんでね。」

健治 『そんなんサボれよ。俺の歌が聞けるんだぜ?』

博記 「自信を持つのはイイ。でもウヌボレるなよ。」

健治 『ウヌボレてなんかいないさ。』

博記 「ならイイんだが…。」

健治 『で?来るのか?来ないのか?』

博記 「だから行かないって…。」

健治 『そうか…残念だな…。』

博記 「すまんな。」

健治 『おう。じゃぁまたな。』

博記 「あぁ。」(切る)


桜 「誰から?」(博記の後ろに立って)

博記 「ぬぉっ!ビックリしたぁ~…。」

桜 「例のバンド一緒にやってる人?」

博記 「そうだけど?」

桜 「ウヌボレるなって言ってたから気になって。」

博記 「居るよね。色んなハナシに首を突っ込みたがる人。」

桜 「皮肉を言わせたら世界一かもね。」

博記 「そう言う中唯さんも。」

桜 「嬉しくないんだけど。」

博記 「だろうね。」

桜 「グーで殴っていい?」

博記 「どうぞ?」

桜 「ムカツク…。」(自分の席に戻る)

博記 「何しに来たんだ…。」


そしてその日の夜…。


健治から博記に電話がかかってくる。


博記 「もしもし。」

健治 『よう♪』

博記 「えらくゴキゲンだな。」

健治 『いやぁカラオケ楽しかったよ。』

博記 「それは何よりで。」

健治 『その楽器店のニーチャンな、名前は工藤 圭吾って言ってな。』

博記 「へぇ~…。」

健治 『一度オマエのベースも聞いてみたいってさ。』

博記 「で?」

健治 『今度の日曜にスタジオ入らないか?圭吾も連れてさ。』

博記 「まだ曲の打ち合わせもしてないのにか?」

健治 『そんなんスタジオ入ってから決めればいいじゃん。俺はオマエに合わせて歌うだけだ。』

博記 「ギターも弾くんだろ?」

健治 『まぁ曲にもよるがな。』

博記 「じゃぁSOUL LOVEだ。」

健治 『一曲だけ?』

博記 「充分だろ?」

健治 『二時間もあるんだぜ?』

博記 「足りないかもしれないぞ?」

健治 『まさか。あれ一曲は五分ぐらいなんだぜ?』

博記 「曲自体はな。」

健治 『どうしたんだよ?なんかヘンだぜ?もっとヤル気見せろよ。』

博記 「空回りしてるんでね。」

健治 『兎に角、日曜の午後二時からなんだが、イイか?』

博記 「OK。」

健治 『じゃぁ頼むな。』

博記 「あぁ。」(切る)


布団に寝転がる博記…。


博記 「なんだかなぁ~…。」


決してヤル気が無いワケじゃなかった。

ただ、何かが心に引っかかっていた…。

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