第6話 伝えたい事

ある日曜日。

空は見事に晴れ渡っていた。

博記は指定された時間に指定された場所にベースを持ってきていた。


博記 「気は進まねーな…。」


そして午後一時。

健治と圭吾がやってきた。


健治 「よぉ。悪い悪い。少し遅れたな。」

博記 「イツモよりはマシだ。」

健治 「この前電話で話したと思うが、楽器店で働いていて、意気投合した工藤 圭吾だ。」

圭吾 「よろしく~♪」

健治 「んでコイツがベースやってる島崎 博記だ。」

博記 「ドーモ。」

健治 「どうした?機嫌悪いみたいだが。」

博記 「それが分からないから機嫌悪いんだよ。」

圭吾 「歓迎されてないかな?」

博記 「俺のベースはまだ人に聞いてもらうようなレベルじゃない。」

健治 「んな事ねーって。一回ライヴもしただろ?」

博記 「まだ早いんだ。」

圭吾 「んじゃ帰ろうか?」

健治 「まてまて。今日は三人で予約とってんだ。せっかくだから入ろうぜ。」

圭吾 「俺は構わないんだが…。」

博記 「別に俺も構わない。」

健治 「んじゃ決定だな。」


そしてスタジオ内。


博記 「ここか?例の真理恵ってコとブッキングしたってスタジオは。」

健治 「いや。んなブッキングさせるようなトコ使えるかよ。ここは『DOF』ってスタジオさ。たまたま見つけたんだ。」

博記 「へぇ~…。」

圭吾 「マリエ?」

博記 「あぁ。何でもないんだ。」

健治 「さて。何やるか?」

博記 「言っただろ?(ベースをアンプにつなぎながら)SOUL LOVEをやるってな。」

健治 「他には?」

博記 「その一曲だ。」

健治 「二時間もあるだろ?」

博記 「この前の電話の繰り返しだな。兎に角やるか。」

健治 「そうだな。」

圭吾 「…。」


そして一曲やってる…が途中で健治が止める。


博記 「どうした?」

健治 「ミスった…。もう一回だ。」

博記 「OK。」


そして暫くそれを繰り返す。


博記 「休憩すっか。」

健治 「そうだな…。何でだろ…。カラオケではちゃんと歌えるのに…。」

博記 「言っただろ?(スタジオの外に出ながら)時間が足りないかもなって。コーヒー飲んでくる。」

健治 「悪いな。圭吾。普通はこんなんじゃないんだが…。」

圭吾 「緊張してるんじゃないのか?」

健治 「…。」

圭吾 「あのベースとスタジオ入った事は?」

健治 「地元でのバンド解散してからはこれが初めてだな。」

圭吾 「アイツの選択は正しかったワケだ。」

健治 「でもなぁ…まだバンド解散して、今日音合わせするまでは二ヶ月半ぐらいなんだがなぁ…。」

圭吾 「少しアイツと話してくるわ。」(出て行く)

健治 「おっかしぃなぁ…。」


そしてスタジオの外では…。


圭吾 「トナリ…いいかい?」

博記 「あぁ。」

圭吾 「サンキュ。」

博記 「なんでアイツなんだ?」

圭吾 「なにが?」

博記 「楽器店で知り合ったらしいじゃん。来る客なんて星の数ほどいるだろ?」

圭吾 「マジだったからさ。」

博記 「?」

圭吾 「本気でバンド、そしてアンタの事を考えてた。」

博記 「それは普通だろ?」

圭吾 「そう。でも、そうじゃないヤツも多い。」

博記 「じゃぁソイツラは何のためにバンドを?」

圭吾 「じゃぁ逆に聞こうか。何のためにバンドを?」

博記 「…。」

圭吾 「そもそも、そういう質問は的外れだ。ソレゾレにソレゾレのバンドがある。」

博記 「そりゃそうだ。」

圭吾 「で、今度は俺が聞きたい事があるんだが。」

博記 「?」

圭吾 「こうなる事を予想してたのか?」

博記 「アイツの性格を考えれば容易い事さ。」

圭吾 「そういや中一からの友達だって言ってたな…。」

博記 「アイツはスグ緊張する。そして必要以上に自分をよく見せようとして焦る部分がある。だから尚更本来の実力が出せない。今日、俺達の音を聞かせるってなった時から思っていた…。アイツはアンタと知り合えた事を凄く喜んでた。だから最高の音を聞かせようとするだろうってな。まぁ俺も似たようなもんだが、だからこそ、俺がなるべく冷静でいるように努めた。」

圭吾 「成る程ね。いいコンビだ。」

博記 「…。」

圭吾 「俺も楽器やっててね。」

博記 「予想はつくさ。」

圭吾 「何の楽器かも?」

博記 「いや。」

圭吾 「ベースだよ。」

博記 「!!」

圭吾 「もう六年ぐらいになるかな。」

博記 「で?」

圭吾 「…。」


その頃スタジオ内では…。


健治 「ヘコむなぁ~…。」


傍に立てかけてある博記のベースを見る。


健治 「俺の武器は声だ。」(目つきが変わっている)


そして立ち上がる。


健治 「…。何を歌いたいかじゃない。何を伝えたいか…だ。」(目を閉じて息を吸い込む)


スタジオの外…。


圭吾 「!!!…この声は…。」

博記 「(ニヤッと笑って)やっと分かったみたいだな…。」

圭吾 「この前のカラオケの比じゃない…。」

博記 「どうだよ。これがウチのヴォーカルだ。」

圭吾 「…。」(博記を見据える)


そして博記と圭吾はスタジオへ戻って来る。


健治 「(歌い終わって)ふぅ…。」

博記 「さぁて!やるか。ケンジ?」

健治 「おう。SOUL LOVEをな。」

博記 「一曲でいいのか?」

健治 「言ってろ。」(ニヤリと笑って)


そして結局そのまま一曲を歌い続け、弾き続けた。

その日は圭吾はそのまま帰って行った。


健治 「(歩きながら)なぁ。」

博記 「あん?」

健治 「圭吾の事、気に入らないか?」

博記 「なんで?」

健治 「なんか不機嫌そうだったからさ。」

博記 「オマエでも、そういう事気にすんだな。」

健治 「まぁな。」

博記 「気に入らないなんて思ってねーさ。むしろ面白くなりそうだぜ?」

健治 「なにが?」

博記 「そのうち分かるさ。」

健治 「初のスタジオだったな。俺は一人で一回入ったが…。」

博記 「二人で…だろ?」

健治 「やかましい。」

博記 「楽しかった。雰囲気もイイしな。これからは今日のスタジオ使おうぜ。」

健治 「そうだな。」


そして二人は歩いていく…。

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