第2話 RAIN

四月も半ばを過ぎた。

博記も健治も専門学校に通っている。

博記は情報処理の、健治は公務員の専門学校である。

お互いに福岡に出る事は知ってても、まさか、ココまで近くに住む事になるとは想っていなかった。

博記の下宿先から健治の部屋までは自転車で30分足らずの場所にあった。


そういう事もあり、結構な頻度で会っていた。

とある喫茶店で…。

その日は雨だった…。


健治 「どうだ?ベースは。」

博記 「あぁ。安物だけどな。やっと自分のベースを手に入れたんだ。嬉しいよ。」

健治 「確かに安物だな。」

博記 「オマエに言われるとハラ立つんだが。」

健治 「気にすんな。」

博記 「で、曲の事なんだが…。」

健治 「?」

博記 「メンバーも居ないし、とてもライヴなんて出来ないだろうけどさ、目標ってカタチで何曲か練習すべき曲を決めてた方がイイんじゃないか?」

健治 「そりゃそうだ。オマエにしちゃイイ事言うじゃんか。」

博記 「ウルセーな。」

健治 「メンバーか…。」

博記 「取りあえず必要なのはドラムとヴォーカルと、ギターがもう一人欲しいよな。」

健治 「キーボードも必要だろうが。」

博記 「取りあえずのハナシさ。早急にドラムとヴォーカルは必要だ。」

健治 「ヴォーカルなら居るぜ?」

博記 「ドコに?」

健治 「ココに。」

博記 「だからドコ?」

健治 「ワザと言ってんだろ。」

博記 「オマエか?」

健治 「あぁ。歌なら高校ん時も部室で毎日のように歌ってたからな。声の幅もカナリ広がったし、声量も増えた。」

博記 「確かに。あの声量に、あの幅はナカナカ出ないよな。」

健治 「だから俺はヴォーカルをやろうと想って。」

博記 「しかし…オマエはギタリストじゃなかったのか?」

健治 「新聞配達のバイトしながら学校行かないとイカンからな。実際ギターに触ってる時間はドンドン短くなってる。」

博記 「それでイイのかよ?」

健治 「あぁ。俺は歌いたい。」

博記 「……………納得いかないけどイイか。」

健治 「配達中とかも歌ってんだぜ?」

博記 「朝っぱらからか?」

健治 「勿論。」

博記 「近所迷惑なヤツだ。」

健治 「朝から俺の歌が聞けるなんて幸せなんだよ。」

博記 「言ってろ。アホ。」

健治 「しかし、ギターもしないワケじゃないからな。新しいギターが加わるまでは俺がギターとしてやってくツモリだ。」

博記 「アレもコレもじゃウマクなんてなんないぞ?俺達にはまだ技術は無いんだからな。」

健治 「オマエには…だろ?」

博記 「あぁ。俺には技術なんて呼べるものは無い。そんな俺がベースを…ましてや音楽を語るなんて恐れ多いかも知れないが、それでも真剣にやってる。」

健治 「ジョーダンだよ。バァカ。高校ん時の半年間でオマエは随分レベルアップした。オマエを誘ってホントに正解だったと想ってるよ。」

博記 「嬉しくねーけどな。」(ニヤつきながら)

健治 「キモッ!」

博記 「キモイとか言うな!!」


すると唐突に店の外から悲鳴が聞こえてくる。


健治 「?なんだ?」

博記 「悲鳴だろ。」

健治 「行ってみよう。」


店の外では、数人の若い男がボコボコにされて気絶していた…。


博記 「うっわ…痛そう…。」

健治 「こりゃ…痛ぇな…。」


近くで悲鳴を上げたらしき女と、その友達が話してるのと盗み聞きしたトコロによると、一人の男が歩いていて、正面から歩いて来てた5人ぐらいの男達(ボコボコにされたヤツラ)の一人の肩と肩が接触して口論になったのだという。

目撃した女は、雨降りで視界も悪く、別にケンカは珍しい事でも無いらしく、雨宿りのついでにケンカを見ているというカンジだったらしい。

しかし、興味を無くし、視線をそらして暫くして元に戻したら既にこの有り様だったのだそうだ。


博記 「コイツラが悪いな。」

健治 「当然だな。」(店の中に戻りつつ)

博記 「群れたがるんだよねぇ…生き物ってさ。」

健治 「しかし、聞いたハナシでは短時間の出来事だったみたいだが…どうやって五人ものヤツラを?」

博記 「知らねーよ。それに聞いたハナシっつーか盗み聞きだけどな。」

健治 「こんなドシャ降りによくケンカする気になるよな。」

博記 「物騒だなぁ…。」

健治 「田舎者発言だな。」

博記 「何でだよ。」

健治 「何だよ、その気の無いツッコミ。」

博記 「漫才…かぁ…。」

健治 「?」


そして翌日。

昨夜の雨もすっかり上がって快晴であった。

しかし博記は午後からの授業であったため、昼過ぎまで寝る予定だったのだが…。


博記 (携帯が鳴っているので起きる)「うぅ…誰だよチクショウ…。」


博記は眠りを邪魔されるのを特に嫌う。

博記自身、寝つきが悪く、一度起きたら二度寝しにくい体質という事もあって。


博記 「もしもし。」(カナリ不機嫌そうな声で)

健治 『おう。起きてたか?』

博記 「何か用か?」(ウザったそうに)

健治 『昨日のケンカなんだが。』

博記 「…。」

健治 『ヤラれたヤツラのハナシだと金髪で両耳に二つずつピアス開けてて、腕に『RAIN』て刺青がしてあるヤツらしい。』

博記 「で?」

健治 『イヤ、今朝の新聞に載ってたから知らせておこうと想ってな。』

博記 「どうでもイイよ。そんな事は。」

健治 『何だ?ヤケに機嫌悪いな。』

博記 「別に。用はそんだけか?」

健治 『あぁ。』

博記 「じゃぁ切るぞ。またな。」

健治 『お…おう…。』


ホントにどうでもイイ事だと想った。

でも、そういう不機嫌になった事を必ずと言ってイイほど後悔するのであるが…。

そういうヤツなのである。


ただ、今回のこの事件(?)は『どうでもイイ』じゃ済まされない事になりそうである。

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