第1話 新しい地

季節は春。

福岡の街を一人の男が眉間にシワを寄せつつ歩いていた。

彼の名は博記。


博記 「あ~クソッ!何でこんな人ばっかなんだよ!!」


博記の携帯が鳴る


博記 「お♪携帯買ってもらってから初の着信じゃん?相手は…アイツかよ…。」


アイツとは健治。

この二人は中学生からの仲で、言わば腐れ縁である。

この二人は他に何人か集めて地元でバンドを組み、一度小さいライヴをやった。


博記 「もしもし。」

健治 『おう。どうしたんだ?昨日買って貰ったばっかの携帯が鳴ってなくて寂しいだろうと、ワザワザかけてやってんだぞ?』

博記 「何か用か?」

健治 『つめてぇ言い方すんなよな。今ドコに居るんだ?俺は今からヒマだからハナシでもしないかと想ってさ。』

博記 「今は天神だ。」

健治 『休みにワザワザ天神か?人ごみがキライだっつってたろ?』

博記 「しょーがねーんだよ。ベース買いに来たんだから。」

健治 『ベース?買うのか?』

博記 「あぁ。壱岐でバンドしてた時は借り物だったしな。ちょいとホンキでベースやってみたいんだ。」

健治 『ほほう。そりゃ珍しい…。』

博記 「ベース買ったら行くよ。」

健治 『それはイイが、ちゃんとしたの買えよ。』

博記 「じゃぁ後で。」


電話を切って歩き出す。


博記 「ちゃんとしたの……ってどんなんだよ…。」


そして健治は…


健治 (ギターを弾いてる)

春彦 「よぉケンジ。」(入って来つつ)

健治 「んだ春彦かよ。入る時はチャイム鳴らせ。」

春彦 「だってオマエ、鍵かけてないじゃん。」(座る)

健治 「親しき仲にも礼儀ありだ。」

春彦 「よく言うぜ。(コーヒー出して)差し入れだ。」

健治 「サンキュ。」

春彦 「そういやオマエって高校ん時バンドやってたんだよな?」

健治 「高校ん時っつっても二・三ヶ月前ぐらいだけどな。」

春彦 「やっぱバンドって楽しいか?」

健治 「楽しいっつーか…ムチャクチャだったな。」

春彦 「…。」

健治 「少しも練習しないベースに、人の邪魔ばかりするベースに、太い弦なのに切るベースに、ド素人だったベースに…」

春彦 「全部ベースじゃん。」

健治 「そう。でもアイツとだったから楽しくやれたんだろうな。」

春彦 「やっぱ楽しかったんじゃん。」

健治 (苦笑いして)「まぁな。」

春彦 「しかし、オマエは中学の頃からギターやってたんだよな?」

健治 「あぁ。」

春彦 「じゃぁ何故そんなド素人を誘ったんだ?ある程度オマエの実力はあったハズだ。なら素人にイチから仕込むよりは…。」

健治 「やっぱそう思うよな。俺もそう思うよ。何でアイツを誘ったか分からない。でも、それは間違いではなかった。」

春彦 「ヘェ…会ってみてぇな。」

健治 「もう少ししたら来ると想うぜ。ベース買いに天神に行ってるんだと。」

春彦 「んじゃ…。」(立ち上がる)

健治 「なんだよ春彦。会いたいっつってたのにもう帰るのかよ。」

春彦 「違うわ。コーヒーがもう一本必要だろうが。買ってくる。」(出て行く)

健治 「(また苦笑して)アイツ…シッカリしてんなぁ…。」


そして、暫くして博記は健治の部屋に来た。


博記 「(ドアを開けて)来たぞ!!」

健治 「イキナリそれかよ!」

博記 「別にイイじゃん。ん?」(春彦に気付く)

春彦 「よぉ。」

博記 「ハ…ハジメマシテ…。」

春彦 「?」

健治 「あぁコイツ、人見知りするんだ。名前はヒロキ。で、こっちがハルヒコ。」

博記 「宜しく。」

春彦 「こちらこそ。」

健治 「ヒロキ、これは春彦からの差し入れだ。」(コーヒーを渡す)

博記 「あ♪ありがとう。」

春彦 「どういたしまして。」

健治 「挨拶も済んだし、ベース見せろよ。」

博記 「OK。」


そして…。


健治 「なぁヒロキ。」

博記 「ん?」

健治 「チューナーって知ってるか?」

博記 「ナメんなよ?」

健治 「じゃぁ何で無いんだ?」

博記 「…へ?」

健治 「ストラップとシールドとピックしか無いじゃねーか。今度から一人で楽器店へは行くな。」

博記 「はい…。」

春彦 「ははは…。」

健治 「幸いチューナーは俺が持ってるからイイけどな。」

博記 「返す言葉も御座いません。」

健治 「ま・何にせよ、ベースを買ったワケだし。」

博記 「おう。KENDYSはイツでも始動できるぜ。」

健治 「その名を出すな。」

春彦 「KENDYSか…?バンド名。」

博記 「かっこいいだろ?」

春彦 「ある意味最高だな。」

健治 「一生言ってろ。」

博記 「さて。帰って練習すっかね。」

健治 「ほぉ珍しい。」

博記 「高校の時より上を目指す。当然だろ?じゃな。」

健治 「何しに来たんだよ…すぐ帰って行きやがった…。」

春彦 「アイツがオマエが中一ん時から友達っていうヤツか…。」

健治 「見た目も中身もバカだ。」

春彦 「それよりさっきのヤツの目…見たか?」

健治 「あぁ。ホンキで『上を目指す』みたいだな。」

春彦 「オマエもモタモタしてらんないんじゃないのか?オマエが誘ったとは言え、ボヤボヤしてるとスグ抜き去られてしまうぞ?」

健治 「無い無い。」

春彦 「だとイイんだがな…。」


こうしてヒロキはベースを手に入れた。

チューナーを買い忘れてるあたりがヒロキらしいと言えばヒロキらしいのだが。

ここからまたKENDYSの物語は加速していく。

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