第4話 監禁状態

 僕ら一行は城内にある一角の部屋に押し込められていた。


 目隠しされて連れてこられたため、ここが広い城内のどこになるかはわからない。

 実に徹底されている。


 なにより、この部屋。

 一応窓はあるがたいした光も入らない。それも上のほうにあるため外の様子すら見えない状態。


 置かれているものも、簡易的なベッドが四つあるぐらい。


「こりゃ、ほとんど牢獄だ」

 剣士コナイルさんが嘆いた一言が、この部屋を的確に表していた。


 コンコンと固い壁を軽くたたくコナイルさんは軽装のヨロイを身に着けている。


 俊敏に動き、自ら前に出て戦ってくれる勇敢な男。


 だけど、その戦いに貢献してきた彼が所持する剣はその腰にない。

 ここに入れられる前に没収されている。


「ここまで手厚い宿を提供いただけるとは思いもしなかったな」


「でもまだ、ここは牢獄じゃない……。許可ない出入りはできないみたいだけど」


 魔法使いのアーティさん。水色を基調としたローブを身にまとう魔女。


 そんなアーティさんが視線を送る先は、この部屋の入り口ドアについた格子窓。


 そこから警備ふたりがたたずんでいるのがしっかりと見える。


 鍵こそかかってないが、実質動くなと言っているようなもの。

 トイレや食事にまで監視が付くらしい。


 そんな中で勇者さまはベッドに腰かけ、壁にもたれかかった。


「仕方ない。

 陛下の暗殺を疑われているんだ。俺たちの自由を奪いたい気持ちもわかる」


「だけどここままじゃ……勇者は本当の牢獄に入れられかねないよ。

 少なくとも王子殿下は確実に勇者を疑っている」


 アーティさんの言う通り。

 あの会場での王子さまの発言は、大きな説得力が伴っていた。王さま亡き今、国のトップは実質彼だ。


 もし、仮にもボトルに毒が入っていたりなどしたら、確実に捕まってしまう。


「……勇者さま。毒なんて、入れずはずがないですよね?」


「当たり前だ。そんなバカなこと、する理由がない」


 勇者さまは迷いなく答えた。

 まっすぐと僕のほうを見てくるその目は十分に信じられる。


「……ですよね。じゃ、きっと大丈夫ですよ。絶対に、本当の犯人が捕まります。

 勇者さまは無実だって、証明されますって」


 少しでも暗い空気を換えていこうと声のトーンを上げてみた。


「そううまくいけば……御の字なんだがなぁ……」


 そんな空気を全力で引き戻すトーンで話しだしたのはコナイルさん。

 腕を組みながら天井を見上げる。


「なにが起こるか、わかったもんじゃねえぞ……。思惑通り、真実の通りに動くかどうかは……わからねぇ……」


 コナイルさんの言葉に勇者さまが深くうなずいた。


「……そりゃそうだ。

 陛下が暗殺された時点で、おかしなことになっているんだもんな」


「……」

 僕は次に出せる言葉が思いつかなかった。


 本当にすべてがきれいに進むのだとするなら、今頃僕らは王さまから魔王討伐の報酬を受け取っていただろう。


 だけど、現実はそうではない。

 ここから先、なにもしなかったら、どう転んでいくのか……想像できるものじゃない。


 結局、暗い空気が戻ることはなかった。



 その日は当然、この牢獄もどきの部屋で一夜を過ごすことになった。


 ただ、状況が状況なだけあって、まともな睡眠など取れるはずもなく、朝を迎える。


 そして、やっとぐっすり眠り始めたというタイミングのこと。ドアを乱暴にたたく音で強引に僕らは起こされた。


 重たいまぶたを開けようと努力する。しかし、それより先にガシャンと音を立てて、なにかが置かれた。


 目を開けて確認するとトレイがすぐそこに。朝食がその上に置かれている。


 ほかの三人もノソノソと体を起こし始めた。


「朝食です。毒は入ってないので安心してお食べください」

 この朝食を持ってきた男が少し意地悪な笑みを浮かべつつ言ってきた。


 コナイルさんが目の前のパンをおぼろげな手でなんとかつかみ上げる。


「本当に最高の歓迎だな。

 魔王討伐に成功した一味にふさわしい朝食をどうも」


 用意された朝食はパン一個とスープのみ。昨日の会食はおそらく夢だった。

 そう思わないとやっていられない。


「朝食と合わせて、勇者さまご一行にプレゼントをあります。今朝、掲示板に貼られた活版の複製です」


 そう言うと男は自身の胸ポケットから、一枚の紙をヒラリと僕らの前に落とした。


「一国民として、あなた方の活躍はよく知っています。間違いなく英雄です。


 でも、この話は別です。お覚悟をしたほうがよろしいかと」


 最後、そう言うと、この部屋を出て行く男。警備に敬礼をすると、去っていった。


 パンをガツガツとかじっていたコナイルさんが手を止める。

 視線の先には、プレゼントされた紙を手にして固まっている勇者さまがいる。


「ヒアロ、その活版になにが書いてあったんだ?」


 勇者さまはしばらく無言だった。

 やがて床にその紙をそっと置き、僕らに見せる。


 そこに書かれていた内容は、昨日の会食の事件について。


 目に飛び込んでくるワード。


「王さま暗殺」

「容疑者は勇者?」


 そんな文字が活版印刷されていた。

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