最終話
「シラベ先輩が犯行を認めたよ。妹が犬アレルギーを患って、家では犬を飼うことが難しいから学校で飼いたかったんだってさ。シキ部長もヒカリも初めは怒っていたけど、結局、あのポメラニアンは部室で飼うことを決めたそうだよ」
「そう、良かったわね」
ウツツは大して興味も無さそうに言った。事件の顛末よりも、バナナを貪るゴリラに関心があるようだ。
次の土曜日、私とウツツは動物園に来ていた。前回と違って開園している時間のため、園内は親子連れやカップルで賑わっている。ゴリラの大きな手がバナナを器用に剥く姿にみな舌を巻いていた。
「でも、まだ分からないことがある」
声のトーンをわずかに下げて言う。ウツツも私の真剣さを感じ取って、こちらを振り向いた。
「ウツツのことだよ。ねえ、どうして私のことを避けてたの?」
あの日以来、急にウツツは私のことを避けなくなった。学力テストは数学が特に出来たことも、昼食は自分でお弁当を作っていることも教えてくれた。ウツツの作った卵焼きを食べたときには、甘々の卵焼きが私の涙で塩辛くなるほど嬉しかった。
だからこそ、あのウツツに避けられていたのは何だったのかと気が気でない。これを聞かずに前へ進むことができなかったのだ。
「……笑わないで聞いてくれる?」
「もちろん」
「ユメ、中学を卒業するとき言ったじゃない。『休みの日には一緒に遊ぼう』って。ユメは高校生になっても遊ぼうねって意味で言ったのでしょうけど、私は春休みに遊ぼうって意味だと勘違いしてたのよ。でも、待てども待てどもユメからのお誘いはないから、そのうちユメに嫌われたんじゃないかと思うようになってしまって。いつお別れを告げられるのか怖かったから、ユメを避けるような振る舞いもしてしまったわ」
なんだそれは。
つまり私たちは、互いに嫌われたんじゃないかと勘違いしながら高校生活を過ごしていたのか。
夜の動物園での会話を思い出す。あの日は体験したことを全てウツツに話していた。運搬作業中に吹いた風が、春休みの間行っていた岩手よりも寒かったとウツツに話した覚えがある。ウツツはそこで初めて、春休みの間は私が祖母の家にいたから遊ぶことが出来なかったと、私に嫌われてたわけでないのだと知ったのだ。
何というか、可愛いなあと思った。私がウツツと話が出来ず、遠くから眺めることしか出来ていなかった間、ウツツもまた私のことを考えてくれていたのだ。ウツツの思いが愛おしく感じる。自然と私の口角が上がっていた。
「あ、いま笑ったわね」
「笑ってない笑ってない。嬉しかっただけだよ」
「嘘。絶対笑ってたわよ」
ウツツがぷっくり頬を膨らました。私の手を掴み、せわしなく歩き始める。ウツツの手から伝わる熱が心地よい。
「今までの分、今日はとことん遊ぶからね。ほら、つぎ見に行くわよ」
前を歩くウツツの顔は見えない。でもきっと笑顔なんだろうと、私には分かっていた。
新入部員ポメラニアンの謎 天海エイヒレ @_rayfin
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