第4話
「うーん、問題は山積みだけど……」
ヒカリは開いていた窓を閉めると、部室を見渡した。視線を追うように私も部室を見る。どこを見ても、物であふれかえっていた。
「まずは片付けかな」
ごめんね、とヒカリがウィンクで訴えかける。乗りかかった船だ。ハーブティーを淹れてもらうためにも最後まで手伝うとしよう。
床に落ちた書類を取ろうと手を伸ばす。しかし、取ろうとした書類が風に乗って私の手から離れてしまった。入り口のドアが開かれたのだと遅れて気が付いた。誰かが部室に入ってきたようだ。
「あらあら……」
「僕たちがいない間にパーティーでも催されていたのかな」
部室に入ってきたのは、ウサギのような優しげな眼差しを持つ長い髪の女生徒と、鷹のような気高さを感じさせる切れ目の女生徒だった。制服のタイの色から二人とも二年生だと分かる。園芸部の先輩だろう。二人とも手には園芸用の土の入った袋を抱えていた。
ウサギの君はシキ、鷹の君はシラベと名乗った。シキさんは園芸部の部長らしい。私も自分の名前とヒカリの手伝いをしていることを話した。
「なるほど。それで運び終えて一息つこうとしたところ、このか弱い子猫ちゃんが迷い込んでいたわけだね」
「え、はい。そんな感じです」
犬に子猫ちゃんという比喩を使うのはどうなんだろう。後で聞いた話だと、シラベ先輩に言わせればバラもスコップも学食のカレーも何でも子猫ちゃん認定するそうだ。
「ともあれ、部室の片付けから始めるというのは賛成ですね。シラベとヒカリさんは机と棚にあった荷物を元に戻してもらえますか。ユメさんは本を本棚にお願いします。順番は適当で構いませんので」
シキ部長が指示を飛ばす。部屋のどこに何をしまえば良いか分からなかったので、しまう場所が明確である本の整理で助かった。
「あなたはここで待っていてもらえますか」
シキ部長は犬を部室の隅に運び、手のひらを犬の鼻近くに広げて制止させた。犬はシキ部長に従い、おとなしくお尻を床につけて座り込んだ。この部屋で誰が一番偉いのかのヒエラルキーが分かっているようだ。
床に落ちた本を拾い上げる。植物の育て方や図鑑の他にも、ミステリー小説、天文年鑑、ファッション雑誌やゲームの攻略本まで軽く本屋でも開けそうなラインナップが揃っていた。一体何部なんだここは。
「これはシラベの絵筆かしら」
「ありがとう、シキ。ずっと探していたんだよ。この子猫ちゃんはヒカリ、君の物かな」
「はい、それ私のです。シキ部長、こっちには部長の卓球ラケットが落ちてましたよ」
何部か分からないのは本だけでないらしい。割と自由な部活のようだ。ちなみに今度の子猫ちゃんは今朝見た開運の三毛猫さまだった。正しく子猫ちゃんな時もある。
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