恋愛対象は男
「好きです…!篠崎先輩!」
夕暮れの校舎裏。
緊張しながらも響き渡る後輩の女子の大きな声。
俺は複雑な気持ちで声を一言、振り絞る。
「……ごめんね。」
どうやらそれだけで察したようで、後輩女子は涙を流しながらその場を去った。
俺も女子を泣かすようなことはしたくないが、どうしても好きになれないなら、恋人ごっこに付き合わせるあの子が可哀想だ。
「まーた振ったんだ。」
半分呆れ、半分驚きの顔で後ろから親友が小突いてきた。
「…盗み聞きしてんじゃねぇよ。」
「だって校舎裏に女子に呼び出されたなんて、気になってしょうがないじゃん?まぁ大体予想はついてたけど。」
「あの子は女だ。どうしても好きにはなれないからな。」
俺は篠崎綾斗。
14歳で高校2年生。
男性同性愛者。いわゆるゲイだ。
恋愛対象は男で、女に恋愛感情を抱くことは絶対にない。
「学校一のモテ男、篠崎綾斗サマがゲイだってみんなが知ったら、きっと驚くだろうな〜」
「バラしたらただじゃおかねぇぞ。」
「ウワァ、アヤトクンコワーイ。」
で、こいつは親友の月城怜音。
怜音は普通の異性同性愛者。つまり恋愛対象は女ってことだ。
俺がゲイだってことを唯一知っている人物だ。
家族にも話したことは無かったから。
「ま、どーしてもっていうなら、俺が付き合ってあげなくもないけど?」
男のくせに妙に可愛気のある顔で、いたずらっ子みてぇににやりと笑って、上目遣いでそう言った。
「はいはい。ゲイ相手にそういうことは言わないこと。」
「……そういえば綾斗は好きな奴いないんだっけ?」
「さぁな。誰が教えるかよ。」
「ほら〜!またそうやってごまかす〜!!」
今俺の目の前にいますけど?
お前の親友ですが何か??
ごまかすなんて当たり前だろ。
だって俺の好きな奴は、紛れもなく怜音だから。
「どうせ綾斗のことだから一目惚れかなんかなんだろ。」
図星。
高校入学直後、怜音に一目惚れした。
それで、同じクラスになったり気が合ったりして友達になってった。
俺がゲイだって知っても、普通に接してくれた。
思わせぶりな言動が、ちょっと気になることはあったけど。
「…と?あーやーと?」
「へ?」
「へ?じゃねぇよ。どした?さっきからボーっして。」
「いや、なんでもねぇ。さっさと行くぞ。」
赤くなりそうな自分の頬を上手く隠しながら、道の少し先を行く怜音を追いかけた。
ゲイは男装女子に恋をした。 浅田華音 @djgmptwa
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