無敵の人

「無敵の人が現れたぞーっ!! 誰か助けを呼んでくれ!!」


駅前の通りに悲鳴と怒号が響く。

近年無敵の人が通り魔と化し、暴虐の限りを尽くす事件が後を絶たなかった。


「急げ沖田! 被害が拡大する前になんとしても奴を抑えるんだ!」

「はい先輩!!」


新米警官の沖田は近場の交番から緊急の要請を受け、現場に駆けつけていた。

先輩と共に必死で自転車を漕ぎ、ものの数分で到着する。

通り魔が暴れた後は凄惨の一言だった。

何人もの負傷者たちが、傷跡を抑え道にうずくまっている。


「くそ! 奴は……犯人はどこへ行った!」

「先輩! こっちです!」


沖田は制服警官たちが集まっている人垣を指差した。

自分たちより早く臨場した同僚たちが犯人を取り囲んでいるらしい。



沖田は今年警察官になった新米だ。

通り魔事件などという凶悪犯罪の現場に遭遇するのはこれが初めてだ。

心臓がバクバクと早鐘を打つ。


(やべえ。正直言ってめちゃくちゃ怖い。現場の緊張感半端ないわ。……けど大好きなこの街の平和のため無敵の人は許すことが出来ない。この街は俺が守る!)


沖田は警官たちが十名ほど群がる包囲網に加わった。

警官たちは拳銃を構え、包囲の中心にいる男に向かって標準を定めている。

包囲の中の犯人と思しき中年男性がこちらを睨んだ。


(……小柄だし、衣服もボロボロ。冴えない中高年って感じだな。見るからに不器用そうな男だ。きっと今まで生きていく中でさぞ辛い目にあってきたんだろう。だからと言ってそれが他人を傷つけていい理由になどならないんだ!)


中年男性は歯を剥き出しにし、こちらに今にも飛びかかってきそうだ。

まるで野生動物の捕物だ。

男が襲いかかってきたらこちらも無傷では済まされない。

それでもこの包囲を突破されたら、また罪もない市民が犠牲になってしまう。


沖田が心の中で覚悟を決めると、男は自分の身体を始めた。


「くそ!」


その不審な行動に疑問を抱いていると、突然男がこちらに向かって走り出した。

慌てて現場の指揮官が号令を下す。


「発砲許可! 撃てぇーーっ!!」


昼下がりの駅前に銃声が鳴り響く。

数発の銃弾が確かに男の身体に着弾した。

だが、男はけろりとした顔でこちらに向かって走り続けている。

まるで無傷のようだ。


包囲を作った警官たちが、男に触れた瞬間吹き飛ばされていく。

その人智を超えた力に驚愕していると、沖田の横を男がすり抜けていく。

男は包囲網を突破したのだ。


吹き飛ばされた指揮官が、よろめきながら立ち上がり、指示を出す。


「追いかけろ! 奴のは目前だ!!」


その言葉を聞き沖田は全力疾走で追いかけ始めた。

学生時代はラグビーのフランカーとして活躍した沖田だ。

無敵の人に通用するかは不明だが、意を決して男にタックルをかました。

見事沖田のタックルが無敵の人を捉え、拘束に成功した。


「確保ー!! 犯人確保ーー!!」


沖田のやかましい声が駅のホームに響き渡った。

駅前にようやく安堵の空気が流れた。



◇◇◇◇◇◇



午後のニュースで早速、先程の事件が報道されていた。

七三分けのニュースキャスターが原稿を読み上げる。


「先程、駅に無敵の人が現れ通行人、警察官合わせて十数名を負傷させる事件がありました。その後犯人はその場で現行犯逮捕されました。犯人は住所不定無職のY山X太郎47歳で警察の取り調べに対し、を拾ったんで使ってみたくなってしまった。反省はしていると述べている事が分かりました。なお、現在ちまたで『無敵化アイテム』なる危険な超常物質が確認されています。拾った方は速やかに最寄りの警察署に届けてください。間違っても使用しないよう注意してください。もし使用してしまった場合慌てず騒がず、無敵化の時間であるが切れるのを待ってください。無敵化の最中は身体がプリズムに発光し、その状態で人と接触すると不思議な力で人を弾き飛ばし危害を加えてしまいます。繰り返します。『無敵化アイテム』を使用するのはお止め……」

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