私の夫、不倫してます。

 私の夫、不倫しています。


 昨日だって、彼のあとをこっそり付けてたら、私と同じぐらいの若い子と手繋いじゃって、ショッピングやら、遊園地やらに遊びに行ってたのよ。

 あの人たちの顔はなんて幸せなことか!

 もう許さないわ! 今日はぜったいに認めさせてやる!

 写真や動画をこれでもかってぐらい撮っちゃって、もうSDカードの容量はパンパンよ!

 

 そんなときに夫は帰ってきましたわ。

 

「あなた……これ、どういうことなの……!」

「あぁ……これは違うんだって……」

「この期に及んで言い逃れしようなんて……もういいわ!こんなところ出てってやるわよ!」


 わたしは何も持たないで外に出ていきました!

 今度はぜったいに、帰ってこないからね……!

 ぜったいよ!




















 私の母は、認知症です。


 どうやら記憶が20代の頃までしか残っていないみたいで、私のことをお父さんだと思い込んでいるんですよ……

 昔は、妻と父さんと一緒に4人で暮らしていましたが、父さんが亡くなってから変になっちゃって……妻を不倫相手だなんて言って、頻繁にヒステリックに起こして家の中で暴れまわるものですから、別居するハメになっちゃったんです。

 あれから私は介護として、母と疑似的な夫婦関係を結んでからしばらく経ち、ようやく母の疑いがなくなったとほっとしていましたが、今度は私の娘を不倫相手だと思い込んでいるみたいで……はは、もう堪ったものではありませんよ。

 

 そして今、娘と会っていたことがばれてしまい、母は出ていってしまいました。

 

「ああ、またか」


 これで母が家を飛び出したのは、もう30回目です。

 はじめは警察にも協力してもらい必死で探しましたが、今はべつに何もすることはありません。

 なんでかって?

 母は私に一途で、どんなに嫌って出ていこうが最後は自分から戻ってきて、甘えてくるんですよ。

 なんと愛らしく、お騒がせな人なんでしょうね。

 こんなことの繰り返しなんで激怒することもあるっちゃあるんですけど、私がずっと知らなかった母を知ることができ、自分も父に近づいてきたのかなって、妙に嬉しくなるんですよ。

 まあ、これが認知症の母と私の付き合い方ってもんですかね。

 

 「さて、準備するか」


 今日は母の72歳の誕生日。

 母が大好きな料理を準備して、帰ってきたら娘と選んだプレゼントを渡すとしますか。

 

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