第17話 五弦と会場

二月も半ばにさしかかった。


ヒロキ 「あ~ヒマだ…。」

ケンジ 「練習しろ。」

ヒロキ 「お決まりの会話だな。」

ケンジ 「もう一ヶ月もないんだぞ。」

ヒロキ 「そうだな。」(と言ってギターを準備する)

ケンジ 「イヤ…ベースしろよ…。」

ヒロキ 「細かい事は気にすんな。」


~そしてヒロキはRocket Diveを練習しはじめる。~


ケンジ 「ライヴ会場…どうすっかなぁ…。」(独り言)

ナオコ (入ってくる)「こんにちわぁ。」

ケンジ 「おす。」

ナオコ 「シマ先輩はギター中ですか。」

ケンジ 「練習しないから困ってんだよ。」


~そこに唐突にバチン!という音が響く。~


ナオコ 「!?」

ケンジ 「ヒロキ?」

ヒロキ 「………。」(音を出した張本人)

ケンジ 「なんだ?今の音…。」

ヒロキ 「五弦(ギターで二番目に太い弦)が…。」

ケンジ 「?…(ギターを見る)うわっ…。」

ナオコ 「?」(つられて見にいく)


そこには切れたとまではいかないが、伸び切った五弦の哀れな姿が…。


ケンジ 「オイ…一弦切るのならまだ分かるが…どういう弾き方したら五弦がこんなになるんだよ!」

ヒロキ 「知らねーよ。切れたもんはしょうがないじゃん。」

ケンジ 「有り得ねぇ…。」

ナオコ 「チカラ入れすぎなんじゃ…?」

ケンジ 「ベース弾いてる感覚で弾くからだろ。」

ヒロキ 「…。」

ケンジ 「五弦…買って来い。」

ヒロキ 「うぃ…。」(買いに行く)

ケンジ 「ったく…何やってんだか…。」

ナオコ 「普通はあんなにならないですよね?」

ケンジ 「滅多にならないだろうなぁ。」


そして数日後。

俺とケンジはライヴ会場獲得に乗り出した。


ケンジ 「まずは文化ホールだな。」(文化ホールへの道を歩きつつ)

ヒロキ 「ん~…。」


そして二人は文化ホールへと着いた。


ケンジ 「聞いてくる。」

ヒロキ 「おう。」

ケンジ (職員が居る方へ歩いていく)

ヒロキ 「そういやココには苦い思い出があったっけ。」(第六話参照)


暫くしてケンジが戻ってきた。


ヒロキ 「今思い出してもハラが立つぜ…。」

ケンジ 「何ブツブツ言ってんだよ?」

ヒロキ 「あ…いや…。で?どうだった?」

ケンジ 「無理だな。」

ヒロキ 「なんで?」

ケンジ 「金額的に無理がある。」

ヒロキ 「やっぱりなぁ。ここって色んな事に使われるしなぁ。」

ケンジ 「さて。どうするか…。」

ヒロキ 「楽器屋あるじゃん?壱岐高の近くに。」

ケンジ 「あぁ。あのいつ開いてるか分からない楽器店な。」

ヒロキ 「オマエ、あそこのオジサンと仲良くなったっつってたじゃん。」

ケンジ 「それはそうだが…。」

ヒロキ 「そのオジサン、どこかイイ場所知らないかな?」

ケンジ 「さぁ?」

ヒロキ 「当たってみてくれよ。」

ケンジ 「そうだな。物は試しだ。」


そんなこんなで楽器屋のオジサンに運命は託された。


更に数日後の部室。


ヒロキ (ベースの練習してる)

ケンジ 「ういーす。」(入ってくる)

ヒロキ 「よう。」

ケンジ 「珍しいじゃん。練習してるなんて。」

ヒロキ 「イヤ…そんな全然練習してないみたいな言い方しなくても…。」

ケンジ 「違ったか?」

ヒロキ 「…。そういや会場はどうなった?」

ケンジ 「そうそう。オジサンがイイ場所知っててね。ってか、オジサンが経営してるバーっつーか、そんなカンジの場所でな。ライヴっていうか、ちょっとしたバンドの演奏ぐらいなら出来るみたいなんだよ。でな、ソコを見せてもらったんだ。結構雰囲気いいぜ。」

ヒロキ 「へぇ。で?肝心のお値段は?」

ケンジ 「それが、普通に借りたらやっぱ結構かかるんだよ。雰囲気もイイしな。アンプとか結構高級器材が多かったし。でも、頼みに頼み込んで破格の値段にしてもらった。一人アタマ2~3千円でイイんじゃないかな。」

ヒロキ 「そのぐらいなら何とかなりそうだな。」

ケンジ 「オジサンに感謝しろよ?こんな値段は普通有り得ないんだからよ。」

ヒロキ 「そうだな。」

ケンジ 「さて、会場も決まったし、後は集金だな。」

ヒロキ 「俺とオマエが主に出さないとな。」

ケンジ 「当然だろう。で、後は出せるだけでイイよな。」

ヒロキ 「あぁ。で、日程は?」

ケンジ 「三月の第一日曜日にやる。」

ヒロキ 「はぁ?」

ケンジ 「なんだよ?」

ヒロキ 「もうあと三週間ぐらいしかないじゃないか…。」

ケンジ 「仕方ないだろうが。格安で貸してもらってんだ。向こうの予定を最優先しないとな。それに、見に来てくれるヤツラって、後輩とかが主になるだろ?ソイツラは三月末まで学校あるから日曜日ぐらいしかないじゃん。」

ヒロキ 「イヤ…そりゃそうなんだが…。」

ケンジ 「オマエでも慌てんだな。」

ヒロキ 「どういう意味だよ。」

ケンジ 「兎に角そういう事だ。他のメンバーにも知らせないとな。」

ヒロキ 「お…おう…。」


こうしてKENDYSの最初で最後のギリギリなライヴは1999年3月7日に決定した。

まぁライヴとは言っても、告知とかはしてなかったから、仲のイイ友達を集めた、身内だけのライヴみたいなカンジになるだろう。

最初はソレでイイ。

このメンバーで出来るのは間違いなくコレが最初で最後だろうけど、俺はベースを続けたい。

出来ればケンジと一緒に何年、何十年経っても変わらずバンドをしていたい…。

そう思っていた。


ライヴは目前である。

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