第16話 新しい年

1999年最初の練習の日。

俺とケンジはいつものように部室に居た。


ケンジ 「よく考えたら、あと二ヶ月で卒業なんだよな。」

ヒロキ 「俺は卒業したら福岡の専門学校へ行く。オマエも福岡の専門学校だろ?」

ケンジ 「あぁ。」

ヒロキ 「福岡でもバンドしたいよな。」

ケンジ 「だな。オマエは何の学校だっけか?」

ヒロキ 「情報処理だよ。」

ケンジ 「なんでまた?」

ヒロキ 「取りあえずだ。今からの時代は必要だろ?」

ケンジ 「まぁな。」

ヒロキ 「オマエは?」

ケンジ 「新聞配達しながら公務員の学校に通うさ。」

ヒロキ 「そうか。」

ケンジ 「それより、ライヴどうするかだな。」

ヒロキ 「どうするか…って?」

ケンジ 「会場だよ。」

ヒロキ 「文化ホール(第六話でヒロキ達が居た場所)は?」

ケンジ 「費用がなぁ…。」

ヒロキ 「だよなぁ…幾らぐらいかかんのかなぁ…?」

ケンジ 「それに曲も決めないとな。順番とか。」

ヒロキ 「しかし…ドラムは見つかりそうにないな。」

ケンジ 「それなんだよなぁ…。後はヴォーカルだな。ヤスは来ないしな。」

ヒロキ 「今からでも遅くないじゃん。」

ケンジ 「そうだな…。改めて話してみるか。」

ヒロキ 「うし。新年最初の音出しといきますかね♪」

ケンジ 「年が変わっても実力は変わらないがな。」

ヒロキ 「うっさいなぁ…。」


こんなカンジで、まだまだ不安要素は多々あったが、それでも俺達は悲観してはいなかった。

むしろ楽しんでいたのかも知れない。

この、どうなるか分からないって状況を。

だからこそやり甲斐があると感じていたのかもしれない。


そして、早くも二月がやってきた。

この間は大したエピソードも無い…。


ナオコ 「寒いですねー…。」

ケンジ 「ホントにな。」

ユカ 「先輩方は二月は週に一回の登校でイイんでしょ?」

クミコ 「まぁね。もう授業もないし」

ヒロキ 「(ギター弾きつつ)そういやヤスは?」

クミコ 「あのアホは自動車免許取ってるんだってさ。」

ヒロキ 「免許?」

ケンジ 「なら練習は絶望的だな。」

クミコ 「歌詞さえあれば歌うって言ってるけど?」

ヒロキ 「じゃぁ歌詞作るか。」

ケンジ 「歌詞見ながらのライヴなんて聞いた事ないけどな。」

ヒロキ 「まぁイイじゃん。俺達なりにライヴすれば。」

クミコ 「ねぇシマ君。」

ヒロキ 「はい?」

クミコ 「Rocket Dive一人でやるってホント?」

ヒロキ 「あぁ。折角練習したんだ。ギター一本でやってやるさ。」

クミコ 「チカラになれなかったね。」

ヒロキ 「それは気にする事ないって言ってるやん。」

ケンジ 「でも、曲は大体固定されてきたが…。」

ユカ 「ドラムでしょ?」

ケンジ 「それなんだよな…。」

ヒロキ 「無しじゃイカンの?」

ケンジ 「!!!」

ヒロキ 「イカンみたいだな…。」

ケンジ 「イカン事はない。が、バンドの核とも言えるドラム無しじゃな。リズムも取り辛いし、何より軽くなんないかな…。」

ヒロキ 「よく分かんないが、別にイイじゃん。」

クミコ 「軽っ!」

ヒロキ 「コンテストでもないんだしさ。俺達は俺達らしくやればイイんじゃない?」

ケンジ 「んじゃベースがしっかりしないとな。」

ヒロキ 「なんで?」

ケンジ 「ドラムとベースとでバンドの基礎を固めるんだ。ドラムが無いぶん、ベースに頑張ってもらうしかないな。」

ヒロキ 「やっぱドラムは必要か。」

ケンジ 「オイ。」

ヒロキ 「冗談だよ。やってやろうじゃないの。」

クミコ 「いつも想うんだけど、どこから出てくるの?その自信。」

ヒロキ 「???」

クミコ 「もうイイわ。」

ヒロキ 「兎に角今まで通りの事をライヴでもやったらイイじゃんか。」

ケンジ 「そうだな。」

ナオコ 「緊張するなぁ…。」

ユカ 「私も出たかった…。クラブさえ忙しくならなければ…。」

ヒロキ 「また今度があるよ。」

ケンジ 「テキトーな事言ってんじゃねーよ。口だけのヤツだと思われるぞ。」

ヒロキ 「………。」

クミコ 「あ…ヘコんだ。」

ナオコ 「ホンキでヘコんだ。」

ヒロキ 「うっさい!!!」

ユカ 「でも、ライヴが終わるって事はKENDYSも終わるって事でしょ?」

ケンジ 「バンド名は置いといて、そういう事になるな。事実上の解散だ。」

ヒロキ 「ええ~~~。」(心底悲しそうに)

ユカ 「寂しくなります。」

ケンジ 「皆そうだよ。だからこそ悔いの残らないようにしないとな。」

ヒロキ 「だな…。」


この時点でライヴ予定まで二ヶ月をきっていた。

曲も本格的に固まっておらず、メンバーで音合わせもできず、先行きは不安だったが、先にも述べたようにメンバーは大して悲観していなかった。

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