第15話 三人バンドの行く末
12月に突入した。
当然部室には暖房器具の類は無く、隙間も多少あったため、寒い。
それでもやはり外よりはマシ(当然)ではあり、中で練習したりしてると自然と暖まってくる。
この日は、珍しくヤスも来ていた。
クミコ 「(ベース練習中)うう…指が痛い…。」
ヤス (携帯をいじってる。)
ケンジ 「ヤス…折角来たんだし歌えよ。」
ヤス 「えぇ~~~…。」
ヒロキ 「寒いな~…雪降るかなぁ~…。」
ナオコ 「壱岐はめったに降らないですよね。」
ヒロキ 「降っても、周りは海だからスグ溶けるしな…つまんねーの。」
ユカ 「遂に今年も終わりますね。」
ケンジ 「なんだかんだでイイ一年だったな。」
ヒロキ 「なんだかんだで………な。」
クミコ 「やっぱ無理かも知れない…ベース…。音もちゃんと出ないし。」
ヒロキ 「そんな事ないって。やる気があれば音も出るよ。」
クミコ 「今グサリと突き刺したね…。」
ヒロキ 「え?」
クミコ 「音が出ないって事はやる気がないって事かしら?」
ヒロキ 「イヤ…そんなツモリで言ったんじゃ…。」
ケンジ 「…。」
ヤス 「ケンジ~携帯貸してよ。」
ケンジ 「自分の持ってんだろうが。ってか歌えよ!!」
ヤス 「オネガイ♪貸して。ちょっとだけ。」
ケンジ 「ったく…。」(携帯を手渡す)
~そんなこんなで少し経った~
ヤス 「さて。そろそろ帰るかな。」
ヒロキ 「おう。じゃぁな。」
ケンジ 「イヤ…じゃぁなって…練習全然してねーじゃんかぁ!」
ヤス 「う~寒い寒い。」(帰って行く)
クミコ 「私も今日は帰るね。」
ナオコ 「お気をつけて♪」
クミコ 「やっぱ無理かもよ?ベース。」
ヒロキ 「だぁいじょうぶ♪クミコさんなら出来るよ。」
クミコ (悲しそうに笑って)「じゃぁね。」(出ていく)
ケンジ 「ったくヤスにも困ったもんだぜ。来るのはイイんだが練習そっちのけじゃんか!」
ヒロキ 「イイじゃん。」
ケンジ 「?」
ヒロキ 「やりたい時にやりたい事をやりゃイイんだよ。音楽ってのは強制しても無理だろ。ヤスだってやる気になりゃ歌うさ。」
ナオコ 「シマ先輩間違ってます。」
ヒロキ 「!!?」
ナオコ 「矛盾してます。今、ヤス先輩に対して言った言葉、クミコさんにも言えますか?」
ヒロキ 「…。」
ナオコ 「クミコさん、無理してやってるんじゃないですか?今までにもサイン出してたんじゃないですか?その度にシマ先輩が『大丈夫』『クミコさんなら出来る』って言うもんだから、クミコさん、ホントの気持ち言えなくなってるんじゃないですか?」
ケンジ 「……。」
ナオコ 「シマ先輩の『皆で楽しくやっていきたい』って考え、私も素敵だと想うし、賛成です。でも、今の先輩には賛成できません。」
ヒロキ 「おれ…。」
ケンジ 「まだ間に合うぜ。」
ヒロキ (頷いて飛び出していく)
ケンジ 「今のナオコの言葉、ヒロキにはイイ薬になったと想うぜ。」
ナオコ 「だとイイんですが。」
ケンジ 「俺だとあそこまでウマク言えないしな。ハナシが長いって言われたし…。」
ユカ 「じゃぁhideはどうなるんだろ…。」
~そしてヒロキはクミコを全力ダッシュで追いかけてきた~
ヒロキ 「クミコさん!」(ゼェゼェ言いながら)
クミコ 「シマ君!どうしたの?」
ヒロキ 「ごめんっ!!」
クミコ 「はい?」
ヒロキ 「俺、クミコさんの気持ち無視してた。ホントはやりたくないんじゃない?」
クミコ 「最初はホンキでやろうと思ってたけどね…。私はミンナみたいに毎日のようには来れないし、上達もしてないし…。でも、そこでヤメルって言うと、やる気になってる皆にも悪いし、皆の雰囲気壊して部室にも行きにくくなるのがイヤで…。」
ヒロキ 「そうだったんだ…。俺は…バカだ。」
クミコ 「こっちこそゴメン。折角ベース教えてくれてたのに…。」
ヒロキ 「あぁ、それはイイよ。もうベースの事は考えなくて。」
クミコ 「じゃぁベース…どうするの?」
ヒロキ 「何とかなるよ。だからまた明日もおいでよ♪」
クミコ 「うん。ありがとう。やっと心のモヤモヤが取れた気がする。」
ヒロキ 「もっと早く気付いてれば良かったね。」
クミコ 「そんな事ない。私がもっと早く言ってれば…。」
こうしてクミコさんは抜けた。俺は自分のバカさに呆れた。
確かに何回かクミコさんはサインを出してたように想う。それに気付けなかった俺が愚かだった。
そして、それから暫くして、ユカも所属している演劇部の活動が忙しくなったため、ギターを断念せざるを得なくなった。
ユカの場合はギターを出来なくなるのを残念がってはいたが。
ユカにしろ、クミコさんにしろ、楽器はしなくなったとは言え、ヒマな日は今まで通り部室には来ている。
そして大晦日がやってきた。
ヒロキ 「今年も終わるな。」
ケンジ 「だな。」
ヒロキ 「hideで一曲やるっつったが、それも考えないとな。」
ケンジ 「そして三月にはライヴだな。」
ヒロキ 「あぁ。」
ケンジ 「どうだ?」
ヒロキ 「何が?」
ケンジ 「バンドだよ。」
ヒロキ 「いいんじゃねーの?」
ケンジ 「そんだけ?」
ヒロキ 「それだけだ。」
ケンジ 「新年明けたらいつからやる?」
ヒロキ 「そうだな。本当は元旦からやりたいが、トナリの人にも悪いし、三日ぐらいからだな。」
ケンジ 「そっか。トナリも正月ぐらいユックリしたいよな。」
ヒロキ 「毎日毎日ガキどものワケわかんねー音聞かされてとか想ってるかもな。」
ケンジ 「それでも一番の協力者じゃんか。」
ヒロキ 「あぁ。しかし…POTENTIALの時はどうなるかと想ったぜ。」
ケンジ 「オマエもキーボードだったしな。」
ヒロキ 「あの後一週間はマトモに口唇聞けなかったしな。」
ケンジ 「アレはアレで楽しかったが。」
ヒロキ 「その後、暫く空白はあったが、やっとオマエの念願のバンド組んだんだよな。」
ケンジ 「感謝してるよ。」
ヒロキ 「そりゃ俺のセリフだ。」
ケンジ 「あと三ヶ月。頑張るべ。」
ヒロキ 「だな。」
こうして1998年は終わった。
イロイロあったが、結果的には良かったと想う。
沢山ヘコんで、沢山笑った。
たぶんバンドが無かったら、ここまで充実した年にはならなかっただろう。
そして勝負の年、1999年を迎える。
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