第14話 劣等感と自信(後編)
あれから数日が経った
俺と言う人間は、思い込んだらどうにもならないヤツだが、一旦スイッチが切り替わると立ち直りは凄く早いのが取り柄(?)である。
だが、立ち直るにはキッカケが必要だった…。
部室にはイツモの如くケンジとユカとナオコとクミコが居た。
ケンジ 「絶対オカシイぜ。」
ナオコ 「シマ先輩でしょ?」
クミコ 「『何かあったの?』って聞いてもシマ君がすんなり答えるハズないもんね。」
ユカ 「え?シマ先輩どうかしたんですか?」
ケンジ 「ユカも羨ましい性格してるよな…。」
クミコ 「まさか誰かにフラれたとか?」
ケンジ 「ん~。。。」
ヒロキ 「ケンジ。」(ドアを開けて顔を出す)
ケンジ 「お。来たか。」
ヒロキ 「ちょっと。」(外へ促す)
ケンジ 「?…おう。」(出て行く)
クミコ 「あの時(第十一話参照)の逆ね…。」
ナオコ 「…ケンカですかね…。」
そして部室の外では…
ケンジ 「なんだ?」
ヒロキ 「なぁ…俺は必要なのか?」
ケンジ 「あん?」
ヒロキ 「ギタリストって、当然ベースも弾けるのか?」
ケンジ 「???」
ヒロキ 「前に聞いたラジオで言ってた。ギターが弾けるなら当然ベースも弾けるだろうってね。」
ケンジ 「言ってる事がよく分からねーよ。」
ヒロキ 「路上でギター弾いてるヤツがメジャーデビューしたいんだと。で、それをどうしたらイイか相談してたんだよ。ラジオで。そしたらソイツ、シンセやドラムも出来るって言ったんだよ。」
ケンジ 「それで?」
ヒロキ 「そしたらラジオのDJが『なら当然ベースも弾けるだろうからデモテープでも作って売り込め』ってさ。」
ケンジ 「で?」
ヒロキ 「じゃぁ俺なんかじゃなくて、そこら辺のギター弾いてるヤツ連れて来てベースさせた方がイイんじゃないかと想ってね。」
ケンジ 「成る程ね。だから元気なかったんか。何故もっと早く言わなかった?」
ヒロキ 「わかんねー。」
ケンジ 「一つ聞くぞ。」
ヒロキ 「あぁ。」
ケンジ 「オマエは何故クミコさんやユカを迎え入れた?」
ヒロキ 「前にも言ったように、皆で楽しくやりたかったから…。」
ケンジ 「そうか。ならオマエはその二人が楽器も上手に演奏できるって想ってたか?」
ヒロキ 「イヤ…。」
ケンジ 「つまりはそういう事なんだよ。いいか?実力さえあればイイってバンドを組む事は容易だ。」
ヒロキ 「?」
ケンジ 「実力があるってヤツを金使うなり何なりして誘えばいいんだからな。逆に、仲間を集めるのは難しい。」
ヒロキ 「…。」
ケンジ 「オマエはどっちがイイ?実力だけで中身はスカスカのバンドと、下手ながらも全員で努力していくバンド。」
ヒロキ 「決まってんだろ。」
ケンジ 「まぁ実力も備えてりゃ言う事はないんだが。いいか?バンドで一番大事なのは実力じゃない。」
ヒロキ 「?」
ケンジ 「実力は後からついてくる。一番大事なのはソイツの存在だ。俺はそう思ってる。」
ヒロキ 「そうか…。」
ケンジ 「でなきゃオマエなんか誘うかよ。」
ヒロキ 「サンキュ。」
ケンジ 「よく褒めてるって分かったな。」
ヒロキ 「だてに長いこと友達やってるワケじゃないんでね。」
ケンジ 「ふー…いつもはヘンな自信に溢れてるオマエがヘンな時にヘコむんだな。」
ヒロキ 「…。」
ケンジ 「イイか?ウチのベースはオマエだ。忘れんな。」
ヒロキ 「あぁ…。」
ケンジ 「つぅかな、そのラジオの話しだが…。あくまで一時的な話しだろ。」
ヒロキ 「?」
ケンジ 「確かにギタリストにもベースは弾けるかも知れない。逆は難しいだろうが。しかし、ベーシストとしてやってきてるヤツのベースに敵うと想うか?」
ヒロキ 「あ…。」
ケンジ 「ったく…バカも休み休みにヘコめよな。」
ヒロキ 「意味わかんねーよ。」
ケンジ 「まぁ、そういうこった。」
ヒロキ 「気分いいから散歩してくる。」(歩いて行く)
ケンジ 「オイ…練習は…。」
~そして部室の中~
ナオコ 「そういうワケだったんですかぁ。」
ケンジ 「ったくアイツにも困ったもんだ。」
クミコ 「いいんじゃない?シマ君らしくて。」
ケンジ 「アイツ以外にウチのベースは居ないよ。」
ナオコ 「そう言ってあげたらイイじゃないですか。」
ケンジ 「イヤだね。しかし、アイツを誘って正解だったみたいだな。」
~そこへヒロキが戻ってくる~
ヒロキ 「よ。」
ナオコ 「良かったですね。」
ヒロキ 「何が?」
クミコ 「さっきまでヘコんでたクセに。」
ヒロキ 「誰が?」
ケンジ 「とぼけやがって。もういい。練習しろ!!」
ヒロキ 「え~~~~~?」
ケンジ 「殴るぞ…?」
ヒロキ 「しょーがねーなぁ。」
ユカ 「???」
ヒロキ 「(ベース準備して)オイオイ…ケンジ…練習しろよな。」
ケンジ 「ブン殴ってやる!!」
ヒロキ 「やってみな。」
クミコ 「いつもの騒がしさに戻ったか。」
ナオコ 「ムードメーカーってヤツですかね?」
クミコ 「ムードブレイカーかもね♪」
この事があって結果的には良かったのだろう。
醒めない夢は無いように、明けない夜は無いように、悩んだ日々にもきっと終わりが訪れる。
そのカタチがどうであれ、俺達は前に進んでいく。
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