第13話 劣等感と自信(前編)

いつもの如く俺達は部室に居た。

俺とクミコさんとユカで組んだバンドも少しずつ様になってきているようだ。

しかし、何度も言うようだが、あくまで素人レベルでのハナシだ。


ケンジ 「そういやさ…。」

ヒロキ 「あ?」

ナオコ 「なんです?」

ケンジ 「もう11月なんだな。」

ヒロキ 「だから何だよ。」

ケンジ 「何となく想っただけだ。」

クミコ 「あーーー…指が痛い…。」

ヒロキ 「確かにね。でもテープとか指にまいたら余計に弾きにくいしね…。」


人にはそれぞれタイプがある。

明るいヤツだとか、暗いヤツだとか。

ポジティブだとかネガティブだとか。

頑張りやさんだとか飽きやすいだとか。


それから数日後の夜。

俺は何気なくレディオを聞いていた。

その頃は割とレディオを聞くのが好きで、ほぼ毎晩寝る前とかに聞いていた。

その日、ある番組で、視聴者からの悩みをパーソナリティが電話で聞いて解決しようという、結構ありふれたタイプの企画が組まれているレディオ番組を聞いていた時の事。

悩みの相談者はギターで路上ライブをやっている人で、メジャーデビューにむけて動きたいのだという。

パーソナリティは、相談者に言った。


『他に何か楽器は弾けるか?』


と。

相談者はシンセサイザーも弾けて、ドラムも基本的な部分なら叩けると言っていた。

デモテープでも作ってレコード会社に売り込むべきだとすすめるパーソナリティ。

そのパーソナリティの言葉の一部が俺は納得がいかなかった。


『ギターが弾けるって事は当然ベースも弾けるだろうし…。』


たぶん、今この言葉を聞いても大して何も感じなかっただろう。

だが、当時の俺には打撃を与えた…。


ヒロキ 「じゃぁ…ギター弾けるヤツは皆ベースも弾ける?じゃぁ俺は…。」


どうかバカだなどとは言わないで欲しい。

俺は真剣にショックを受けた。

じゃぁ俺は必要ないんじゃないか…ケンジにしても、俺とやるよりも、ギタリスト連れて来て、ソイツにベース弾いてもらえば俺とやるよりよっぽどイイBANDになるんじゃないか…。


言わば劣等感があったのだろう。

俺があの場所(部室)に居てもいいのだろうか。

こんな気持ちじゃケンジに申し訳なくはないだろうか…。

そんな想いがグルグルと頭を渦巻いていた…。

そして、翌日…


ケンジ 「あれ?ヒロキまだか?」(部室に入ってきつつ)

ナオコ 「(ケンジの後から)みたいですね。」

ケンジ 「ったく…しょうがねーな…。」


~暫く経った~


ユカ 「こんちわーーっす!」

ケンジ 「おう。」

ユカ 「クミコさんももうすぐ来ます。」

ナオコ 「逢ったの?」

ユカ 「うん。近くの店で買い物してた。」

ケンジ 「ナオコ。」

ナオコ 「はい?」

ケンジ 「キーボードの調子はどうだ?」

ナオコ 「なかなか順調ですよ。」

ケンジ 「頼むぞ。」

ナオコ 「はい♪」

ユカ 「私には言ってくれないんですかぁ?」

ケンジ 「ち…調子はどうだ?」

ユカ 「バッチリ!!」

ケンジ 「あ…そう…。」

ユカ 「なんなんですか!?その違いは!!」

ケンジ 「冗談だよ。」

クミコ 「相変わらず騒がしいこと。」(入ってきつつ)

ナオコ 「クミコさん!」

クミコ 「あれ?いつもの騒ぎの中心人物が居ないわよ?」

ケンジ 「どうしたんかね?」

ナオコ 「そう言えば…シマ先輩…いつも騒がしいですよね…。」

ケンジ 「練習そっちのけでな…。」


そこへウワサのヒロキが…


ヒロキ 「うす。」

ケンジ 「やっと来たか。」

ナオコ 「何してたんですか?」

ヒロキ 「別に…。」

ケンジ 「さて、ヒロキ、練習すんぞ。ベースの方が本職なんだからな。」

ヒロキ 「…。」

ケンジ 「人の邪魔ばっかしてねーで練習しないとウマクなんねーぞ?」

ヒロキ 「そうだな…。」

クミコ 「?元気ないよ?どっか具合でも悪いの?」

ヒロキ 「そんな事ないさ。さ、練習練習。」

ケンジ 「(小声でナオコに)なぁ…俺何かマズイ事言ったか?」

ナオコ 「(同じく小声で)さぁ…。」


迷っていた。

後になって考えてみれば迷う理由はどこにも無かったのだが…。

兎に角真剣に悩んでいた。

俺はこのまま続けていいのだろうか…。

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