第9話 カラOK
10月になった。
土曜日の夜。
俺は家の自分の部屋に居た。
俺の家はワリと厳しいほうで、ケンジは携帯電話を持っていたが、俺は買ってもらえなかった。
この日も少しベースを練習して、ベッドに身を横たえ、ボーっとしていた。
妹 「お兄ちゃん。」(入ってきつつ)
ヒロキ 「ん?メシか?」
妹 「ケンジ君から電話。」
ヒロキ 「サンキュ。」(体を起こす)
そして電話がある居間へと降りていった。
ヒロキ 「もしもし。」
ケンジ 『よう。明日ヒマか?』
ヒロキ 「別に予定はないよ。練習か?」
ケンジ 『そうじゃないんだ。ナオコがカラオケに行こうってさ。』
ヒロキ 「アイツ、カラオケ嫌いだって言ってなかったか?」
ケンジ 『さぁ?とにかくそういう事だから。午後一時にワールド(カラオケ店の名前)でな。』
ヒロキ 「あぁ。分かった。」
ケンジ 『サトムラも来るらしいんだ。この機会に仲良くなっとけよ。前は満足にハナシもしてなかっただろ?』
ヒロキ 「…分かった。」
ケンジ 『サトムラはヴォーカルにしようかと想ってる。』
ヒロキ 「は?でもヤスは?」
ケンジ 『アイツは練習に来るかどうかも危ういからな。』
ヒロキ 「入れ替わり激しいね。」
ケンジ 『まぁそういうこった。』
ヒロキ 「他には誰が?」
ケンジ 『ナオコとサトムラとあとはナオコの友達二人かな。』
ヒロキ 「へぇ。」
ケンジ 『来るだろ?』
ヒロキ 「ヒマだしな。」
ケンジ 『じゃ、そういう事で。』
ヒロキ 「おう。」(切る)
歌う事も嫌いじゃなかったし、楽しみではあった。
しかし、人見知りをするため、どちらかというと不安の方が大きかった。
そして翌日。
時間よりも結構早く俺は着いた。
人を待たせるという事が嫌いだから、時間には余裕を持って…持ちすぎて行く事もしばしばだったワケで…。
ヒロキ 「まだ誰も来てねーでやんの…。」
そこへナオコが二番乗りでやってきた。
ナオコ 「しまセンパイ。早いですね。」
ヒロキ 「まぁね。」
ナオコ 「そう言えばバンドの調子はどうですか?」
ヒロキ 「順調だ。少しずつだけど曲数も増えてるしな。」
ナオコ 「私も早く参加しないと。」
ヒロキ 「そっか。ピアノはあるけど、キーボードは持ってなかったっけか。」
ナオコ 「そうなんです。貸してくれる人を探してるんですがねぇ…。」
ヒロキ 「俺もやっとベースが手に入って、少しは感覚つかんできてる。」
ナオコ 「どうです?ベース。」
ヒロキ 「あぁ。あの低音が最高だな。柔らかいしな。最近は自覚も出てきてるし。」
ナオコ 「自覚?」
ヒロキ 「そう。前までは曲とか聞いても、曲全体しか聞いてなかったんだよ。でも今はベース中心に聞いてる。この曲だったら弾けるかなぁとか、この曲のベースはイマイチ好きじゃないなぁとかね。」
ナオコ 「良い事だと想います。」
ヒロキ 「今はスコア通りにやっていくのが精一杯だけど、いつか俺のベースをやりたい。」
ナオコ 「しまセンパイのベース?」
ヒロキ 「そう。コピーやるにしても、オリジナルやるにしても。俺にしか出せない音、俺にしか出来ない奏法をね。」
ナオコ 「頑張ってくださいね。」
ヒロキ 「まだ始めたばかりの新米が何言ってんだって思われるかも知れないけどね。」
ナオコ 「そんな事ないです。」
ヒロキ 「頑張ろうな。」
ナオコ 「ハイ♪…あ!ケンジ先輩来ましたよ。」
ケンジ 「早いな。」
ヒロキ 「まぁな。」
ナオコ 「まだ時間ありますねぇ…。」
ケンジ 「だな…。」
ヒロキ 「じゃぁ向かいにある本屋にでも行くか?」
ケンジ 「だな。暇つぶしにはなるだろう。」
そして俺達は向かいにある、ワリと新しい本屋へと向かった。
ケンジ 「本屋でもイロイロ売ってんだな。」
ヒロキ 「だなぁ。このド田舎にもこんな店が出来たか。」
ナオコ 「あ!!」
ケンジ 「ん?」
ナオコ 「ユカじゃない?」
偶然にも、その本屋にナオコと同級生のユカが居た。
第一印象としてはウルサイぐらい元気なコだった。
ユカ 「あーーーーっ!ナオちゃん!!」
ナオコ 「元気?」
ユカ 「もっちろん♪ん?ケンジ先輩も!」
ケンジ 「よう…。」
ヒロキ 「(小声で)知り合いか?」
ケンジ 「まぁな。」
ナオコ 「あ、紹介するね。三年のシマ先輩。で、こっちがユカです。」
ヒロキ 「よろしく。」
ユカ 「ハジメマシテ♪」
ナオコ 「そうだ。ユカも来ない?」
ユカ 「どこに?」
ナオコ 「カラオケ♪多い方が楽しいし。ですよね?先輩方?」
ケンジ 「イイんじゃないの?」
ヒロキ 「だな。」
ユカ 「じゃぁ一緒に!!」
そして暫く時間を潰したあと、俺達はワールドへ向かった。
人数も揃っていた。
俺、ケンジ、ナオコ、サトムラ、後はナオコの友人のユウスケとユキコである。
そして飛び入りのユカ。
合計七人。
ヒロキ 「(歌っているサトムラを見つつケンジに)どうよ?」
ケンジ 「………ヴォーカルってタイプじゃないな。」
ヒロキ 「俺は人の事は言えないが、確かにそうだな…。」
ケンジ 「やっぱ外すしかないかな…。」
ヒロキ 「シビアだねぇ…。」
ケンジ 「俺のギターが悪いと想ったときは遠慮なく言ってくれよ。」
ヒロキ 「まぁ俺はそこまで言える立場にはないがな。」
ケンジ 「早くドラムとヴォーカル何とかしないとな…。」
ヒロキ 「だなぁ…。」
ナオコ 「先輩方!何コソコソ話してんですか!歌ってくださいよぉ!」
ケンジ 「お…おう。」
その日は七人も居たため、何か歌った気はしなかったが、たまには大勢のカラオケもイイもんだと想った。
ただ、俺はユカが歌った『ある曲』が心に響いていた。
恐らくは、そのアーティストを知らない人は居ないであろう。
だが俺は知らなかった。
その時、その曲を聞いて、その人の曲にハマッていた。
勿論声は歌っているユカのものだったが。
ただ、その時点で、そのアーティストはもうこの世には居なかった…。
一つの問題はサトムラだった。
ギターを借りてるから、何とかして仲間として一緒にやっていきたいと想っていたのだ。
そういうトコが無視できないのもケンジらしいといえばケンジらしいのだが。
この時点で、KENDYSは曲数こそ少しは増えたもののバンドとしてはまだまだ不完全で、メンバー全員が集まって練習できる事は殆ど無かった。
サトムラとタクヤは商高のため、ちょくちょく部室までは来れないし、何より二人は二年生で部活もある。
ナオコはピアノは家にあるものの、キーボードを持っておらず、貸してくれる人を探していた。
クミコさんに至っては、基本的にポジションが決まってさえいなかった。
ヤスにしても、バンドの事は話しているのだが、一向に顔を出そうとしなかった。
だからヤスに関しては俺もケンジも半ば諦めてはいたのだが、如何せん他にアテがなかったのだ…。
まだ穴だらけのKENDYSだが、確実に少しずつ前進していた…。
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