第8話 偶然も必然
俺とケンジは久々に焼却炉でメシを食う事にした。
くれぐれも言っておくが、焼却炉の中に入って食べるワケではない。
その焼却炉がある場所自体が、ナカナカ快適な場所にあるのだ。
ケンジ 「なぁ。」
ヒロキ 「あん?」
ケンジ 「このバンド…成功すんのかな…。」
ヒロキ 「あ?」
ケンジ 「いや…何かさ…不安になって。」
ヒロキ 「やれやれ。」
ケンジ 「…。」
ヒロキ 「そういう心配はメンバーをちゃんと集めてからしろよ。」
ケンジ 「メンバー居ないから心配してんだよ。」
ヒロキ 「そんな事より、昨日オマエが帰ってからも練習したんだよ。」
ケンジ 「そんな事って…。」
ヒロキ 「指が痛くなったよ。」
ケンジ 「そりゃそうだろ。弦の太さも全然違うしな。」
ヒロキ 「やっぱギターで練習してても違うもんだ。」
ケンジ 「しかし…オマエは人一倍手が小さいからなぁ…。」
ヒロキ 「そんなん言い訳になるかよ。」
ケンジ 「お。」
ヒロキ 「やってやるよ。まだ借り物のベースだが、いつか絶対自分のベースを手に入れる。」
ケンジ 「ほぉ~。」
ヒロキ 「それと一つ謝っておかなきゃいけない事があるんだ。」
ケンジ 「ん?」
ヒロキ 「オマエからバンドの話を聞いた時、何も考えずにOKした。そのうちオマエも忘れるだろうと想って。続かないだろうと想ってた。ごめん。」
ケンジ 「今は違うだろ?ならソレでいい。」
ヒロキ 「あの時断ってたら…ベースとも出会わなかったワケだしな。」
ケンジ 「でも、そんなに気に入るとはな。だってオマエがベースになったのも成り行きっつーか、仕方なくみたいなトコもあったじゃん。」
ヒロキ 「そうだな。けど最高の楽器だよ。ギターでもドラムでもキーボードでもなく、俺はベースが好きだ。」
ケンジ 「まぁ、その三つの楽器は弾けもしないってハナシは置いといてだな。」
ヒロキ 「一言多い。」
ケンジ 「性格的にもオマエにはベースが似合ってるよ。」
ヒロキ 「いい意味で受け取っておくぞ。」
ケンジ 「オマエと話してたら何かやってけそうな気になってくるよ。」
ヒロキ 「まぁ、イイんじゃないの?俺が音楽を語るのもどうかとは想うが、音楽ってさ、やるヤツによって姿を変える。」
ケンジ 「…。」
ヒロキ 「無愛想で人見知りな俺だってベースでならコミュニケーションを取る事が出来る。自分が伝えたい事を音に乗せられる。」
ケンジ 「スゲェよな。バンドってさ。」
ヒロキ 「だからバンマスのオマエがそんなんじゃ先行き不安だ。」
ケンジ 「わるい…。」
ヒロキ 「冗談だよ。」
ケンジ 「…。」
ヒロキ 「心配すんな。俺達なら大丈夫だ。」
ケンジ 「根拠は無いんだろうが、そう言われると安心するよ。」
ヒロキ 「だから一言多いんだよ。」
『俺達なら大丈夫』…それは俺自身にも言い聞かせていたんだろう。
アイツが不安な声を出している時に俺まで不安な声は出したくない。
例え根拠も何もなくても、そう信じていたかったんだと思う。
自信を持てなきゃ…信じる事が出来なきゃ…出来るものも出来なくなってしまう。
だから『大丈夫』なんだ。
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