第7話 ベース

二学期が始まった。

ケンジは部活も引退してるし、俺も夏休みで引退をした。

だから放課後には部室に来るようになった。

俺もそれなりにスコア通りに弾けるようにはなってきていた。

ただ、練習してるのがギターだという点を除いては…だいぶ上達してきたんじゃないだろうか。

まったく何も知らない状態で、誰から教わるワケでもなく、イチから独学でやったため、練習方法は効率がイイとは言えないかも知れないが、何となく感覚はつかんでいた。


いつものように俺は練習場にいた。

基本的に最初に来たヤツがカギを開け、トナリから電気を借りる事になっていた。

暫くするとケンジがやってきた。


ケンジ 「おす。」

ヒロキ 「おう。」

ケンジ 「調子はどうだ?」

ヒロキ 「まぁまぁさ。貰った曲は結構弾けるようになったぜ。」

ケンジ 「そうか。」(ギターの準備しつつ)

ヒロキ 「しかし…ベーシストなのにベース無しじゃなぁ…。」

ケンジ 「ベーシストねぇ…。」

ヒロキ 「なんだよ!どうせ俺は何もできないさ!!」

ケンジ 「まぁな。そりゃそうだ。」

ヒロキ 「あのー…そういう時って普通慰めません?」

ケンジ 「バァカ。」

ヒロキ 「まぁイイや。」

ケンジ 「せっかくベース見つけてきたんだぞ。」

ヒロキ 「せっかくの意味わかんねーし…………ってベース?」。

ケンジ 「あぁ。商高の卓球部の二年にね。サトムラってのとタクヤってのが居るんだわ。」


壱岐には俺達が通う壱岐高校、そして壱岐商業高校…略して商高がある。

つぅか高校は二つしかない。

互いの高校は結構離れて建っている。


ヒロキ 「一個下か。」

ケンジ 「ソイツラも仲間に入れようと想ってね。」

ヒロキ 「へぇ。で?ソイツラには何を?」

ケンジ 「二人ともにギターさせようと想ってね。」

ヒロキ 「できるのか?」

ケンジ 「タクヤは間違いない。サトムラは初心者だ。」

ヒロキ 「イチから仕込むのか?」

ケンジ 「まぁな。タクヤの方は早弾きとか得意なんだよ。サトムラは…。」

ヒロキ 「?」

ケンジ 「ギター貸してもらいたいからな。持ってるんだよ。弾かないみたいだが。だから貸してもらう代わりに…。」

ヒロキ 「オマエ持ってんじゃん。」

ケンジ 「バカ。一本だけでライブできるかよ。」

ヒロキ 「らいぶ?」

ケンジ 「言ってなかったか?卒業前に一回しようと想って。」

ヒロキ 「おいおい…俺がベース…ってかギターに触り出して半年経ってないのに?」

ケンジ 「一回はやりてぇよ。このメンバーで。」

ヒロキ 「まぁイイや。で?ベースは?」

ケンジ 「そうそう。タクヤがベースも持っててね。貸してくれるってよ。」

ヒロキ 「マジか!!やっとベース弾けるのか♪」

ケンジ 「とにかく早いトコ二人に逢わないとな。」

ヒロキ 「えっと…今のトコ、ヤスがヴォーカルで、ケンジとサトムラとタクヤがギターで、ナオコがキーボードで、クミコさんは未定で、俺がベースか。」

ケンジ 「ドラムがなぁ…。」

ヒロキ 「一応シンちゃん誘ったんだが、断られたしなぁ。」

ケンジ 「んー…。」

ヒロキ 「まぁ何とかなるだろ。」


そういうワケでやっと俺とベースとは出会う。

そして、サトムラとタクヤと逢う日がきた。


ケンジ 「よく来てくれたな。」

サトムラ 「お久しぶりです。」

タクヤ 「…。」

ヒロキ 「よろしく。」

ケンジ 「うし。タクヤ。ベース借りていいんだな?」

タクヤ (頷く)

ヒロキ 「ありがとう。」

ケンジ 「早速弾いてみろよ。」

ヒロキ 「イイよ。後で弾いてみる。」

ケンジ 「そか。ならサトムラにギターの特訓だな。」

サトムラ 「宜しくお願いします!」


そして暫くケンジはサトムラにギターを教えていた。

基本的なコードを教え、それを一定のリズムで弾かせようとするのだが…。


そしてサトムラ達は帰っていった。


ケンジ 「ダメだな。」

ヒロキ 「(まだケースに入ったままのベースを眺めつつ)なにが?」

ケンジ 「サトムラだ。ギターはさせられない。」

ヒロキ 「なんで?」

ケンジ 「誤算だった…。リズム感が無いんだ…。」

ヒロキ 「?」

ケンジ 「『ジャーンジャーン ジャーンジャーン』ってリズムがあるとする。」

ヒロキ 「ああ。」

ケンジ 「サトムラは、その基本的なリズムでさえ『ジャジャーン ジャジャーン』ってなるんだよ。」

ヒロキ 「…。」

ケンジ 「何回やってもな…」

ヒロキ 「じゃぁどうすんだ?」

ケンジ 「考え中~。」

ヒロキ 「…。」

ケンジ 「それよかベース…まだ弾かないのか?」

ヒロキ 「そだ。(と言ってケースから出す)想ったより長いんだな。」

ケンジ 「どうだ。見た目的にもギターとは違うだろ。」

ヒロキ 「ああ。弦も太い。」

ケンジ 「音、出してみろよ。」

ヒロキ (とりあえずアンプに繋いで適当に弾いてみる)「…。」

ケンジ 「どうだ?」

ヒロキ 「すっげぇ…。」

ケンジ 「?」

ヒロキ 「ハラに響いてくる重低音…。柔らかい音なんだな。」

ケンジ 「あぁ。」

ヒロキ 「気に入った。」

ケンジ 「そうか♪」

ヒロキ 「早いトコ慣れないとな。」

ケンジ 「だな。」


こうしてやっと俺とベースは出会った。

何と言うか…たぶん…やっと見つけたんだと想う。

ホンキになれるものを。

もともと音楽自体は大好きで、今までは聞くだけの音楽が、自分の手から生まれる事に感動すらおぼえた。

ただ純粋に楽しかった。

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