第6話 五百円
俺とケンジは地域が運営している、とあるホールへと来ていた。
ここはテスト期間中とかになると何故か学生の溜まり場へと化してしまう。
俺達が普段居るのは中ホールの傍にあるイスと机が何組かある場所。
近くには自販機もあり、遊ぶには丁度イイ場所であった。
何故今日そこに来たかというと、メンバー獲得である。
ナオコとクミコさんを呼び出した。
ちなみにナオコは一つ下の後輩。
クミコさんは同級生である。
ヒロキ 「テスト期間中はよくココに来てるよなぁ。」
ケンジ 「俺はキライだ。」
ヒロキ 「なんでさ?」
ケンジ 「勉強しねーでハナシばっかになるだろ?図書館にでも行った方がマシだ。」
ヒロキ 「だって図書館行くと騒げないじゃん。」
ケンジ 「騒いでやるテスト勉強がドコにあんだよ。」
ヒロキ 「マジメ君だねぇ。」
ケンジ 「そんなんだからオマエは英語で29点だったんだよ。」
ヒロキ 「アホ。30点だわ。」
ケンジ 「先生に頼み込んで一点上げてもらったんだろ?赤点まぬがれるためによ。」
ヒロキ 「…。」
ケンジ 「結婚式でもやってるみたいだな。」
ヒロキ 「ドコで?」
ケンジ 「ソコのホールでだよ。」
ヒロキ 「何でわかる?」
ケンジ 「ホワイトボードに書いてあんだろうが。」
ヒロキ 「…。」
そこへ二人がやってきた。
クミコ 「ゴメン。遅くなっちゃって。」
ヒロキ 「イイって事よ。」
ケンジ 「何のキャラだよ。」
ナオコ 「で、ハナシって何なんですか?」
ケンジ 「あぁ…それは…。」
ヒロキ 「バンド組んだんだよ。俺たち。」
クミコ 「らしいわね。」
ヒロキ 「二人に入ってもらおうと想って。」
クミコ 「は?」
ケンジ 「実はそういうワケだ。」
ナオコ 「私は何を?」
ヒロキ 「キーボードやって欲しいんだ。ナオコってピアノ習ってるだろ?」
ナオコ 「ええ…。」
クミコ 「で?私は何を?何もできないわよ?」
ヒロキ 「まぁソレはユックリ考えていけばいいよ。」
クミコ (少し呆れた表情をする)
ナオコ 「あ、私、ジュースでも買ってきます。」(と言って自販機の方へ)
ヒロキ 「ね♪一緒にやろうよ。」
クミコ 「んー…。」
ケンジ 「知らないよ?コイツ(ヒロキ)…マジだから。」
クミコ 「頑張ってね。」
ヒロキ 「協力してね♪」
クミコ 「ハイハイ。」
ナオコ 「(戻ってきて)それで…バンド名は何なんです?」
ケンジ 「(ギクッとして)それはまだ…。」
ヒロキ 「ケンディーズさ♪」
ケンジ 「バ…バカッ!」
クミコ 「イイんじゃない?」
ケンジ 「ええっ!!?」
ナオコ 「We are KENDYS!!」
ヒロキ 「イェス!」
ケンジ 「勘弁してくれよ。」
そこへホールの中から二人の若者が出てくる。
一人はヒロキが住む島の遠い親戚にあたる、通称ヒデ兄。
もう一人はヒロキとケンジの中学時代の同級生の兄、ノグチ。
ヒロキとノグチ、ケンジとヒデ兄は面識はない。
その二人がヒロキ達に気付いて寄ってきた。
ヒデ兄 「おお。ヒロキ。何してんだ?」
ヒロキ 「友達と遊びに来たんよ。」
ノグチ 「お。ケーンジじゃん。」
ケンジ (笑う)
ノグチ 「お。その二人は?可愛いねぇ。」
ヒロキ (表情が険しくなる)
ナオコ 「ハハハ…。」
ヒデ兄 「最近ガッコはどうだ?」
ヒロキ 「(顔は元に戻して)んーまぁまぁかな。」
ノグチ 「名前は?なんて言うの?」
明らかに酔っ払っていた…。
ヒデ兄 「彼女は?できたか?」
ヒロキ 「いや…(苦笑いして)ヒデ兄こそ、今日は結婚式?」
ヒデ兄 「まぁね。今、少し休憩しに出てきたんだ。」
ノグチ 「オトコなんかどうでもイイんよ。俺は女の子と話したい。」
ヒロキ (ノグチを睨み付ける)
ノグチ 「オトコなんか放っといてさ。」
ヒデ兄 「オイオイ…。」
ヒロキ (あからさまに不機嫌な態度をとっている)
ノグチ (そんなヒロキに気付く)
暫く俺達は睨み合っていた。
俺は別に酔っ払いが嫌いなワケじゃない。
人の迷惑も顧みずに自分勝手に喋り続ける。
そんなヤローが大嫌いなだけだ。
明らかに二人の女の子は困っていた。
そういうのを見たりすると俺はアカラサマに態度に出る。
ノグチ 「(ヒロキに)何やコイツ。カンジ悪くねーか?」
ヒロキ (ただ無言で睨んでいる)
ヒデ兄 「ま…まぁまぁ。ヒロキもやめろ。」(ノグチを制しつつ)
ノグチ 「オイ…。」(勿論ヒロキに)
ヒデ兄 「そうだ。そろそろ戻るか。」
ノグチ 「…。」
ヒデ兄 「そうだ。ヒロキ。ジュースでも買えよ。(ポケットをさぐる)れ?金…こまかいのないな…。そだ。ノグチ、500円貸してくれよ。」
ノグチ 「ヤだね。何で俺がコイツなんかに金をやらなきゃイケナイんだ?」
ヒデ兄 「じゃぁ俺にくれ。」
ノグチ (しぶしぶ500円渡す)
ヒデ兄 (それをヒロキに渡して)「これでジュースでも飲め。」
ヒロキ 「うん…。」
そしてヒデ兄とノグチはホール内に戻っていった。
当然次に俺が言った発言は…
ヒロキ 「こんな金はイラン。」
ケンジ 「まぁまぁ。」
ヒロキ 「だいたいアイツ何だよ。ウマみてーな顔しやがって。」
ケンジ 「ヨーヘイの兄貴だ。」
ヒロキ 「あぁ。なら納得だな。あの性格も。」
ケンジ 「酔ってんだから。」
ヒロキ 「だからって許されるのか?酔っ払いは他人に不快な想いさせてもイイのか?」
ナオコ 「…。」
クミコ 「シマ君が怒ってどうすんのよ…。」
ヒロキ 「兎に角、こんな金は死んでも使わん。ケンジにやる。」
ケンジ 「オイオイ…。」
ヒロキ 「もうちょっとで我慢の限界だった。」
ケンジ 「こうしよう。(財布を出して)俺がオマエに500円やる。」
ヒロキ 「!?」
ケンジ 「で、この500円は俺がもらう。それでイイな?」
ヒロキ 「でも…。」
ケンジ 「俺は損得なし。オマエは俺から500円もらう。不満か?」
ヒロキ 「いや…。」
ケンジ 「決定だな。」
ヒロキ (しぶしぶ頷く)
クミコ 「コドモなんだから。」
ケンジ 「そういや、二人とも…バンドの件は…。」
ナオコ 「あぁ、KENDYSですね?」
ケンジ 「オイ。」
ナオコ 「イイですよ♪やります。」
ケンジ 「クミコさんは?」
クミコ 「居てもしょうがないと想うけど…。」
ケンジ 「アイツ(ヒロキ)が…ダダこねるからさ。」
クミコ 「付き合うわ。」
ケンジ 「ありがとう。」
こうして二人獲得した。
ただ、その帰り道は腹がたってしょうがなかった。
酔っ払いに…そして、睨む事しか出来なかった自分に。
それからかも知れない。
俺が酔っ払いに対して異常なまでに嫌悪感を示すようになったのは…。
その日は四人でプリクラを記念に撮った。
だが、どうしても喜ぶ気にはなれなかった…。
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