第3話 ある日常

そして夏がやってきた。

俺は何も部活には入らないツモリでいたが、担任の先生が顧問している部活に誘われた。

別にイヤでも無かったし、放送部に入部した。

ケンジはというと、中学の頃からやっていた事もあり、卓球部へと入部した。

そして俺達は、たまに一緒に穴場の焼却炉でメシを食べていた…。


その日もオレは、一人で昼飯を食べているケンジのもとに向かった。


ケンジ 「よう。」

ヒロキ 「あれ?今日卓球部のヤツラは?いつもは一緒に食ってんだろ?」

ケンジ 「今日は俺が少し遅れてね。みんなはもう食べ終わって戻った。」

ヒロキ 「へぇ。」(隣りに座ってパックのコーヒーを飲む)

ケンジ 「オマエこそ珍しいじゃん。イツモは来ないのに。」

ヒロキ 「別に。コーヒー買いに来たついでに寄ったらオマエが居たからな。」

ケンジ 「そうか。」(弁当をパクつく)

ヒロキ 「なぁ…。」

ケンジ 「あん?」

ヒロキ 「…。」

ケンジ 「卵焼きは食わせねーぞ。」

ヒロキ 「そうじゃない。俺さ…フラれちゃって。」

ケンジ 「…。」

ヒロキ 「同じ部活のヤツなんだ。ロクに話した事も無かったが…。で、何か照れくさいから手紙で告白したんだよ。」

ケンジ 「…。」

ヒロキ 「返事は来なかった。」

ケンジ 「それでどうしてフラれたって分かるんだよ?」

ヒロキ 「部活にも来なくなった。」

ケンジ 「!」

ヒロキ 「オマケにその手紙の事をクラスのヤツらとかに言いふらしたらしい。」

ケンジ 「そりゃ許せないな。」

ヒロキ 「俺、分かった。人を顔で選んじゃいけねぇって。」

ケンジ 「…。」

ヒロキ 「ロクに話した事もないヤツにほれた俺がバカだっただけだな。」

ケンジ 「気にすんな。そこに気付いただけでもヨシとしよう。」

ヒロキ 「あぁ…。」(うつむく)

ケンジ 「(タメ息ついて)卵焼き食うか?」

ヒロキ 「(うつむいたまま)食う…。」

ケンジ 「もうねぇよ。」

ヒロキ 「…アッッタマ来た!」(ガバッと立ち上がって)

ケンジ 「お…おいおい…卵焼きくらいで…。」

ヒロキ 「あ?何言ってんの?」

ケンジ 「イヤ…卵焼き食わせなかったから怒ってんじゃ…。」

ヒロキ 「アホ。あんな女だって見抜けなかった俺にハラが立ってんだよ。」

ケンジ 「とにかく座れ…落ち着かねーから…。」

ヒロキ 「見てろよ…。もう俺は迷わないぞ。」

ケンジ 「オイって…。」

ヒロキ 「見てろよぉ~~。」(歩き去る)

ケンジ 「…あんなヤツと友達で居ていいんだろうか…。」(メシ食いつつ)


それから俺は変わったんだと想う。

人の表情の変化、雰囲気の変化を読み取るのはウマかったと想う。

幼い頃に、そうやって顔色をうかがって生きていかざるをえなかったから。

そんな意味でも、もともと人の感情の変化には驚く程敏感で、驚く程臆病だったんだろう。

後々想った事だが、冷静に考えてみると、その女性に、俺がほれる要素は全くといってイイ程なかったのである。

俺はヘンなヤツで、自分が好きだ(友人としてとか、恋愛対象としてとか)と想った人には心を開くが、逆に一度嫌ってしまうと手の平を返したように変わる事だ。

よく言えば分かりやすい性格。悪く言えばハッキリしすぎてる性格とでも言うのだろうか…。

まぁ、この人にフラれた事で俺自身気付いた事も多々あった。


そしてバンドであるが、前話にも書いたように俺とベースの出逢いはマダマダ先なワケで…。

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