鈴とナナ、墓参りに行く
鈴とナナ、墓参りに行く(1)
結局、いったいナナに何があったのか、鈴はナナから肝心なことを聞くことはできなかった。知りたいことが山ほどある。
なぜ、ナナは私に会いに来たのか。ナナはいったいどこから来たのか。あの雨の中、運だけでここにたどり着いたとは思えない。それに、ナナの飼い主は誰なのか、どんな人物だったのか。その飼い主は、女性なのか、男性なのか。
確かに、大切に育てられていたことはわかる。しかし、記憶をなくすほどいったいナナに何があったのか。
記憶が戻らない以上はわからない、聞きようがない。辛い記憶ならこのまま思い出さない方がいいのか。ナナは、飼い主の顔を思いだせない。しかし、他のことは覚えている。
もしかしたら、ナナは飼い主に裏切られたのか。それで、家を抜け出し、ここに来たのか。
ナナの話を聞いていると。なぜ、飼い主はそこまで、ナナに知識を詰め込む必要があったのか。何かを教えたい気持ちはわかるけど、度がすぎると思う。
猫の1日は、人間の3~4日といわれている。もしかしたら、頭のいいナナは、かなりのスピード成長しているように思える。
この全てのことに結論をだすとしたら、時に委ねるしかない。もし記憶を取り戻したら、その時に対応するしかない、今はあれこれ考えても仕方ない。でも、こんな時にあの光景が浮かぶかとは、私は不謹慎のか。でも、ナナには悪いけど相談してみようかな。もし私の考えが当たっていれば、多くの動物たちを救うことができるはず。もうあんな思いはしたくない、私が悪いんだけどね。鈴は、そんなことを思っていた。
一方、早川副院長の方はというと。ナナの声って、まるで人間の女性の声、それも可愛い声をしている。人間のよう会話もでき、頭もいいし、しつけも問題なし。それに、色までちゃんと識別できるとは。これが自然の進化ではないと言うなら、あまりにも辛く、悲しすぎる。
これが自然の進化なら、なんの問題もない。世界一の猫だと大手を振って言える。だからといって、矛盾しているが、このことを世間に公表することはできないな。ナナは、見世物ではないから。
しかし、まさかパソコンが使えるとは驚きね。おそらく特注のキーボードを使い、マウスはねずみに似ているから、大きなマウスパッドを使っているはず。早川副院長は、そんなことを思っていた。
午前11時を過ぎ。いくら回復したといえ、ナナは病み上がり。鈴はナナに、体の調子を聞き、特に問題はなく、お昼は何が食べたいか聞くと、猫缶が食べたいと言う。確かに、健康を維持するためにはいい選択をしている。
念のために、ナナはあと3時間くらいICUユニットの中に入っていることになり、鈴と早川副院長は、2階の予備入院室に動物たちの様子を見に行った。
お昼になり、早川副院長はいつものように鈴の自宅に行き、鈴の母親が作った料理を食べる。鈴は自宅から持って来た猫缶を持ち、ナナのいる入院室に行った。
すると、ナナは可愛い寝顔で寝ている。鈴は、しばらくナナの寝顔を見ていると、ナナは目が覚め、ゆっくりと起き。
「ナナ、体の調子はどう?」
「大丈夫。いたって健康って感じ、あっ、そうだった、肝心なことを忘れてた、お礼を言わないと。鈴さん、私を助けてくれてありがとうございました。あなたは私の命の恩人です、本当にありがとうございました」
ナナは、深々と頭を下げた。
「ナナ、礼には及びません。私は獣医師だし、当然でしょ。それと、これからは鈴でいいから。但し、病院内では院長だからね。今日は休診だけど」
「……わかった。でも、獣医師って凄いよね。私も獣医師になれるかな?」
「えっ!? 猫が獣医師に!? 聴診器を持って診察!? 面白いかもね……」
「はぁ!? 面白いって何よ!? ただ、言ってみただけなのに、その笑みは何? バカにしてるの?」
「するわけないじゃない。ちょっとナナの白衣姿を想像してみただけ。案外似合うかもね、白衣姿、なんかいいかも」
「本当に!? そうかなー、白衣似合うかなー……」
「もしかして、獣医師になりたいの!?」
「よくわかないけど……私の周りでたくさん仲間が亡くなって……そのせいかな、そんなことを言うのは!?」
「その話、詳しく教えてくれる?」
「それが、ふと思い出しただけで、他には覚えてないなの」
「わかった。あっ、そうだ、お昼だったね。これ食べる?」
「えっ!? なんで私の好きな猫缶知ってるの?」
「えっ!? そうなの?」
「私、いろんな猫缶食べたけど、それが1番かな。他にもあるけど、限定品にも弱いかな、まぐろもいいよね。あとは……あっ、ごめんなさい。つい猫缶になると、それいただきます。お腹が減っちゃって……鈴はご飯食べたの?」
「まだだけど、ナナが食べ終わったら、私も食べようと思って」
「そうなんだ」
鈴は、ビニール袋の中から小さな皿を取り出し、猫缶を皿に移し、ナナの目の前に皿を置くと。ナナは、人間のように「いただきます」と言い、美味しそうに食べ。鈴はその様子を見ていると、昔を思い出し、ナナにあの話をすることに決めた。
ナナはあっという間に猫缶をたいらげ。鈴は、食事の後片付けが終わると。
「ナナ、あとで相談したいことがあるんだけど、いいかな?」
「相談!? いいけど」
「ありがとう。あっ、そうだ、それまでここで、しばらく休んでてくれる? あとで迎えに来るから」
「わかった」
鈴は、この部屋の時計を見て入院室を出た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます