奇妙な出会い(4)

 午前10時を過ぎ、ICUユニットに入っていたナナは、普通の猫より回復力がもの凄く早く、鈴の見立てより早く意識を取り戻し、目を覚ました。

 ナナは起き上がり、辺りをキョロキョロと見渡し、何か様子がおかしい。

「そうだ思い出した。私は、木村動物病院の木村鈴さんに会いに……あれ!? でもなんで会いに……? 思い出せない。なんで思い出せないの……?」

 ナナは、独り言をぶつぶつ言い、必死に思い出そうとしている。

 その時、ICUユニットの目の前に。

「どうやら、記憶が欠落するほど、何か衝撃的なことがあったようね!? おそらく逆行性健忘症ね」

 ナナは、ICUユニットから外を見ると、そこには1人の女性が。

「逆行性健忘症って何? あなた、誰なの?」

「私!? さぁ、誰でしょうね? あなたなら、私が誰だかわかるでしょう?」

「……えっ!? もしかして、あのホームページの写真の木村鈴さん!? そうなんですか?」

「少しは、頭の回転が戻ってきたようね。そうよ、私が木村鈴。よろしくね、ナナさん」

「どうして、私の名前を?」

「気づいてないの? 首輪」

「首輪!? あれ!? そういえばなくなってる。確か、首輪に名前が……あれ!? なんで私は首輪をしたんだっけ……? 思い出せない……」

 するとそこへ、早川副院長が入って来た。どうやら鈴と早川副院長は同じことを考えていた。ナナの回復力が早いのではと。それと、鈴の読みが当たっていた。会話できることと、人間のような思考能力を持っていること。

「鈴、ナナさんは目を覚ました?」

「覚ましたわよ。それと、私が思っていた通りだった。ただ、逆行性健忘症にかかっているみたいで」

「えっ!? 逆行性健忘症!? あるのね、そういうことが。よほど辛いことがあったのね……。でも、なんか複雑ね、これが自然のなり行きなら」

「ナナさん、無理に記憶を思い出さなくていいからね。ストレスになるから」

「……わかった。それより隣にいる、綺麗な人は誰ですか?」

 猫に綺麗と言われ、早川副院長はなんか嬉しそう。

「ねぇ、今の聞いた!? 鈴。綺麗だって、なんか嬉しいよね。人にはよく言われるけど」

「何それ、自慢なの!?」

「冗談よ、冗談……。ナナさん、初めまして、私、早川瞳と申します。よろしくね」

「こちらこそ、よろしくお願いします、って言いたいところだけど、私、なんでここに来たのか思い出せなくって、なんか嫌なことでもあったのかな……?」

 深刻な雰囲気になりそうなところに、鈴は真剣な表情で。

「もしそんなことがあったら、私がその嫌なことから守ってあげる。そうだ、今日からうちに住みなさい。これも何かの縁、そうしなさい。それとも私とじゃ嫌?」

「別に、嫌じゃないけど、どうして見ず知らずの私なんかに?」

「何、そのくだらない質問。私は獣医師よ、当たり前じゃないの」

「……わかった。あなたを信じます。ふつつかものですがよろしくお願いします」

「信じるか!? それはともかく、ふつつかものって、あなたいったい誰にそんなことを教えてもらったの?」

 鈴は、つい記憶を掘り下げるようなことを聞いてしまった。

「……思い出せない。誰かに教えてもらったような……やっばり、思い出させない。ただ、私は猫だけど、人間のようにいろんな勉強をした記憶はある。パソコンだって使える、他の猫とは違って、色の識別もできるし。なにより、人間と会話できる楽しさも知っている」

「ナナって、世界一頭のいい猫ね」

「確かに、そうかも」

「それ、自分で言う!?」

「だって、知ってるもん。普通の猫とは違うって、それより、鈴さんの方こそ世界一の獣医師じゃないの?」

「えっ!? 私が!? 瞳はどう思う?」

「ナナさん、この人、すぐ調子に乗るから、そんなことを聞かない方がいいわよ!?」

 鈴は少し不機嫌になり。

「はぁ!? 失礼な。それは昔の話でしょう? 今は違いますぅ」

「はぁ!? よく言うわね。どの口がそんなことを言うの?」

「この口ですが何か?」

「なんなの、その態度は?」

「悪かったわね。こんな態度で」

 この光景を見ていたナナは、鈴のすねた表情に思わず笑ってしまい。まるで人間のように笑っている。

「……あなたたち、仲がいいんですね。私も混ぜてもらえます!?」

 すると、鈴は真面目な表情で、ナナをじっと見て。

「ナナさん、いや、ナナ、これからあなたは、私たちは家族になるの。この意味わかる……? まぁ、楽しくやって行きましょう。笑ってね」

「はい! よろしくお願いします」

 ナナは猫なのに深々と頭を下げ。この雰囲気に早川副院長は少しすねて。

「私も家族なんだから、忘れないでよね」

 早川副院長の態度に、鈴はあきれたかのようで。

「何すねてんの!? 私たち家族でしょ、あなたは小学生ですか!?」

「はい、私は小学生ですが、何か?」

 ナナはこの光景に、鈴たちの家族なると心に誓い。

「鈴さん、瞳さん、こんな私ですけど、よろしくお願いします!」

 また、ナナは深々と頭を下げ。「ナナ、よろしくね」、と2人は声をかけた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る