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やはりプレゼントは人を喜ばせる素晴らしい手段であるようだ。
それが例え死者であっても同じことらしい。
だから僕は彼女にまた何かのプレゼントをしようと思った。
ただ彼女が喜ぶものとはなんだろうか?
もちろん彼女は死者であるので食べ物は論外だ。
衣類や装飾品もきっと違うだろう。
となると、数珠とか戒名とか、死者が喜びそうなものがいいのか?
でも彼女は死者であっても怨霊なので、そういうのもまた違うだろう。
それに女性なのだから、そんなの貰っても嬉しくないはずだ。
死者であり女性である彼女が喜ぶものは何だろうか、どちらかいずれかを取ったら角が立ちそうだが、いずれにしても喜ぶものが一つあることに気付いた。
それは「お花」だ。
女性にプレゼントといえば、やはりお花だろう。
それに死者に手向けるのも、やはりお花だ。
ということで、僕はお花屋さんに向かった。
最初は女性にお花のプレゼントといえば、やはり「バラ」だろうと思った。だけど死者である彼女にバラはなんか違う感じがして、他に良いのは無いかと、色んな種類のお花を見定めていたら、彼女に似合うお花を見つけた。
彼女には白が似合うと思う。だから僕は白い菊の花を買った。
それに彼女には手渡しすることが出来ないので、一輪挿しの花瓶を買った。
自宅に戻り一輪挿しの花瓶に白い菊の花を挿して、部屋の隅の椅子に座る彼女の目の前にそっと置いた。その様子を俯瞰で見ていると「なんだか様になるな」と漠然に思って、誰に示すわけでもないけど、僕は納得するように「うむ」と深く頷いた。
すると彼女は軽く首を横に傾けた。つまりは小首を傾げた。
彼女は僕の行動が理解できないと、意思表示をしてくれた。
それだけで僕はとても嬉しかった。
嬉しさの余り彼女に抱き着こうと大胆な行動を取ろうとしたら、その足元の一輪挿しの花瓶を派手に蹴散らしてしまった。
これまた恥ずかしい思いもしたけど、それでもやっぱり僕は嬉しかった。
そして彼女もきっと笑っていたように思える。
──このように世にも奇妙な同居生活が続いて、僕と彼女との距離はぐっと近づいたように思えた。
でも、それはやはり僕の勘違いだ。
そもそも僕は彼女の名前を知らない。それにどの時代に生きていたのか、いつ亡くなったのか、彼女のことを何ひとつ知らない。
いくら彼女に問いかけても返事はなく、その身体に触れる事もできない。
心は通じ合っていると思いたくてもそれを確認する術がない。
僕と彼女の間には大きな隔たりがある。
死者と生者は交わることができないのだ。
悲しいけどそれが現実で、それでも僕はそのことを受け入れて、彼女との世にも奇妙な同居生活を続ける。僕は彼女を思い続け、彼女のことを考え続ける。
思い続けて考え続けたその結果、僕はとある疑問にぶつかった。
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