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僕が住んでいるこのオンボロアパートは周囲に高層マンションが立ち並んでいて日当たりがとてつもなく悪い。日中であっても陽が入ることがなく、日が昇ろうが、夜が更けようが、常に薄暗いままだ。
住み始めた当初はそれが無性に気に食わなかったけど、ただ霊の彼女と同居する事になった今となっては都合が良かった。
彼女は姿を消すことなくずっと僕の部屋に存在している。ただ当初枕元に立っていた彼女は、その後に部屋の隅にいつのまにか移動して、まるで借りて来たネコのように佇んでいた。
僕はそんな彼女の様子を見てとても不憫に思えた。
僕は彼女に声を掛けてみたけど、彼女は返事をすることがなかった。日本人であるのは間違いないと思うので、言葉は通じる筈だけど、その前に僕の声は彼女には届かないようだ。
だから身振り手振りで「そんな隅では何ですので、こちらでお茶でもどうぞ」と表現してみた。だけど考えてみれば死者である彼女がお茶を飲むことはないだろう。やはり彼女は反応を示さなかった。用意したお茶は無意味に冷めるばかりだった。
僕は申し訳ない気持ちになった。勝手に憑りついて住み着いて、僕が招いたわけではないのだけれど、女性をおもてなしできない自分の不甲斐なさに悔しかった。
しばらく部屋の隅に彼女が佇みながらの生活が続いた。
その間は大学やアルバイトといった普段の日常を過ごしていた。ただ自宅に帰れば彼女がいる。彼女は部屋の隅にずっと佇んでいる。
その様子を眺めていると、彼女はずっと立ちっぱなしであることに気付いた。
彼女は死者であるので疲労は感じないだろうけど、立たせっぱなしも申し訳ない。
だから僕は彼女に似合う椅子を買い求めた。ちょっと高かったけれど、アンティークな小ぶりの白い椅子が彼女に似合うと思って購入した。
部屋の隅に佇む彼女の小脇にそれを置き、「ささ、お座りください」と
元より期待はしてなくて、僕のただの自己満足の一つだったので、まあいいかと思った。
その日の夜は久々に寝苦しく、なかなか寝付けなかった。布団の上でうなされていると、身体が急にピーンと硬直して、またも金縛りにあった。
部屋の隅に只ならぬ気配を感じて、まあ、当然ながら霊の彼女がそこにいるのは分かり切ったことだけど、金縛りで動かせない頭を無理にギギギと動かして、その隅の様子を窺った。
すると、なんということか、彼女は僕が買ったアンティークな小ぶりの椅子にちょこんと座っていたのだ。
僕はまた嬉しくなって、これまた金縛りは何処へいったか、飛び起きて、彼女の元まで駆け寄った。ただ無秩序に張り巡らせた各種家電製品の電源コードに足を取られて、無様にすッ転んでしまい、「ぐべっ」と変な声が口から洩れた。
とても痛かった。そして恥ずかしかった。
だけどやっぱりそれ以上に僕は嬉しかった。
彼女も喜んでくれていたのか、その前髪の隙間から笑顔か零れているように思えた。
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