今から半年ほど前の夏のこと、僕は大学の仲間と共に夜も深い時間まで飲んでいた。


 程よく酔いが回って心地よくなった僕らは、「夏だから」と安易な理由で地元で有名な心霊スポットへ肝試しに行くことにした。


 そこは車両が一台ようやく通る程度の狭いトンネルで、電灯は辛うじてあるけど、誰も整備をしないのか、ほとんどすべての電灯が点滅していて、一本の真っ直ぐな道の筈だけど真っ暗闇で先が見えない。オバケなんて信じない人であっても、何かが出そうな雰囲気を感じるだろう。


 だけど、僕らはそこにディズニーランドでも行くようにきゃっきゃと騒ぎながら足を踏み入れた。


 お酒の力もあってか、序盤こそは馬鹿みたいに騒ぎながらその恐怖を楽しんでいた。でもトンネルの中盤にさしかかってからは、僕らは恐怖に呑まれてしまい、口数少なく身を寄せ合いながらトンネルを進む。酒を飲んでも恐怖には飲まれるらしいと、この時に知った。


 恐怖で身を寄せ合いながら進み、ようやくトンネルも終盤に差し掛かったようで、出口が見えてきた。


 僕らはとうに酔いもさめて、この恐怖からの解放に安堵した。

 これまで勇み足だった足取りが急に変わり、仲間は駆け足で出口へと向かった。


 ただ僕の後ろを歩く仲間の足取りは覚束なく、ゆっくりヒタヒタと進む足音が聞こえたので、僕は少しペースを落として待ってあげた。


 前を歩く仲間が「大丈夫か?」と僕に問いかけて来たので、「後ろのヤツが心配で」と告げた。仲間は「後ろのヤツ?」と僕の言葉に疑問を抱いたか聞き返す。


 何で不思議に思ったのかその時は僕には分からなかった。

 でも、僕の前を歩く仲間の数を数えてみれば、その答えは明らかだった。


 僕の前を歩く仲間の数はぼく以外の仲間が全員揃っていて、僕の後ろを歩く仲間なんていないはずだった。


 背筋がゾッとした。背後の気配は何だろうかと恐ろしくなった。


 背後に嫌な気配を感じた。そしてその直後に、ひんやりとした冷たい手が僕の腕をギュッと痛いほどに強く掴んだ。喉の奥がキュッと閉って口から声が出せなくなった。金縛りにあったように身体が動かなくなった。


 その一方で仲間たちは「ギャーッ! 出たああっ!」と叫びながら固まって動けない僕を捨て置いてトンネルの出口まで駆け足で逃げていった。


 一人トンネルに残されて僕は悲しかった。だけど僕は動かなくなったその身体で、どうにか首だけをギギギと動かして、僕の腕を掴むその冷たい手の正体を暴こうとした。


 やっとの思いで背後を振りむけば、白いワンピースを着た、異様に髪が長い女の姿がそこにはあった。


 その長くて湿った前髪の隙間には虚ろな瞳があって僕をじいっと覗いている。


 その虚ろな瞳に見つめられた僕は、──彼女に心を奪われた。

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