第1話 着任

 日本で最初の鎮守府は、戦車道で有名なあの港町に作られた。

 どういう政治的駆け引きがあったかは、今となっては判らない。

 当時の政権が、関連資料をすべて廃棄してしまったせいだ。


 彼らに基本的人権は与えられたが、生殖能力がなく子孫を残す可能性がなかったため、姓はなく名前のみが与えられた。

 その名前ももっぱら旧日本海軍の艦艇の名前がそのまま援用された。

 その頃には海上自衛隊や海上保安庁の主力艦艇は、海賊船によってほぼ沈められていたので名前の重複の心配もなかったのだ。


 彼らは基地司令のことを尊敬半分、冗談半分で「提督」と呼んだ。

 また、彼らに合わせた艤装も次々と開発されていた。


 現場へ向かうための小型高速艇と攻撃ヘリコプター。

 彼らは水上に立つことができるが、戦闘時の高速機動のためには足に装着する機動ユニットと背負式の動力部分が必要だ。

 そして主力武器は、弾頭に彼らの体液を満たした砲弾を打ち出すための小型主砲、および同等の性能を持つ魚雷と発射管。

 この頃はまだ対海賊船に特化したセンサーは開発されておらず、小型レーダーとGPSによる戦術リンクシステムが最新鋭の装備だった。


 彼らの見た目は、みな13,4歳程度で、研究のための数年を経ても成長して見えることはなかった。

 後に判明したことであるが、大型の海賊船を撃沈することによって得られる卵からは、より年長に見える少年――いや、青年と呼ぶべきか? ――が出てくることが多いことがわかり、また年長に見えるほど、大型の砲を使いこなすことができるのが常だった。


 また、これも後に判明したことであるが、比較的年長に見える者の中には、砲撃や雷撃よりも複数のドローンを同時に運用する能力に長けている者もいた。

 彼らは後に、海賊船のカウンターパートとして、戦艦や空母と呼ばれることになるのだが、最初期に配属された若者たちは皆、後に駆逐艦と呼ばれる機動力は高いが火力は低い少年たちだった。



 そして、まずは5人。

 後に各地の鎮守府に古参として赴任、君臨することになる若者たち。

 その名を、「フブキ」「ムラクモ」「サザナミ」「イカヅチ」「サミダレ」と言う。

 その暫定リーダーとして、最初にフブキが着任した。


 元気いっぱい、明るさ満点の少年だった。

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