ぴえろ

 僕が君に初めて会ったのは街の中だった。

 僕は一人で歩いていた。

 何の用事だったか、覚えていないんだけど、街を一人で歩いていた。


 君も一人だった。

 一人でポツンと佇んでいた。

 たまに人が寄ってきたかと思うと、君は手に持っていたソレを、君より小さな子に渡していた。



 初めて見た君は笑っていた。

 ずっと笑顔を絶やさなかった。



 次に君に会ったのは、両親に連れられて行ったサーカスだった。

 この前会った君よりもはるかに大きかった。

 遠くにいるのに、僕よりも背が高そうだということがわかった。


 君は手に何かを持っていた。

 手に持っているソレを宙に投げては、降りてくるソレを自分で受け止めていた。


 やっぱり君は笑っていた。

 ずっと笑顔を絶やさなかった。




 僕は不思議に思った。

 あんなにもずっとニコニコしていることに、何だか胸がギュッとなった。

 笑っているのに。笑顔を見て、ココがギュッとなるのは何だか変だと思った。






 三度目に会った君はやっぱり笑っていた。

 笑っているをしていた。

 けれど君は泣いていた。

 目からは雫がポロポロと溢れていた。


 どうしたの? 僕は君に問いかける。

 君は何も喋らない。

 悲しいの? 僕はまた君に声をかける。

 やっぱり君は喋らない。



 僕は君が座っているトナリに腰かけた。

 僕は君の真似っこをして口を閉ざした。

 なんて。僕は三番目の言葉を見つけられなかったんだ。


 君はしばらく泣いていた。

 止まることのない涙を僕は見つめていた。


 涙は止まらないのに。

 それでもやっぱり君は笑っていた。


 僕の胸はまたギュッとなった。

 僕は、掴まれているような感覚のそこを自分の手で押さえる。

 涙を流しながら、それでも笑っている君を見て、僕まで涙が溢れそうになった。


 僕は君と違って笑えない。

 涙を流しながら、そんなに悲しそうな涙を流しながら、僕は笑えない。


 そう考えると、何だか急に怒りたい気持ちになってきた。

 何に対して怒っているのかはわからない。

 けれど、泣いている君に向かって怒りはしない。多分。


 気づけば君は僕を見ていた。

 視線が合う。


 その時、君が笑った。

 僕は君の笑顔を見た。

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コトノハにのせて 小鳥遊 蒼 @sou532

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