てでぃべあ

 きみはぼくが初めて目が合った女の子


 あの日から、きみはぼくの特別になった


 きみが選んでくれたあの日から





 きみはとびきりの笑顔でぼくを選んでくれた


 この子がいい、ときみのパパとママにお願いした


 パパもママもニッコリ笑って、ぼくを手に取り、きみの家に連れて帰ってくれた


 それからぼくはいつもきみと一緒だった


 遊ぶときも一緒


 きみがごはんを食べているときだって、きみはぼくを離そうとしなかった

 でもぼくはごはんなんて食べないから、一緒には食べられない

 だから、きみのママがご飯のときはお部屋で待っててもらいなさい、って言ったんだ

 それでもきみはぼくと一緒だった


 ある日、きみがぼくを外に連れ出してくれた

 きみはママに連れられて、こうえんというところに行くらしい

 ここでもママは、ぼくを置いていくようにきみに言った

 それでもきみはぼくと一緒だった


 きみは楽しそうに大きなものに登っては、風のように早く降り立った

 ぼくもその風に乗る

 かと思えば、今度は何かを掘り始めた

 そのときまたママが、ぼくをママに渡すようにきみに言った

 それでもきみはぼくを離そうとしなかった


 ママが、あっ、と声を漏らした

 そのときぼくは、ぼくになにかが触れるのを感じた

 きみはママとぼくを見比べて、そしてどうしてなのか、その目に雫を溜め始めた

 その雫のひとつがぼくに落とされる


 ぼくはなんだか胸がぎゅーっとなった

 どうしてそんな顔してるの?

 どうして初めて会ったときみたいに笑ってくれないの?


 ぽろぽろとこぼれるその雫をママが拭った

 ママは大丈夫だよと笑った

 洗えば元に戻るからと言って、きみに笑いかけた

 きみは本当? と聞いて、その言葉にママが頷くと、またあの笑顔をぼくに見せてくれた








 きみはなんだか大きくなった

 どんどん大きくなって、なんだかぼくが小さくなったようにも思えた

 きみはぼくをそばに置いてくれたけど、一緒にいる時間はどんどん減っていった


 ぼくよりも前にきみの家にいた彼がおかしなことを言い出した

 ぼくがきみとずっと一緒にはいられないと言うのだ

 なんておかしなことを言っているのかと、ぼくは笑ってやりたかった

 でも彼は、そのうちわかるさと言って、ぼくの代わりに笑っていた


 ぼくは彼の言うことを信じていなかった

 けれど、時間が経つにつれて、きみとの時間は減っていった

 ぼくの定位置もいつの間にか変わっていた

 ぼくはきみの部屋の隅の方へと引っ越した

 ぼくの定位置だった場所には、四角くて、バサバサするものが置かれた

 きみはいくつもあるその四角を選んでは、机に向かった


 きみはぼくの方を見なくなった

 きみと目が合ったのは、いつが最後だろう









 きみは大きなカバンにたくさんのものを詰め込んでいた

 それはきみがどこか遠くに行くときに使っていたものだった

 またお出かけするのかな?

 ぼくはまたお留守番かな?



 するとまた、あの彼が笑って言った

 いよいよそのときがきた、と

 ぼくは彼の言っていることがわからなかった



 彼は聞いてもいないのにぼくに説明して聞かせた

 彼はここに来る前は別のところで、昔のきみくらいの子に遊んでもらっていたこと

 その子が今のきみよりは小さいときに、彼はその家からここに連れてこられたこと


 それがどういう意味かわかるか?

 と彼は最後にぼくに聞いた

 ぼくにはさっぱりわからなかった



 ぼくの定位置はまた変わった

 ぼくはなにもなくなった部屋の片隅に置かれた

 他にはもっと大きなカバンが置かれている

 ぼくはその上に座るように置かれていた


 お土産なのか、置き土産なのか


 どっちだと思う?


 彼はぼくが悲しそうな顔をしていると笑った


 悲しそうな顔してるって?


 ぼくにはぼくの顔なんてわからないけど、


 悲しそうな顔をしているからって、別に置いていかれちゃったわけじゃないよ

 だってずっと一緒だったんだ

 これからだってずっと一緒にいられる

 今までずっと一緒だったから、ちょっと離れただけでも悲しいんだ


 だから、置いていかれたわけじゃない


 荷物だってここにある

 キミには見えないのかい?

 きみが大切なものを置いていくわけないじゃないか

 ぼくを置いていくわけないじゃないか


 だから、きっと帰ってくる



 お荷物だって?


 そんなことあるわけない


 あるわけないんだ



 おかしなことを言わないでほしい






 バカみたいじゃないか



 これじゃあ、ぼくがバカみたいじゃないか



 本当はわかってるんだよ



 きみがもう帰って来ないかもしれないことも



 置いていかれたってことも



 本当は

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