ねこ

 ぼくはひとつ大きなあくびをした。

 暗いぼくたちの時間が終わって、眩しいあいつがやってくると

 君は何だか忙しそう。

 いつもバタバタ走り回ってる。


 いってきます


 そう言うと、君はいつもどこかへ行ってしまう。

 毎日、毎日、同じ時間にいなくなる。

 一体どこへ行っているんだろう。

 その間、ぼくはお留守番。


 ぼくは狭いところが好きだった。

 いや、好きになった、と言う方が正しいかもしれない。


 ぼくの嫌いな場所。

 ぼくが寒い雨の中、置いていかれた場所。


 そこも狭いところだった。

 ぼくは今よりもまだ小さくて、何もできなかった。

 寒いし、お腹もすいていた。

 そしたら、だんだん眠くなってきたんだ。

 ぼくはその誘惑に勝てなくて、とうとう目を閉じてしまった。





 次に目を覚ました時には、ぼくは何だかほかほかした何かにくるまれていた。

 ぼくの目に一番に飛び込んできたのは、君の笑顔だった。


 ここはどこだろう。

 君は誰だろう。


 はじめはそんなことを考えていた。

 でも、そんなことよりも、ぼくの体は温もりを求めていた。

 君がくれるおいしいごはんを、夢中になって食べた。

 そのおかげで、ぼくは元気いっぱいになった。


 君はぼくに名前をくれた。

 君がその名前を呼べば、ぼくはちゃんと反応する。

 かしこいねって? そりゃあなんたって、このぼくだからね。



 ぼくが来てしばらくは、君は毎日ここにいて遊んでくれた。

 かまわれすぎて、時々ひとりになったものさ。


 それなのに、君はぼくに何も言わずにどこかへ行ってしまうようになった。

 あの眩しいあいつが出ている間はいつも。

 ぼくに黙ってるなんて、ちょっとあんまりだと思わない?


 別に寂しいとかじゃないよ。

 ぼくに黙っていたことに、怒ってるんだ。

 そう、ぼくは怒ってるんだよ。

 寂しいなんて、そんな言葉で片付けないでくれよ。


 ん?

 もうごはんの時間だって?


 ぼくはこんな隙間に入り込んでいるっていうのに、よく見つけられたね。

 え? いつもこの時間にはここにいるからだって?

 そうかな? だって、ここ落ち着くんだもの。


 この時間のごはんはいつもママがくれる。

 君じゃない、ママがくれるごはんは、君がくれるごはんより少なめ。

 ぼくはそんなに大食いじゃないから、別に不満はないけどね。


 ふわぁ。

 お腹がいっぱいになったら、眠くなってきた。

 もう一眠りしようかな。




 温かいなぁ。

 ここはとっても温かくて、離れたくないなぁ。

 でも、君の膝の上がぼくは一番好きだけどね。


 ふわぁ。

 それにしても眠いな…

 もう少し眠っててもいいかな…

 まだ、あいつも出ているんだろ?


 と、ふと外を見ると、あいつが隠れようとしている。


 いけない。そろそろ時間だ。

 思ったより、眠ってしまっていたみたいだ。

 ぼくが悪いんじゃないよ。

 このポカポカ陽気がぼくを眠りの世界に誘うんだ。


 ぼくはのんびりしてしまった言い訳をすると、

 一段、一段、段差になっているそこを駆け上がった。


 扉がいくつかあるけど、全部きれいに閉まっている。

 でも、ぼくを甘く見てもらっちゃ困るよ。

 こんなのぼくにかかれば、簡単に開けられるんだからね。


 ぼくは扉についている、それを開けられるに飛びついた。

 そこに自慢の前足をかけると、ぼくの重みでそれが動く。

 そしたら、扉は簡単に開けられるのさ。


 ぼくは飛び降り、部屋に入っていく。

 目的地までは、もう一つ超えないといけない壁がある。

 そこは、このぼくでも、ちょっと手を焼く。

 でも今日はその心配はいらないみたいだ。


 ぼくは少し開いている扉から外に出た。


 ぼくは、昔から狭いところが好きだった。

 中でもお気に入りの場所があってね。


 ぼくは、細長い棒がいくつも並んでいるその間に自分の体をねじ込む。

 もうすでに、にぎやかな声が聞こえてくる。

 もう帰ってきただろうか。

 いや、このぼくが君を見逃すわけがない。


 ぼくは目をこらして、君を探す。

 君を探す、ぼくの特等席で。


 ぼくのお気に入りの場所。

 一番に君を見つけられる場所。


 ただいま


 ほら、また笑顔が光ってる。


 ねぇ、君の好きな場所はどこ?


 君の好き、もっと教えて。

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