コトノハにのせて
小鳥遊 蒼
てるてるぼうず
「ねぇ、どうして僕たち、窓のフチに座っているんだろう?」
そもそも、座っているという言葉は正しいのかな?
「僕たちって、どっちかっていうと、あの上の方からつるされるものじゃないんだっけ?」
「ぼくも聞いただけだから、なにが正しいのかなんてわからないよ」
そもそも、正しいってなんだろう?
生まれたばかりのぼくたちは、この世界のことをなにも知らない。
君が誰なのかも、ぼくたちは知らない。
首にそんなの巻いたら苦しいでしょ?
ぼくたちを作った君が、君がママと呼ぶその人に泣きついた。
ママは優しく微笑みながら、リボンを取り出した。
それを君に渡しながら、これなら苦しくないよ、って。
君は、本当? と、まだ心配そう。
ママがぼくにリボンを巻く。
優しく、まるで抱きしめるように、そっと結ぶ。
ほら、大丈夫でしょ?
ママがそう言うと、君はぼくのリボンに触れた。
大丈夫? 苦しくない?
君がぼくに聞く。
ぼくは大丈夫だよ、そう言ったけれど、君には届かない。
君はママからリボンをもらうと、ママの真似っこをして、ぼくの弟にリボンを結ぶ。
ママほど上手じゃないけど、優しく、優しく、結んでいく。
あれ? そんなところに置いちゃうの?
ママが君に聞く。
君は、僕たちをそっと抱きかかえると、窓のフチに座らせた。
ここにヒモを通して、お空にいるかみさまに見えるようにしなくていいの?
ママはすでに用意していたヒモを、どうする? というように君の答えを待っていた。
君は考え込んでしまった。
どうしようか、と悩んでいる。
君は、ぼくたちと空を見比べた。
ここでいい。
一生懸命考えていた君が出した答えは、簡単なものだった。
そうしてぼくたちは、今ここにいる。
「でも、残念だったね」
「うん。あんなにお願いしてくれてたのに、雨降っちゃった」
「しょうがないさ。お願いされても、僕たちにそんなチカラはないんだから」
薄情なやつだな。
「だって、僕たちには何もない。あの子がつけてくれた、この顔くらいなものさ」
その顔のせいで、ぼくの弟はなんだかぼくよりも強気な性格になっていた。
それも、ひとつひとつ、君が作ってくれたもの。
ぼくたちに想いは込められている。
君が作ってくれた時から、とても優しく、温かい想いが込められている。
それでも、雨は降った。
「でも、いいじゃないか。だって、僕たちは一緒にいられる」
無責任だな。
「無責任だって? 知ったこっちゃないよ」
僕たちにそんなチカラはないもの
ぼくの弟は、その言葉を繰り返す。
我が弟ながら、ずいぶん大きい顔をしているものだな、と思う。
そんな時、君がぼくたちの元にかけ寄ってきた。
その表情は、空と一緒でどんよりしている。
ぼくはなんだか不安になった。
君のことが心配だった。
「あの子、怒るかな?」
「静かに」
ぼくたちの声が届くわけもないのだけど、ぼくは隣にいる彼に静かにするよう言い聞かせた。
ごめんね?
ぼくはその言葉に目を見張った。
もちろん、実際そんなことはできない。気持ちの話だ。
どうして、君が謝るの?
謝るのは、ぼくたちの方なのに…
ボク、本当は晴れてほしくなったんだ。
雨が降ればいいのに、って思っちゃったんだ。
君はやっぱり泣き出しそうだった。
それでも一生懸命、想いを伝えてくれた。
それなのに、君たちにお願いしちゃった。
君たちはなにも悪くないのに、雨が降っちゃったせいで、君たちが悪く言われちゃう。
君の目からは大粒の涙が溢れていた。
ボロボロと、いくつも溢れる涙は、まるで雨のようだ。
ぼくは、涙なんて流せないけれど、泣きたい気持ちになった。
君のその優しさに、同じもの流せたらいいのにって思ったんだ。
「いいじゃないか」
「え?」
「雨は降った。でもそれはこの子のせいじゃない」
もちろん、僕たちのせいでもない
「だって、僕たちにそんなチカラはないんだからね」
彼はまた同じ言葉を繰り返す。
「それでも、いいじゃないか」
今日の天気とは、まるで反対のすっきりとした顔をしていた。
「この子のおかげで僕たちは今こうしているんだし」
「うん」
「だからこうして、一緒に寄り添えるんだもの」
一緒にいれば、苦しみだって乗り越えられる
「ほら、僕たちの出番だ」
「ふふっ、そんなチカラないんじゃなかったっけ?」
「いいだろ」
彼は、少しだけ照れているように見えた。
「そうだね。さぁ、君の雨をやませる時だ」
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