「ノーラさん」

 天界に来てからもう1年ほど経過し、雄二の体の変化は著しいものとなっていた。まず食事が不要になっていた。どんなに激しく運動をしても、勉強で忙しくても一向にお腹が空かないのである。雄二の体がそうなるのと同時くらいに冷蔵庫の在庫は切れており、それから食材の量はどうやったのかは分からないがキッチリと計算されていることが分かる。

 その他に、睡眠の方も不要になった。どんなに激しく活動しても全く眠気に襲われないのだ。そのせいか、外も常に明るいままなのもあり、雄二の中で日付と言う概念が無くなった。少し前まで日付の基準となっていた唯一の存在である体内時計が無くなったためである。

 勉強の方はと言うと、天界に関する事と、言語の方はほとんどの世界のものを終えることが出来ている。世界の情勢や歴史の勉強に関してはまだ半分ほど残り、天界術式もまだ習得できていないのもが多い。だが、1年でここまで出来ているのはかなり早い方である。普通ならばここまで来るのにもう半年ほどかかるのだ。雄二の元々の能力はそこまで高いわけでは無いが、彼はかなりの努力家であるために、早めにここまで来ることが出来たのである。

 ちなみにセルの方はごく平均的なスピードで勉強が進んでいた。しかし、カルマは能力がかなり高いのか雄二よりももっと先を行っており、残すは天界術式をいくらか習得することぐらいである。

 ここで言う能力というものは応用力である。いくら天界に来たことによる体の変化で記憶力が上昇したとしてもそれを上手く活用できなければ意味が無い。カルマは普段の様子では想像つかないがかなり賢い。勉強した内容をどういう場面で、どう活用すれば良いかを教えられなくても自分の力で理解することができるのである。そんなカルマをセルと雄二は羨ましく感じていた。


 現在、雄二はカルマにできるだけ追いつけるようにするため、レナの授業を受けた後も必死で勉強をしていた。

(カルマって頭いいのに何で普段関わっててもそれを感じないんだろう)

 雄二にとってはそれが謎である。普通は賢い人と話したりすると、それ相応の印象を受けるものだが、カルマにはそれがないのである。なので、平均的な知能である雄二やセルでも関わりやすいのだ。

 雄二はそういう所が彼女の魅力だと思っている。

(しかし、どんなに頑張ってもカルマに追いつける気がしないよ。勉強時間だけは僕の方が長いはずなのに)

 そんな劣等感に襲われながら勉強に励んでいると、目の端でうねうね動く何かを捉えた。

 雄二は何かと思いそれに焦点を当てた。

(あ、あれは・・・)

 それはRPGゲームでよく見る、液状で半透明な見た目をした直径30センチほどの生物であった。それは教科書とノートを机に乗せ、テカテカした体の一部を器用に使い、ペンで文字を書いていた。

 雄二はその生物が気になってしまい、しばらくジーっと見つめてしまった。すると相手もそれに気が付いたようで、顔が無いため表情は分からないが、恥ずかしそうに体をくねくねとさせた。雄二はそれでハッとなり、目を反らした。しかし、その液状の生物はジッと見つめてきていた雄二の事が気になったらしく。彼の方へと近づいていった。

 雄二はそれに気が付き、どんな顔をすればいいのか分からなくなっていた。彼の傍まできたその生物は、持ってきたノートにペンを使い、天界語で字を書いた。

 その内容は『私に何か御用ですか?』というものだった。どうすれば良いのか分からなかった雄二は周りに人がいない事を確認して、とりあえず小声で話しかけてみる。

「あ、いや、ごめん。ジーっと見ちゃって、特に用があるという訳では無いんだ」

 その生物はまたノートに文字を書いた。

『そうなんですか。では何で私の事を見ていたんですか?』

「えっと、それはですね・・・」

 雄二はどう話したものかと悩んでいた。見た目が気になったからと話してしまうと失礼なのではないかと思ったからである。

 雄二が考え込んでいると、その生物は

『もしかして、私のこの姿が気になったんですか?』

 とノートに書きこんだ。

「はい、実はそうなんです・・・」

 うまい言い方が思いつかなかったため、雄二は仕方なく書かれた内容を肯定した。

『そうでしたか。確かに他の人と姿かたちが違いますしね』

「ごめんなさい。失礼だったよね」

『いえ、良いんですよ。気にしないでください』

「本当にごめんなさい」

 雄二がペコペコ頭を下げていると、生物はちょっと躊躇った様子を見せた後に何かをノートに書きこんだ。

『よろしければ、お名前を教えてくださいませんか?』

「え、僕の名前?」

『これも何かの縁かもしれませんし』

「なるほど、確かにそうかも。僕の名前は田村雄二。雄二って呼んでね」

『どう書くんですか?』

「ちょっとノートを貸して」

 雄二はノートを受け取ると、そこに自分の名前を日本語で書いた。

「こんな感じ」

『ありがとうございます』

 生物は続けてノートに書き込む。

『私の名前はノーラと言います』

「ノーラか、これからよろしくね」

 雄二がそう言うと、ノーラはまた躊躇した様子を見せた後に、ノートへ文字を書き込んだ。

『雄二さんはこの後予定はありますか?』

「無いけど、どうして?」

『せっかく名前を教え合ったんだから親睦を深めたいです』

「具体的にどうするの?」

『私の家で遊びましょう』

「ノーラの家でか」

「はい、私のいた村で流行ってたゲームをしましょう」

「良いよ。なんか凄く楽しそう」

『だったら勉強がキリの良いところまで進んだら一緒に私の家に行きましょう』

「うん、分かった。なら早く勉強の方を片付けちゃおう」

 ノーラと雄二は勉強を再開し、それが終わると一緒に図書館を出てノーラの家へと向かった。一緒に歩いている時、ノーラの移動する姿を観察していると、それは歩くというよりも滑るという言葉の方がしっくりときた。

(移動方法はカタツムリやナメクジと同じような感じなのかな)

 雄二はそんな事を考えた後、これは流石に失礼すぎると感じ、心の奥に留めておくことにした。

 しばらくノーラに案内されながら道を進んでいくと、目的の場所にたどり着いた。

 玄関のドアまで行くと、ノーラは体の一部をドアノブまで伸ばした。それからガチャリとドアを開けた。

『どうぞ、入ってください』

「お邪魔します」

 雄二は玄関で靴を脱ぎ、家へとあがっていった。中は特に何も飾られておらず、壁もカーテンも無地でかなり殺風景なものになっていた。 

 ノーラの体には合わないためか、家の中には足の長いテーブルや椅子が存在しない。雄二はちゃぶ台の方へと誘導された。

 雄二を座らせた後、ノーラはタンスの方へ向かった。中をガサガサと漁り、縦横の線が入った板といくつかの駒を取り出した。それからそれをちゃぶ台の上に置いた。

『これは私たちの村に伝わる伝統的なゲームなんですよ』

「もしかして駒を取り合う戦略ゲーム?」

『よくお分かりになりましたね』

「こういう板と駒を使ったゲームは生前よく遊んだよ」

『そうでしたか。それならルール説明も簡単そうです』

 雄二はノーラからゲームの説明を受けた。ノーラはその際、全てのルールを素早くノートに書きこんでいた。そんな様子を見て雄二はそれを目覚ましいと感じた。

「ノーラって本当に文字を書くのが速いよね。会話に支障が全くでないし」

『ここに来てから練習しましたから』

「そうなんだ。それじゃあやっぱり喋ることはできないんだ」

『体の構造的に喋ることはできないですね』

「地上にいた時はどうしてたの?」

『私の種族は同じ種族同士で触れるだけで意思疎通ができます』

「テレパシーみたいなものかな」

『そんな感じです』

 ノーラと雄二は早速ちゃぶ台に置かれたゲームを始めた。ルールはチェスに近く、相手の陣地にある親玉の駒を取れば勝ちである。ノーラはゲームをやりながらも器用に文字を書きながら雄二と会話していた。

「そういえばノーラがいた世界では人間はいなかったの?」

『いえ、私たちの世界にも人種と呼ばれる方々はいましたよ』

「へぇ、ノーラの世界にも人間はいるんだ」

『何だか不思議な力を使う方々でしたよ』

「不思議な力?」

『手から火を出したり、水を出したりしてましたよ』

「え、それって」

『とにかく凄い方々でした』

 雄二はそういう人間に思い当たる節があった。

「なぁ、このゲームが終わったらさ、ちょっと呼びたい人がいるんだけど良いかな」

『別に私は構いませんよ』

 ゲームは実力に差がありすぎてあっという間に決着がついてしまった。結果、ノーラの圧勝である。

「つ、強い・・・僕の手を何十手先も読まれているようだ・・・」

『いえいえ、雄二さんも初めてにしては上手かったですよ』

「ありがとう、お世辞でも嬉しいよ」

『お世辞ではありませんよ』

「そう?ならちょっと自信が出てくるな。あ、そうだ、ゲームも終わったしノーラに会ってみて欲しい人がいるんだ」

『どんな方ですか?』

「それは会ってからのお楽しみ。呼ぶからちょっと待ってて」

 雄二は覚えたばかりの思念伝達を使用し、その人物をここに来るように誘い、そこまでの道を教えた。

 その人物の家からノーラの家までは結構近いのである。

「多分もうすぐ来ると思う」

『楽しみです』

 それから雄二はノーラと談笑を楽しみながら待っていた。そうしてしばらく時間が経つと、誰かがドアを叩く音が聞こえ、その後にドア越しで喋る声が聞こえてくる。

「ゆうじー、来たわよー」

 雄二は玄関の方へ行き、ドアを開けた。

「やぁカルマ」

「急に呼び出してどうしたの?全く、セルと言い用件を言わないわよね」

「ごめんごめん、カルマに是非とも合って欲しい相手がいるんだ」

「そうなの?そもそもの話ここは誰の家なの?」

「ここはあそこにいるノーラの家で、カルマに合ってほしかった相手だよ」

 そう言って雄二はノーラの方へ手を指し示す。その姿を見たカルマは驚愕の表情を浮かべた。

「フレイド種じゃないの!何でこんなところにいるの!?」

「やっぱりノーラってカルマの世界から来たんだね。ちなみに僕らの世界ではスライムって呼んでるよ」

「え、ちょっと、この状況を理解できないのだけれど」

 カルマにとってはかなり衝撃だったらしく、両手で頭を抱えて必死に考え込んでいた。しかし、彼女の高い知能でも理解できないものがあるようで、最終的に考えるのを諦めてノーラの方を見つめていた。

「私は夢でもみているのかしら」

「そこまで驚くこと?」

「だってフレイド種は意思疎通できないし、言葉も理解できるか分からないからここでは働けないでしょ」

「いや、ノーラは言葉を理解できるし意思疎通もできるよ」

「そんな事あるわけないでしょ」

 カルマがそんな事を言うと、ノーラは彼女の方へと近づいて『初めまして、ノーラと申します』とノートに書き、それを見せた。

「噓でしょ・・・」

 カルマは目を丸くして口を魚のようにパクパクとさせていた。

「もしかしてフレイド種だっけ?が意思疎通できることを知らなかった?」

「そりゃ子供の時から人間としか意思疎通は出来ないと教えられてきたからね・・・いやぁ、こんな事ってあるんだ・・・」

「ノーラの種族って自分の種族以外と意思を交わすことって無いの?」

『無いですね。会ったとしても遠目から見てるだけです』

「そうだったんだ」

「というかこれは大発見よ!フレイドが会話をすることができるなんて、私の世界では彼らと話している人間なんて見たことが無いわ」

「そうなのか?誰かしら意思疎通を図るような人はいたでしょ」

「いないわよ。子供のころから人間以外とは会話できないと教えられてきたからね。生物と会話をしようとすれば親に叱られてたわ。いたとすればミキちゃんがフレイドを抱きかかえて何かを伝えようとしてたぐらいで」

「なんか変なところで厳しいんだな」

「そりゃ生物と会話ができると信じたまま大人になって欲しくないんでしょ。大人になっても生物と意思疎通をしようとする人はからかわれたりするしね」

「そのミキって言う人だけは違うんだね」

「ミキちゃんだけは特殊なんだ。今考えれば謎の多い子だったなぁ」

 カルマは地上での出来事を話して感慨深くなっていた。そして、思い出したかのように話を戻す。

「それよりもそのノーラって言う人?生き物?に関してよ」

「生き物は流石に失礼だから人で良いんじゃない?」

「そうね。ノーラってもしかして元から人の話す内容を理解できた感じ?」

『そうですね。言葉は人種の方々が残してくれた本で理解してましたから』

「そういえば、旅人の本にフレイドが本へ異様な関心を示してたから何冊か与えたとか書いてあったわね。多分その旅人以外にもそういう人がいたとしても不思議じゃないわ」

「なら尚更気づきそうなもんだけどな」

「みんな同じ教育をされてきて考えが偏ってたんだろうね。私も今この瞬間まではそうだったわ」

 カルマは今までの考えが一気に覆ってしまった。彼女は文字を書くノーラを興味深そうに見ていた。

 「それじゃあノーラ、地上にいた時も私たちが話している内容と言うのも分かっていたの?」

『はい』

「そうだったんだ・・・だったらちょっと悪いことしちゃったかもね・・・」

「なんで?」

「私たちが生物と会話をしないように教育されてたって話はさっきしたでしょ」

「したね」

「だから私はフレイドが何かを伝えようしていても、どうせ言葉は理解できないんだしと適当にあしらってたのよね」

「それはしょうがないんじゃないか?僕だってカルマと同じ状況だったら同じような行動をしたさ」

『私たちは全く気にしてませんよ』

 ノーラはノートを掲げて上下に伸び縮みした。

「ほら、ノーラもこう言ってるんだし」

「そうね・・・でも一言だけ謝らせて、私たちはあなた達が言葉を理解できるほどの知能はないとか決めつけてたわ。ごめんなさい・・・」

 頭を下げるカルマを見てノーラは彼女の元へと近づいた。そして体の一部を伸ばし、それを使ってカルマの頭を撫でた。まるで、気にしなくても大丈夫だとでも言っているようである。 

「ありがとうね。ノーラ」

 カルマはニコリと笑ってノーラが伸ばしたそれを両手で優しく包んだ。ノーラは嬉しそうに体を揺らしていた。それからノーラは一瞬雄二にも見せたような躊躇するような様子を見せ後

『せっかくなのでお友達になりたいです』

 と書き込んだノートをカルマに見せた。

「もちろん良いわよ。あ、まだ自己紹介がまだだったね。私の名前はカルマ・ミリエル。攻撃系の魔法を得意とするわ」

『私の名前はノーラと申します。知っての通りのフレイド種です』

「よろしくね」

『それでその、魔法とは手から炎や水を出したりするやつですか?』

「そうよ。それじゃあ見ててね」

 カルマは得意な顔になって手のひらを天井の方に向けた。彼女が「ファイア」と呪文を唱えると、その手から野球ボールほどの大きさの炎が浮かび上がった。

 ノーラはそれを見て興奮した様子で体を伸び縮みさせた。

『凄いです。カルマさん』

「いやぁ、それほどでも~」

 カルマは嬉しそうにもう一方の手で頭を掻いた。すると、手の上に浮かぶ炎から注意をそらしてしまった。浮かんでいた炎は高度が少し下がり、カルマの手の上に乗った。その瞬間ジュッと音がした。

「うぎゃあああ、あっちぃいいいい」

 さっきまで得意になっていたカルマは悲鳴を上げて手をブンブン振っている。だが、辛うじて炎は地面に落ちずに済んだ。それを見て雄二とノーラはホッとした様子だ。

「カルマ、頼むから火事だけは起こすなよ」

 セルの家の中と言いカルマは所かまわず炎の魔法を使う傾向にある。そんな彼女を雄二は叱責した。落ち着いた後、ノーラはカルマにそんな誘いをする。

『カルマさんも良かったら一緒にゲームをやりませんか?』 

「良いわよ。何のゲーム?」

『これです』

 ノーラはさっきまで雄二とやっていたゲームを指示した。

「これは始めて見るわね。どうやって遊ぶの?」

『それじゃあルールの方を説明します』

 カルマはさっき雄二のために書いたゲームの説明が書かれたノートのページを見せられた。それをじっくり見て、カルマはルールを把握した。

「へぇ、面白そうじゃないの?ちなみに雄二とはやったの?」

『はい、遊んでいただきました』

「結果は僕のボロ負けだったけどね」

 雄二は悲しそうな声をあげた。カルマはそんな雄二を見てニマニマとしていた。そして、からかい口調で雄二に喋りかける。

「えぇー、雄二ってこういうゲーム弱かったりするの?想像通りだけどねぇ」

「ふーんだ。どうせ僕は馬鹿ですよー」

「全く、それじゃあ雄二の代わりに私がノーラにリベンジをしてあげましょう」

 カルマは勝つ気満々の様子でちゃぶ台の前に腰を掛け、見せつけるように髪をかき上げた。

『それじゃあよろしくお願いします』

 ノーラもカルマの向かいに移った。

(なんか結果が予想できてしまうんだが・・・)


-15分後-

「なんでよおおおおおお、何でそんなところにピンポイントでその駒があるのよおおおおおお」

 カルマの近所にも聞こえそうなほどの叫び声が部屋に響き渡った。最初のほうは割と実力が拮抗しているように見えたのだが、それはノーラが盤面と整えていたからであった。カルマはまんまとノーラの戦略にハマり、彼女の駒は殆どが奪われてしまった。

 最後のチャンスと取っておいた一番強い駒を、ノーラの親玉の駒に近づけたものの、それもノーラの計算の内だった。カルマが最後の砦としていた駒もあっけなく取られたのであった。

「ねぇねぇ、カルマさんカルマさん。さっきまでの威勢はどこへ行ったのかな?」

 雄二はここぞとばかりにさっきの復習の気持ちでからかい始める。

「そんなに馬鹿にしないでよ!!雄二だってボロ負けしたんでしょ!!」

 カルマはキッと雄二を睨んだ。

「さっきのお返しだよ」

「何だとお!?」

『二人とも喧嘩はやめてください』

 見かねたノーラは二人の仲裁に入った。とは言っても最近ではこんな光景は日常茶飯事で、お互いそこまで怒っているわけではない。そんなことを知らないノーラはあたふたとしている。

「まぁ、負けたもの同士で言い合っても仕方ないよな」

「そうね。惨めになるだけだわ」

 そんな感じで二人の言い争いは終わった。ノーラはホッとした様子で体を平たく潰していた。

「それにしても本当にノーラは強いわね。私だって頭を使うゲームなら自信があるのに」

「カルマは凄く頭いいもんな。僕よりも色んなことの飲み込みが速いし、正直僕もそういうゲームでは勝てる気しないよ」

「そう?私ってそんなに頭いい?やだなぁ、そこまで褒めなくてもー」

 カルマは嬉しそうに体をくねくねとさせた。雄二はその様子をみてため息をつく。

「正直カルマはそういう性格で良かったと思うよ」

 雄二はそんな本音を呟くが、褒められたことが嬉しくてたまらないカルマの耳には入らなかった。

『カルマさんって面白い方ですね』

「でしょ?」

 ノーラと雄二は顔を合わせた。

 そして、カルマは雄二にさっきのゲームをやるように挑みかけた。正直、雄二は勝てる気がしなかったが、カルマのために付き合うことにしたのであった。


「あ、あれ?」

 ゲームを始めて10分、盤面は殆ど雄二の駒が占領する形になっていた。さっきのノーラとやっている様子を見ているだけでは分からなかったが、カルマにはかなり隙が多いのである。後半の方はもはやカルマが駒を動かすたびに雄二へそれを献上する羽目になっていた。

「どうして、なんでブツブツブツ」

 カルマはさっきとは違って叫ばず、ひたすらブツブツと何かを呟いていた。そんなカルマを見て雄二は軽い恐怖を感じた。

(誰にでも苦手な事ってあるんだな・・・)

 カルマはなんでも器用にこなすイメージだが、苦手なことをやるととことんダメになるらしい。雄二はまたカルマの新しい一面を見ることができた。

 結局ゲームの結果は雄二の圧勝となった。しかし、雄二はなんとも言えない気まずさに襲われる。目の前にはこの世の全てが終わったような表情で、天井をボーっと見ている金髪美少女の姿があるためだ。

「なぁカルマ、別に気にしなくても良いと思うよ。カルマには天才的頭脳があるんだから。な?」

『そうですよ。カルマさんも回数を重ねれば必ず強くなります』

 二人は必死で慰めの言葉をかけるが全く反応が無かった。それからしばらく言葉をかけ続けると、ようやくカルマは息を吹き返した。

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