「カルマさんについて」

 それから雄二はカルマに問いかける。

「カルマは何をする予定なの?」

「私は転生者かな」

「それは最初から決めてた感じ?」

「いや、そうじゃないよ。私は元々天使に興味があったという理由でここに住んでいたんだ」

「だったら俺と一緒だね」

「セルもそうだったんだ。それで天使の職業について色々勉強してたらこの転生者って言う職業に魅かれたんだよね。それでこの前、転生者の天使たちが働く現場を見学させてもらったんだ。そしたら魂を自分の身のように大事にする天使たちを見て、私もこういう天使になりたいなぁと思ったのよ」

「カルマって意外と行動力があるんだね。俺は結構羨ましいかも」

 セルは感心したように頷いた。

「セルも見学とかしてみたらいいんじゃないかな。それで結構印象とか変わったりするかもよ」

「うーん・・・俺もやってみようかな」

 セルは顎に手を当てて唸っていた。彼は勉強熱心ではあるのだが、興味を持ったものを自分から見に行くタイプではないのである。

 雄二は現場で思い出したことがあった。それはここに来て初日のことである。

「僕は天使たちが働く現場とかは、教育担当であるレナさんにある程度見せてもらってたんだよね」

「雄二は最初にもう見学は済ませてある感じなのね」

「うん、それでね。見せてもらう事のできなかった施設があったんだ」

「それは時間が足りなかったって事?」

「施設一つを見学するのにそこまで時間が掛からなかったからそれはないと思う」

「それでその見せてもらえなかった施設って何だい?」

「肉体精製所とVR室っていう場所なんだけどね。肉体精製所って言うのは大体予想できるけどVR室っていうのが何なのかわからない」

「肉体精製所って言うのは私たちの体を作った施設ってことなんだろうね。確かに天界に来て間もない人たちがそれを見るとショックを受けちゃうかも。でもVR室ってなんだろうね」

「俺も分からないな」

 VR室と言う名前を聞いただけではカルマもセルもそれが何なのかは分からないらしい。

「俺はVRと聞くと僕の世界で流行ってたゲームを思い出すな。面白かったなぁ、実際に匂いを感じたり、物を触れたその感覚があったし」

「セルの世界のVR技術は凄いんだな。僕の世界はせいぜいゴーグルを顔に着けると視界がゲーム画面いっぱいになるくらいでしかないよ」

「ねぇねぇ、二人は何の話をしているわけ?」

「あ、そうか。カルマがいた世界は魔法が蔓延っている世界なんだっけ。ならVRも存在しないか」

 雄二は住んでいた世界によって通じないものもあることを思い出した。過去にセルと話した際も、彼は魔法と言う言葉自体知らなかったのである。

「VRって言うのはね。視界や聴覚、触角を用いて仮想現実にいるような感覚にさせるものだよ」

 セルはそう説明した。もちろん、雄二の知っているVRには触角を用いたものはまだ存在しない。

「へぇー、凄いものなのね。ちょっと興味が湧いたわ」

「なら雑貨屋で探してみたらどうだろう。多分一つくらいそういう装置が売ってると思うよ。もしかしたら俺の知ってるやつもあるかもしれないし」

「それじゃあ今度3人で探しに行こうよ。僕も最新のVR技術に興味があるし」

「そうだね」

 そんな約束をしたところで、話題は天界にあるVR室に戻った。

「それで何でそのVR室に関しては見せてもらえなかったんだろうね」

「分からない。でも僕がその建物を見た時は何だか嫌な感じがしたよ」

「でもVRの説明を聞いた限りでは特に悪いものは感じなかったけどなぁ。VRそのものというよりその内容に何か悪いものがあるのかしらね」

「俺たちが知ってるようなVRとは何か違うのかもしれない。これに関しては想像するしかないだろうね。雄二の話を聞く限り、多分俺の教育担当の方に見学させてほしいって頼んでもさせてもらえないだろうし」

「私は雄二の教育担当のレナさんが見せない方が良いと判断したものだから興味本位で見に行くようなことはしない方が良いと思う。今は分からなくてもここで働くようになった時には、嫌でも知ることになると思う」

「カルマの言う通りかも。僕も来るべき時が来るまで実際に見に行こうとはせずに想像するだけに留めておくとするよ」

「それがいいね」

 一度は3人とも興味を示し、見学してみたいとも思っていたが、話しているうちに今はそれをしない方が良いという結論に至った。

 その後、ボードゲームの方も終わり、最終的な雄二が逆転して1位になって最下位がカルマとなった。

「あそこから逆転されるとは思わなかったよ。というか資産10倍チャレンジとかずる過ぎるでしょ」

「そこは運だから仕方ないさ。あれは成功の確率がかなり低いし、失敗したら資産を全額没収されるんだから妥当だよ」

「私は最後まで運が無かったなぁ。借金をチャラにするチャレンジでも失敗したし、あれって失敗する確率の方が低いんでしょ。私こういうゲーム向いてないわ」

「まぁ、今回は運が無かっただけだよ。確率なんてよく偏るしね」

 雄二は気落ちしているカルマを元気づけた。ゲームを終えたため、雄二はテーブルに広げたボードゲームを片付けた。

「またこうやって3人で遊びたいわね。でも次は運じゃなくて実力を伴うゲームでね」

「アハハ、カルマはよっぽど悔しかったみたいだね」

「何よぉ、セルだって最終的に逆転されてたじゃない」

「それは雄二の運の良さがおかしいだけだよ。でもカルマがあんなに負債を抱えるのは逆に凄いよ」

「むー!頭を使うゲームなら負けないんだからね」

 揶揄うセルに向かってカルマは頬っぺたを膨らませてみせた。そんな二人を見て雄二はクスクスと笑っていた。

 結構な時間セルの家にいたため、雄二とカルマは帰宅することにした。

「それじゃあねセル」

「また遊びに来るわ」

 カルマと雄二が別れの挨拶をすると「うん、またね」とセルは返事をした。そして、玄関を出てドアを閉めた。途中まで二人は同じ道なため、そこまで一緒に帰ることになった。

「カルマってさ、前の世界に仲の良い友達とかいた?」

 雄二は二人で並んでいる時唐突にそんな問いかけをした。

「いたよ。毎日一緒に遊ぶような友達が」

「そうだったんだ。この前セルと一緒に帰ってた時に同じような話題になってね。カルマにもそういう人がいるのか気になったんだ」

「へぇ、ちなみにセルにもそういう人がいたの?」

「いたみたいだよ。その人に合ったらよろしくねとか言われたな」

「雄二は?」

「僕にもいたよ。また会って話したいなぁ」

 そう言って雄二は上空の方を見た。空は相変わらず星のように輝いている。

「ふーん、好きだったのね。その子が」

「うん、好きだったよ・・・って、えっ!?」

「雄二のその表情を見てれば察するわよ」

「そうなの!?」

「それは友達として好きな人の話をする時の表情じゃないもん」

「でも僕は友達の性別すら言ってないのに」

「ま、女の勘ってやつよ」

「凄いな・・・」

 雄二はカルマの直感の鋭さに感服した。

「それでカルマが仲良かった人ってどういう感じなの?」

「凄く優しい子だよ。攻撃魔法しか使えなくて落胆してた私を慰めてくれたし。名前は前にちょこっとだけ口に出したことがある気がするけどミキちゃんって言うんだ」

 雄二はその名前をどこで聞いたのか一瞬分からなかったが、直ぐにこの前カルマがパニックになっていた時だと思い出した。

「カルマも僕やセルがその人を見つけた時にどうしてるか教えてもらうようにする?」

「うーん・・・確かに今どうしてるか気になるかも。せめて様子を見られればいいんだけど、元居た世界の情報を手に入れようとすることは天界で禁止されてるから、それが出来ないのよね」

「分かった。その人を見つけたらカルマに報告することにするよ。ちなみにその人のフルネームを教えてくれる?」

 ここでカルマは少々困ったような様子で頬を掻いた。

「それがね。何度も聞いては見たんだけどフルネームは何故か教えてくれなかったんだ」

「そうだったんだ。でも流石にミキっていう名前だけじゃ見つけられないし、何か特徴は分かる?」

「特徴ねぇ・・・髪の毛が青色でカールになってて、いつもニコニコしてたな。あ、そうだ。私の世界には珍しく魔法が使えないんだよね」

「そういう人ってあんまりいないの?」

「私の知る限りではミキちゃんだけかな。大抵の人はどんなに才能がなくても初歩的な魔法くらいは使えるから」

「その情報を頼りにすれば見つけられると思う。見つけ次第どうしてるか話すね」

「うんよろしく。それとセルと雄二の友達の事も教えてよ。私も見つけたら教えるから」

 雄二はセルの友達の名前と特徴を述べた。しかし、雫の事に関して話すことはなかった。彼女が今どうしているかを話されることによって、これ以上会いたいという気持ちが強くなり、辛い思いをするのが嫌だったからだ。只でさえ心が締め付けられるような思いなのに。

「本当に雄二の友達の事は良いの?好きだったんでしょ?」

「良いんだ。僕はカルマやセルのように強くないから、これ以上彼女の事を思い出すと心臓をえぐられるような思いになっちゃうよ」

「そっか、なら私に何かできることはある?」

 雄二は「ふふっ」と穏やかな顔で笑った。

「どうしたの?」

「いや、セルにも同じような事聞かれたなぁっと思ってね」

「そうなんだ」

「だからカルマもセルも優しなってね」

「まぁでもこれは普通じゃない?友達だったらその人の役に立ちたいと思うよ」

「そう?僕のいた世界ではそういう人はあまりいなかったかも」

「雄二の世界はどれだけ荒んでるのよ」

「多分カルマが想像しているほどではないと思うよ。少なくとも僕のいた地域は結構平和だったし」

「ふーん、でも私から見ればそこも結構住みづらそうだけどね」

「僕はそれなりに楽しんでたよ。ゲームもあったし、漫画やラノベもあったしで」

「そのまんがとらのべは何なのかよく分らないな。天界でも読むことできるのかしら」

「天界には大抵のものはあるからね。多分本屋にでも置いているんじゃないかな」

「今度一緒に行こうよ。私じゃどれだか分からないから」

「良いよ。あ、でも日本語を理解してないと読むことが出来ないかもな」

「それじゃあその言語を最優先で覚えることするわ」

 天界にも本屋という物はいくつも存在しており、その中には文芸書や雄二の知っている漫画、ラノベといった類がある。中には魔法の本や呪いの本が存在し、呪いの本に関しては必要な材料を手に入れることが出来れば、誰でも気軽に呪術を使うことが可能になってしまう非常に危険な代物だ。

 そんな危険な本まで置かれているのは、天使はそういう物を悪用しないと信頼できるのと、そういう本を読みたがる風変わりな者が存在するからである。

 未知のものに異様なほど興味を示すカルマを見て、彼女は好奇心旺盛なんだと雄二は思った。それと同時に、カルマがオタクに目覚めてしまったらどうしようかとも考えていた。

「話をちょっと戻すけれどさ、カルマには代わりにやって欲しいことがあるんだ」

「良いよ、何でも言って」

「僕が死んだことによって両親が落胆してたらさ、慰めたりしてあげて欲しいんだ。多分うちの親の事だからあの時あーしてれば良かったとずっと後悔していると思うんだ」

「分かった。出来る限り元気づけてあげればいいんだよね?」

「うん、お願いするよ」

「よし、今のうちに何か良い言葉を考えておくよ」

 雄二はカルマの厚意に対して「ありがとう」と感謝を述べ、両親の名前と特徴を教えた。

 それからしばらく二人で談笑し、話題は天界での生活に関するものになっていた。今はどんな生活をしているだとか、それが地上で生きていた時とどう違うのか、今はどういう勉強をしているかなどである。

 そんな話をしている時、カルマは唐突に

「結局、私の魔法はここでも役に立ちそうもないのよねぇ」

 と呟いた。

「カルマの世界では大事な戦力だったんでしょ?」

「とは言ってもねぇ。攻撃特化の私の魔法は本当に使う機会が無かったのよ」

「カルマがいるお陰でみんなが安心して生活することができたんでしょう。ならちゃんと役に立ってると思うけどなぁ」

「なるほど、そういう考えもありなのかもね」

「そうだよ。カルマの魔法も無駄じゃなかったんだ」

「うん、確かにそうだ。ありがとう、ずっと心に引っ掛かってたものが少し外れたよ」

「なら良かった」

 カルマは雄二に微笑みかけた。

「でも一個だけ自慢させてもらってもいい?」

「良いけど、何?」

「私の使える魔法の中には睡眠魔法っていうのがあってね。まぁ睡眠と言っても気絶状態にさせるものなんだけど、これは私しか使える人間がいなかったのよ」

「へぇーそれは凄い」

「歴史上でもこの魔法が使える人がいなかったみたいなのよ。こういう相手の体に直接働きかける魔法っていうのは理論上不可能なものらしいわ」

「それじゃあカルマは選ばれた人間なのかもね。良いなぁ、そういうの僕も憧れるよ」

「いやぁ、それほどでもー」

 カルマは顔をニヤニヤとさせ、頭を掻きながら体を左右に揺らしていた。睡眠魔法が使えることに関しては自分でも誇りに思っているらしい。

(カルマってこういう反応もするんだな)

 雄二はカルマの意外な一面を見てちょっと嬉しくなっていた。

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