第70話クラブ・アマンダ

「いやぁ、ここの女の子達は粒揃いだねぇ〜。

 高いお金を払った甲斐があったよぉ。

 美女とお酒を飲むのがこんなに楽しいだなんて」


男爵バロン様は誰がお好みでございますか?」


「私かね?

 私の一押しはシルビアちゃんだねぇ。

 シルビアちゃんはサルサーレの貴族の出ともあって気品があって、お淑やかなところが素晴らしいよぉ」


 クラブアマンダには貴族ばかりではなく、巨富を築いた冒険者達の姿もあった。

 もちろん当店にはドレスコードがあり、そこらの酒場の様に鎧等の戦闘服で入る事は認められていない。

 紳士服が無いなら、スパリゾートで身体を浄めた後、一階ブランドショップにて高級スーツをお求め頂きたい。


「呆けた老人共が。

 この店にはキュリオがいる」


「キュリオちゃんですか。

 彼女はあまり夜の仕事自体向いてないような」


「確かに彼女はミスも多く話下手で接客業に向いていないと言う者もいるだろう。

 それでも、他の子に負けないよう笑顔を絶やさぬ。

 そういった純朴な子が成長していく過程を見守りたいのだ」


「流石、世界を旅する一流の冒険者様だ。

 視点が違う!」


「それにキュリオは……可愛いらしい」



 ——また違うテーブルでは、財界の大富豪までもが連日連夜足繁く通っていた。


「あと幾ら注ぎ込めばあの子レヴィンは私の物になるのかね?

 私はジョンテ一の武器商人なのだよ?」


「マルディーニ様、ここはお酒を飲む店でして、娼館ではございませんぞ」


「そうは言っても、今まで白金貨百枚の酒を五本も空けてしまったわ」


「そ、そんなに。

 何故そこまでその子に入れ込むんですか?

 他に簡単に手に入る女なんて履いて捨てる程いますのに」


「全然違う!

 ああ、やっぱりレヴィンじゃなきゃ駄目なのだ!

 あの子にねだられると、全てを許してしまう。

 ……早く会いたいのう」


 俺は【透明インヴィジブル】となって店の中を徘徊していた。

 ここの評判を直に聞く為だ。

 今夜、店に出ているのはアマンダを入れて五人。

 テーブル席は七席。


 女の子を指名する為には白金貨一枚いる。

 そこから更に入れる酒のグレードに応じた時間だけ席に着いてくれるシステムだ。

 お気に入りの子と飲みたければどんどんお金を使う必要がある。

 ただのぼったくり設定だが、それでも客足が止まらないからどうしようもない。

 たっぷりと搾り取らせてもらうだけだ。


 暗い店内にライトが照らされ、キャスト達が姿を現した。

 ホールから拍手が鳴り歓声が上がる。

 谷間や脚など上品さを損なわないようにチラリズムを意識した程良い露出のドレスに身を包み、既に指名または予約済みの席へと彼女達は歩いていく。


「シルビアちゃん待っていたよぉ。

 今日も楽しもうねぇ」


「これは男爵バロン様、いらっしゃいませ。

 御指名ありがとうございます。

 いっぱい楽しんでいってくださいね」


「ふ、ふむ!」


 センター分けの長い金髪をなびかせ、シルビアはテーブル席に座った。

 話し方や仕草一つ一つが貴族の上品さ優雅さを醸し出す。

 脂ぎった気持ち悪い老いたハゲ男爵を相手にゆったりと話をしている。

 嫌な顔どころか、その見た目の気持ち悪さを一切気にしていないのだ。

 汚れていない。

 これは男爵がコロリといくのも仕方ないな。


「接客中悪いな」


 シルビアの耳元で囁く。

 ビクッと驚くシルビア。

 周りをキョロキョロする。

 そりゃそうなるわな。


「客が不審がるから、そのまま接客を続けて。

 実は魔法で姿を消して、店に来てたんだよ」


「テツオ様?」


「ん?何か言ったかね?

 よく聞こえなかったよぉ」


 突然聞こえる俺の声に驚くシルビアに反応し、男爵が距離を詰めてくる。

 あわよくば太ももを触ろうという魂胆が丸見えだ。

 すかさず酒を勧めて距離を取るシルビア。

 その辺りはしっかりとアマンダに仕込まれている。


「しっ、静かに。

 今からシルビアにいくつか確認をするから、イエスなら首を縦にノーなら首を横に静かに振るんだ。

 いいね?」


 顔を赤らめるシルビアがゆっくりと俯いた。

 首を縦に振ったという事だな。

 耳元へ話しかけるには身体を密着させる必要がある。

 そのせいで緊張しているのだろう。


「密着してるの嫌か?」


 シルビアは更に高い酒を注文させながら首を横に振る。

 嫌ではない、と。


「身体触っていいか?」


 次の俺の質問にピクンと反応したが、男爵との会話にしっかりと対応する為か、すぐに首が動かない。

 同居してるとはいえ、更に好意的だとしても、今までちゃんと話した事もない【透明】な男にいきなりくっつかれるのは、生理的に嫌かもしれない。

 とはいえ、嫌なら首を横に振ればいい。


「どっち?」


 シルビアは湿ったボトルを拭きながらコクリと頷いた。

 OKいただきましたぁ。


 スラリと長く細い脚をそっと触る。

 少ししっとり汗ばんでいた。

 どこを触られるか分からないせいで緊張してるのだろう。


「シルビアちゃん?

 喉が乾いたよぉ」


「あっ、すいません」


 ハッとしてシルビアは男爵のグラスに酒を注いだ。


「今夜のシルビアちゃんは何かいつもと違うねぇ。

 緊張してるというか。

 疲れてるんじゃないのぉ?」


 不審な視線を投げかける男爵。

 マズいな。

 仕事場にきて何をやってるんだ、俺は。


「どうやら俺は邪魔をしてたみたいだ。

 シルビア悪かったな」


 名残惜しく太ももから手を離そうとすると、シルビアが俺の手首をその細い指で懸命に掴んだ。


「男爵様のお話がとても楽しくてつい仕事中だと忘れちゃいましたわ。

 もっと続きを楽しませて下さいませ。

 それが私の一番の元気になりますので!」


 そう言って男爵をその優しい瞳で見つめる。

 だが、シルビアは俺の手をまた自身の太腿へと導いた。


「う、うおぉー?

 そうかぁ!

 よしっ!よしっ!

 私の高尚な話術のせいだったなんてねぇ!」


 調子に乗った男爵は更にグレードの高い酒を入れ、より舌を滑らかにさせた。

 おめでたいおっさんだ。


「もっと続きを楽しみたい?」

「一番の元気になる?」

「もっと触って欲しい?」


 俺の質問にコクコクと何度も頷くにつれ、顔が赤くなっていく。

 耳まで真っ赤で可愛いよぉ。


 ツルツルした光沢のある紫色のドレス越しに身体のラインを確かめる様にマッサージして、サッと手を離す。


 しばらく時間を置き、あれっ?と思わせておいてから、背後に回り込み脇から手を回す。

 アマンダと同じくらい大きく柔らかい。

 前世の基準ならEはありそうだ。

 悲しいかな、こんな記憶はしっかり残ってるだなんて。


 ザックリ開いたドレスから柔らかい肉が競り上がる。

 男爵が口をだらしなくあんぐりと開け、視線が釘付けだ。


「んんっ……」


 漏れそうになる吐息を我慢してるので手を離し、次にシルビアの左に座り太ももをマッサージしていく。


 男爵は次に迫り上がったドレスのスリット部分に夢中になっている。

 シルビアはマッサージの刺激にプルプルと震え始めた。

 ん〜、堪らん。


「あっ……」


 とうとう我慢しきれず色っぽい吐息が漏れる。


「ささ、誘っているのかい?

 シルビアちゃん」


 おっと、これ以上のサービスはお前には勿体ない。

【睡眠】魔法で寝てやがれ!


「ふむ、どうやら男爵は酔い潰れたようだね」


 耳元でそう告げると、シルビアは透明になっている俺の顔を両手で探し出し、キスをしてきた。


 おいおい、周りからはシルビアが一人奇行に走ったと見られ兼ねないぞ?

 急ぎシルビアにも【透明インヴィジブル 】を付与する。

 調整してお互いは認知出来る様にした。


「俺達の事は、んっ、誰にも見えなくなった。

 見えるのはお互いだけだ」


 シルビアは目を閉じキスに夢中で俺の話を聞いていない。

 前にもこんな事があったな。

 確か大浴場で四人の女が来た時だ。

 あの時同様、こうなったら満足させてやるしかあるまい。


 シルビアを後ろ向きで膝の上に座らせる。

 周りに十人くらい人がいるのに、マッサージするってのが無性に興奮するな。


 控え室に行こうかとも考えたが、あー、もう我慢出来ん。

 シルビアにそのまま施術していく。


「どうだ?

 周りに人がいっぱいいるのに恥ずかしい格好をしてるぞ?」


「すごく、恥ずかしいです……

 でも、それ以上に今幸せでいっぱいなんです」


 嬉しい事を言ってくれる子だ。

 そら、ご褒美だ!

 フィニッシュ!


 一人目の治療、完了!


 さて、次はどのテーブルに行こうかな?

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