第61話立入禁止区域
【
誰も気付かないので面白い。
だからと言って、勝手にタンスを開けたりツボを割ったりはしない。
三階は謁見の間、先程の会議室、王や王の家族の部屋があるだけだった。
まさに宮殿。
どこも贅沢な造りだ。
二階に降りると、大臣らが詰める執務室、神官達や魔法省職員の部屋がいくつもある。
他には来賓室があるといったところか。
誰もが忙しく仕事をしていた。
【
一階は広く、礼拝所、兵士詰所、食堂、応接間などのいくつかの部屋がある以外はだだっ広い空間だ。
礼拝所に立ち寄るが今の時間は誰もいなかった。
いつぞやの勇者がエナの前で必死こいて鎧を拭く音を思い出す。
キュッキュッ。
だが、今はエナはいない。
ん?
俺の【探知】では城にはもっと人がいると出ているんだが、封魔効果の魔石からノイズが入るせいかうまく読み取れない。
更に集中していく。
うーむ。
いや、これは……
地下か!
地下に微かに気配を感じるぞ。
地下へは昇降機では行けない様なので、転移装置を探す。
転移用の魔石からはそれ独特の魔力が感じとれる。
その魔力を辿れば、ほらね。
酒蔵が地下へと向かう転移装置の隠し場所という訳か。
さてさて、そこまでしてこの国では何を隠しているのかな?
————ボルストン魔法研究所・立入禁止区域
地下は鋼鉄の壁や床でひんやりとしていた。
少し暗いが、いくつかある部屋から光が漏れているので目が慣れれば何とか進める。
縦横5メートルはあるやや広い廊下を、足跡を立てない様に浮遊しながら奥へと進んでいった。
小窓から適当に部屋を覗くと、魔石やら魔道具やらの研究をしている様子が伺える。
一つの部屋に多くて二、三人。
一人の部屋もある。
研究の機密保持の為のセキュリティ。
それなら合点いく。
更に奥へ進んでいくと、1メートル級の魔石が大量に並べられた空間に出る。
何百あるだろうか。
魔力を感じないのでこれは空の魔石だ。
恐らくは動力源。
しかし、これだけの数を満タンにするのは流石の俺もかなりの魔力を消費しそうではあるが果たして。
廊下の突き当たりに到着する。
20メートルはある巨大な扉だ。
扉の向こうから何か禍々しい魔力を感じるが。
さて、どうする?
この魔力の正体を知ってもいいものかどうか。
知らぬが仏とも言う。
でも、やっぱり気になる。
魔力を込めて扉を押す。
かなりの重量だが、僅かながら動く手応えを感じるので魔力を込め続ける。
ようやく人一人通れる隙間が出来たので身体を滑りこませると、すぐに扉が閉まった。
目の前には信じられない光景が広がっていた。
だだっ広い空間にいくつもの巨大な檻が並んでいる。
その中には体長3メートルはあろう魔獣がいくつもの術式が組み込まれた鎖に繋がれていた。
これは、魔獣から魔力を抽出して魔石に貯める装置なのだ。
しかし、いくら高レベルの魔獣だとしても魔力には限りがある。
すると檻の中にある筒状の鉄管からシュルルと滑る音がし、何かが蓋にガコンとぶつかり開くと、ゴロゴロと黒い影が転がってきた。
何だアレは?
まさか!
顔を布で覆われ手足を拘束されているソレは人間だった!
魔獣はそれに気付くと飛び付き、むさぼり食べ始める。
悪魔や魔獣は、人間の生命力や魔力を自らの魔力に変えるという。
食べ終えるやいなや、組み込まれた術式が光り出し、鎖を通して魔獣から魔力を抽出し始める。
魔獣は苦しい声を上げ悶えていた。
何て事だ。
「断っておきますが、あれは死刑囚ですからね」
!
誰かが話しかけてきた?
【
背後を振り返ると、俺の背丈よりも大きい杖を持つ背の低い子供がいた。
真っ青な法衣にはボルストンの紋章がついている。
法衣帽の下にはサラサラの金髪、眼は澄んだ碧色。
そして、この声は聞いた事があった。
「リンツォイ」
「テツオ
「俺を知っているのか?」
大賢者は屈託無く笑う。
笑顔だけ見れば子供だ。
観念して【
念の為、【
そういえばこいつ特殊な目を持っていなかったか?
「勿論です。
一日で
悪魔を討伐し腐敗貴族を軒並み検挙。
今、ボルストンで一番注目される冒険者ですよ、貴方は。
私もすぐにファンになりました」
見た目は子供だが、胡散臭さを感じるのは気のせいだろうか。
「質問してもいいか?」
「ええ、何なりと」
リンツォイは次々と食べられる人間を横目に涼しい顔をしている。
はっきり言ってグロいからこの場に居たくないんだが、この子は平気なんだろうか。
「どうやって俺の存在に気付いた?」
「ああ、そうですね。
まずこの城には私の結界が張ってあります。
結界内ではどんな魔法でも感知する事ができます。
それでも、
茫然自失と申しますか、これでも一応賢者なので」
とは言っているが、顔色は何一つ変わらない。
魔力の高い者には、エリンやエルメス、マモン等色々会ってきたが、こいつは一味違う感じがする。
「死刑囚だからってこんな殺し方はどうなんだ?
惨すぎると思わないのか?
人権を大事にしろとまでは言わないが、せめてもっと楽に死なせてやれないのか?」
俺の発言に初めて賢者は顔を
「この国で死刑になる者は死刑になるだけの罪を犯したという事です。
我が国の法律では死刑囚は死に方を選べません。
どういった死に方をするかは国が決めます。
そして、私は社会に貢献出来なかった囚人達に一番貢献出来る機会を与えているのです。
この事は王も承認済みなのですよ」
やはり、この世界の常識と俺の常識はかけ離れているようだ。
魔獣に食べられて死刑囚の魂は救われるのだろうか?
続けてリンツォイが聞いてくる。
「次は私から質問を宜しいでしょうか?」
「ええ、何なりと」
「ここは貴族様領主様といえど、国家機密の立入禁止区域です。
何故ここに?」
子供とは思えない厳しい口調で俺を問い詰める。
それについては何とも言えなかった。
地下に人の気配を感じたからとは言えないし。
好奇心でもあるし、人探しでもある。
「人探しですか?」
!
びっくりしたぁ。
こいつまさか読心術使うとか無いよね?
「分かり易い方なんですね、
一気に好感度が上がりましたよ」
子供に好かれても嬉しくないぞ。
「え?
何が分かったんだよ」
「当てていいですか?
ズバリ?
生唾を飲み込んだ。
「エナさんでしょ?」
「だぁっ!
な、なんで?」
「やったぁ!
その顔は正解ですね。
やっぱりなぁ、そうじゃないかと思ったんですよね」
可愛く破顔してキャッキャと笑っている。
こう見ると子供なんだよなぁ。
ったく、こいつどこの少年探偵だよ。
眠りの……とか名前につかないよね。
「何で分かったんだ?」
「そんな目で見ないで下さいよ。
まず、勇者カインさんと会ったエナさんの反応を見て他に想い人がいると分かりました。
次に、村長の家にいた男性と、スーレの村、サルサーレの街で活躍する冒険者の特徴が完全に一致しています。
で、どうしても気になって実はエナさんに思い切って聞いてみたんです。
貴女の想い人はテツオ様ですか?って。
エナさんも今の
ああ、スッキリしました。
でも、これは推理で分かった事で、魔力で見破れなかったのは残念です」
長々と語りやがって。
だが、聞いてみれば俺とエナに繋がる要因はこの子になら見破る事が可能だとは分かった。
「なるほどな。
それで、エナは今どこにいるんだ?
確かに俺はエナを探していたんだ」
「人探しといえど禁止区域に立ち入るのはどうかと思いますが、貸しを作ると思えば安いものかもしれませんね」
おいおい、その貸しで何をさせられるか怖いんだけど。
「エナさんは現在聖女になる為、学生として魔法学院に通っています」
え?学生だって?
エナ、学生さんなの?
詳しく聞いてみると、聖女になる為には魔法の訓練と知識が必要らしい。
村育ちでは圧倒的に魔力、知力が足りないという。
巫女は、天使や神の力をほんの少し借りて奇跡という名の魔法を使う事が出来る。
【探知】や【予知】など役に立つ魔法もあるが、戦闘向きでは無い。
聖女になれば、【回復】【補助】に特化した魔法が使え、少しならば【攻撃魔法】も使える。
戦闘はもちろん、どのシーンでも役に立つ。
この国で言えば、魔法使い、僧侶の上に立つ上級職でその希少価値は賢者に並ぶ。
魔法を使う為に実際にはいくつもの手順があるという事を今になってようやく学んだ。
ありがとう、子供賢者。
エリンはいきなり上級者向けの事しか教えてくれなかったからなぁ。
しかし、一つ引っかかるな。
聖女や賢者は通常自らの魔力を使って魔法を使うのに対して、巫女は天使や神の力を少し借りて魔法を使うと言っている。
借りるって凄くないか?
何かしらの制約があるのかも知れないが、今度調べてみよう。
さて、エナの居場所も分かった事だし、そろそろ行こうかな。
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